今後は商用メタバースビジネスに注力

世界初の「軍事メタバース」終了。壮大な構想に力が及ばず

Image:K_E_N/Shutterstock.com

軍がAR/VRなどのハイテク技術の活用を試みることは珍しくなく、数ヶ月前にも米陸軍がマイクロソフトのHololensヘッドセット運用テストに悪戦苦闘していることが報じられていた。しかし、その最先端に位置するはずの「軍事メタバース」に取り組んでいたとある会社が、閉鎖されることになった。

英国に拠点を置くメタバース技術会社Improbaleは、米国にある子会社Improbable U.S. Defense & National Securityを正式に閉鎖することを決定したという。Improbableはソフトバンク等から何度か出資を受けており、有望なVRツール開発企業と見られているようだ。

元Improbableの米国防衛・国家安全保障担当社長兼ゼネラルマネジャーだったケイトリン・ドールマン氏はソフトウェア企業のタングラム・フレックスにCEOへと転職したが、軍事契約を担当する子会社がどうなったかは不明だった。その後ドールマン氏はLinkedInの投稿で、Improbableが「厳しいマクロ経済状況」 を鑑みて「商用メタバースビジネスに再集中」すると決めたと書いている。

とはいえ、「私たちの仕事の質や米国ビジネスの成功を反映したものではない」とかなり不服なようだ。「政府の顧客や業界のパートナーも、当社が提供していた非常にユニークで変革的な合成環境(編注:「メタバース」を意味しているようだ)ソリューションが利用できなくなることに同じく失望している。この決定は、当社の従業員だけでなく、米国の国家安全保障コミュニティにも影響を与える」とも述べているが、前職で失敗したという印象を与えたくないのかもしれない。

では、この「軍事用メタバース」とは何だったのか? Improbable社のサイトには、国家安全保障に特化した「最先端」のソフトウェアを構築していると書かれているだけで、具体的な情報はない。

わずかな手がかりは、サイト内にある合成環境開発プラットフォーム(メタバース)「Skyral」の紹介記事だ。そこに添えられた簡単な動画では、幹部やスタッフらの座談やシステムのPV映像がほとんどを占めており、ほんの数秒だけ軍服を着たぎこちない猫背のアバター兵士が低解像度の訓練施設を歩き回ったり、何かのライフルを持った一人称視点の画面が映されているだけである。

英Financial TimesによるImprobable共同創設者へのインタビュー記事では、人気のミリタリーFPS/TPSのArmaシリーズのような軍事シミュレーターを作る構想を持っていたそうだ。そのVR技術を顧客にライセンス供与したり、米軍や英軍から受注ができると判断したようである。

米Gizmodoのメールに対してImprobableの広報は「マクロ経済状況」のために米国オフィスを閉鎖し、「収益性の高い分野に集中する」と回答。しかし、同社は今なお「巨大なスケールと複雑さの合成環境」と「現実のシミュレーション」を開発し、防衛産業で「メタバース」技術を活用したいそうだ。

上記のドールマン氏は、11月に政治情報メディアPoliticoの幹部と対談している。その場で自社の技術は国の軍事能力を「テスト」し、軍隊を「訓練」するために使えること。そしてSkyralは「大規模な分散型シミュレーション」用のツールを用意していると壮大な構想を語っていたのである。

全世界の公的機関はメタバースに興味を示しているが、どこまで本気であるかは不明である。たとえば国際刑事警察機構ことインターポールは、11月に初の「グローバルな警察メタバース」を発表したが、披露されたデモはセカンドライフの初期ベータ版よりメタバースを感じられないとの指摘もある

またEUの対外援助部門が38万7000ユーロ(約5600万円)かけたメタバースのイベントに、たった6人しか集まらなかったとの証言もある。

メタバースに社運を賭けているというMetaの行く末も、気長に見守りたいところだ。

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