正規ストアでは「アップルに苦情が言える」

iPhoneで“他社アプリストア”を解禁してもアップルの収益影響は軽微との分析

Image:Tada Images/Shutterstock.com

アップルがEUの「デジタル市場法」(DMA)による規制に備えて、iPhoneとiPadで他社製のアプリストアを許可する準備を進めているとの噂は、先日お伝えしたばかりだ。具体的には2023年秋の「iOS 17」の一部として導入する見通しとされていた。

では、それがアップルの収益にどれほどのダメージをもたらすのか? 大手金融機関モルガン・スタンレーのアナリストらが「限られたリスク」しかないと述べている、と伝えられている。

米MacRumorsが入手したという研究メモによれば、他社製アプリストアとサイドロード(正規ストア以外からのアプリインストール)は、iPhoneユーザーが「長らくApp Storeがもたらすセキュリティ、集中化、利便性を重視してきた」ことを考えると、App Storeの収益とアップル全体の収益の両方に「限られたリスク」しかないとのことだ。

ここで強調されているのは、DMAは消費者が主導したものではなく、あくまで規制当局が主導したにすぎないことだ。消費者にとっては「App Storeが提供する比類なきセキュリティ、使いやすさ(一元化)、信頼性」を考えると、App Storeに代わる代替ストアへの需要はほとんどないと分析されている。

この研究メモは単なる憶測ではなく、実際にスマートフォンユーザーを対象としたアンケート調査に基づいている。それによればiPhoneユーザーのうち、App Storeではなく開発者のウェブサイトから直接アプリを購入する可能性が非常に高いと回答したのは30%未満だったという。その場合でも、ユーザーはそれに見合う価値があるように、最大35%安い価格を望んでいるそうだ。

またアップルが欧州でApp Storeの収益を全て失うという最悪のシナリオでも、同社は2024年度にサービス収益で4%、総収益で約1%の打撃しか受けないと試算されている。もしも他社製アプリストアが全世界で許可された場合は、サービス収益では約9%、総収益では約2%の打撃を被るとの予想である。

さらにアナリストは、他社製アプリストアで購入されたアプリについても、アップルが手数料を取る可能性が高いと見ている。そのため、現実にはアップルの収益のダメージははるかに小さくなる可能性があるわけだ。

たとえばオランダの出会い系アプリでは、自社App内課金以外の決済方法を認めながらも、アップルは27%もの手数料を請求している。これは標準の手数料(30%)より3%少ないだけであり、外部の決済代行業者に3%の手数料を支払えば使うメリットがないとの批判もあった。

アップルのApp Storeを利用するということは、手数料を上乗せされる対価としてセキュリティーが保証され、最悪の場合でも「アップルに苦情が言える」ことを意味している。そのメリットを捨ててまで外部ストアあるいはWebサイトからの直接購入を選ぶ場合は、ユーザーが値引きを求めるのも自然だろう。

アップルは長年にわたり他社製アプリストアやサイドロードに対し、強硬に反対してきた。しかし仮に許可したとしても、わざわざリスクを取るユーザーはほとんどいないのかもしれない。

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