担当刑事は被害者の「直感」を鵜呑み

米SWAT、iPhoneの「探す」アプリを頼りに無実の77歳女性宅に突入してしまう

Image:leksey H/Shutterstock.com

アップル製品は「探す(Find My)」ネットワークにより紛失時にも位置が特定しやすく、時には犯罪捜査に貢献することもある。つい先日も、盗難車の中に置き忘れたAirTagが犯人逮捕のきっかけとなったとの報道もあった

しかし、逆に「探す」アプリを不用意に使ったために、誤って高齢の女性宅にSWATが突入してしまい、警察が訴えられる事件が起きることになった。

今年1月4日(現地時間)、米コロラド州在住の女性ルビー・ジョンソン氏(77歳)が玄関のドアを開けると、芝生の上にSWATチームが集まっていたという。その時は何が起こったのか誰も教えてくれないまま、彼女は何時間もパトカーに閉じ込められ、毎日薬を飲んでいる時間帯に水一杯も飲ませてもらえなかったそうだ。

その前日、同州デンバーのハイアットホテルからトラックが盗まれた。所有者によると、銃器6丁、ドローン2機、現金4000ドル、そしてiPhone11が入っていたそうだ。そしてデンバー警察のゲーリー・スターブ刑事が事情聴取を行ったところ、「探す」アプリが前日に2回、住宅地のある地域で反応していたと語ったとのことだ。

もっとも「探す」アプリは正確な住所を特定していたわけではなく、青い円を広く描いて「この辺りにある」と示唆していたけだった。ジョンソン氏の自宅は円の中にあっただけで、それ以外は何の証拠もなかったのである。

しかし被害者はレンタカーを借りて、アプリが示した地図の半径約4ブロックを巡回。そして自分のトラックがこの近くにあるとすれば、ジョンソン氏のガレージ内に駐車していると判断したという。事件を担当したスターブ刑事は、被害者の単なる直感を確かな証拠として採用し、ジョンソン氏の家宅を捜索する宣誓供述書を作成したとのことだ。

その結果、ジョンソン氏はパトカーに乗せられ、SWATによりガレージのドアとドアフレームは破壊。さらに家屋内が捜索された際に人形のコレクションを含む財産も壊されたが、盗品は1つもなかった。

ジョンソン氏は先週、捜索そのものと破壊につきスターブ刑事への訴えを起こした。訴状の主張によれば、スターブ刑事の宣誓供述書が、州憲法で認められているジョンソン氏の「不当な捜索や押収を受けない」権利を侵害したとされている。

また訴状では、スターブ刑事が独自の裏付け調査もなしに捜査令状を取り、SWATチームにジョンソン氏の自宅を捜索するように指示したと主張。そして捜索令状を審査する人たちに「探す」アプリの仕組みを説明する時間を取っていたら、青い円は「デバイスの位置を正確に特定できない場合にのみ」表示されることが分かったはずだとも述べられている。

「証拠」とされた画面のスクリーンショットも残っているそうだが、それは明らかに「iPhoneがジョンソン氏の家の中にあったことを示すものではなく」、「青い円は少なくとも6つの異なる土地と4つのブロックの一部にまたがるエリアを覆っていた」とのことだ。

さらに訴状では、スターブ刑事も警察署も謝罪しておらず、捜索による修理費の支払いも拒否していると主張されている。一方で、訴訟の提起を受けてデンバー警察と公安局は「この状況がジョンソン氏に与えたかもしれない負の影響について、心から謝罪する」との声明を発表している。

犯罪捜査の頼もしい味方のようにも思えた「探す」ネットワークだが、一歩間違えば無実の人々にあらぬ疑いを掛けるばかりか、財産および精神的な被害をもたらす諸刃の刃にもなる危うさが露呈した格好である。

もっとも、元々アップル製品もアプリも犯罪捜査のために設計されたわけではない。警察や法執行機関がその仕組みを理解し、人権に配慮して慎重に捜査することが求められるのだろう。

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