コーデックを買えなくても改善の余地はある

アップル、AirPods Pro 2のロスレス非対応を問われ「コーデックを変えなくても進化できる」

Image:Apple

今年(2022年)9月に発売された第2世代AirPods Pro(以下、「AirPods Pro 2」)は音質が向上したと好評ながらも、一部で予想されていたロスレス再生への対応はなかった。アップルがBluetoothとは別の独自プロトコルを開発中との噂もあるが、今のところ公式には何の動きもない。

そんななか、アップルのエンジニアがAirPods Pro 2でロスレス再生がサポートされていないことに言及した(直接の言及を避けた?)インタビューが公表されている。

アップルの音響チームに所属するエスゲ・アンダーセン氏は、オーディオ関連メディアWhat Hi-Fi? の取材に応じている。同誌はAirPods Pro 2を、ソニーやボーズ、ゼンハイザーなど競合他社の最高級製品と肩を並べると評価していた。

このインタビューでWhat Hi-Fi?は、ハイレゾオーディオと対応コーデックについて質問を投げかけている。Apple Musicでは約1億曲をロスレスのハイレゾ音源で配信しているのに、AirPods Pro 2ではロスレス再生できず、矛盾しているというのだ。

アンダーセン氏はそれに直接答えることを避けて「コーデックを変えなくても、大きな進歩を遂げることができることを理解するのが重要だ」と述べている。それは「あらゆる環境下で信頼性のあるものを作る」という意味だそうだ。

さらに「我々は音質を前面に押し出したいと考えており、それは他の多くの要素で実現できる。現在のところ、コーデックがBluetooth製品の音質を制限しているとは考えていない」とのことだ。

この発言について、What Hi-Fi?は「はぐらかしている」と辛らつだ。「様々なユースケース、何百万人もの人々のもとで滞りなく動作することを望むなら、信頼性の優先度が高い」というアップルの姿勢には理解を示しつつも、競合他社がLDAC、MQair、aptX Losslessなど高音質コーデックを投入しているなか、同社が新たなコーデックに取り組まないのは「物足りなさを感じる」と述べている。

とはいえ、アンダーセン氏が語るAirPods Pro 2の音質向上に注ぎ込まれた工夫や労力の数々には、とても興味深いものがある。

まずエアフロー(空気の流れ)の改善だ。AirPods Pro 2の構造は初代モデルと実質的には同じながら、マイクの位置が変わったほか、通気口が従来の2つ(前面と背面)から1つになり、よりシンプルになった。

空気の流れを重視するのはオーディオ製品と同じ考え方で、「スピーカーの音をよりクリーンで開放的にし、音に影響を与える不要なノイズを減らし、高域と低域をできるだけクリアかつ低歪みで拡張する」ことを実現しているそうだ。

またアンダーセン氏は、アップル社内に「エキスパートリスナー」と呼ばれるスタッフがいて、複数の人々が音質について意見を出していることを明らかにしている。それでも最終的には、万人にとって完璧なものを作ることはできないので「多少の妥協は必要だ」とも述べている。

これらの努力は「すべての人にAirPods Maxをポケットに入れてもらいたかった」ことが原動力だったという。たしかに最上位モデルのAirPods Maxでも、有線接続でさえロスレス再生には対応していないため、その仕様を超えることは目指していなかったのかもしれない。

また、もしもアップルが社内で独自コーデックや独自プロトコルを開発中だとしても、こうしたインタビューで公に認めることは、同社の厳しい秘密主義から考えてあり得ないだろう。今後も続報を待ちたいところだ。

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