【連載】西田宗千佳のネクストゲート 第15回
激安なAmazonデバイス、あえて安くない新Fire TV Cubeを推すわけ
Amazonは、オーディオやビデオ系のハードとサービスの拡充を進めている。10月末日には「Fire TV Cube」の第3世代、および「Echo Studio」の新色グレーシャーホワイトを発売した。
さらに11月1日からは、シャッフル再生に限るものの、プライム会員特典となるAmazon Musicの再生可能楽曲数が「1億曲」に拡大した。
これらは一体、どういった意味を持つのか。実際にFire TV Cubeを触りながら考えてみた。
日本でもシェアが大きな「Amazon Prime Video」
日本でもっともシェアの大きな映像配信サービスはなにか? Amazonは自身で契約者数を発表していないものの、外部機関の複数の調査によると、有料配信でのトップシェアは「Amazon Prime Video」であることは間違いない。しかも他社に対して、かなり大きな差をつけてのトップとみられる。
世界的に見ればNetflixがトップシェアだが、日本ではAmazonが一位で、Netflixはそれに続き二位、との見方が有力だ。
日本でAmazon Prime Videoがトップになった理由はシンプルだ。ショッピングや音楽などとセットで、しかも他社サービスより安い。かといってコンテンツが少ないわけではなく、むしろ国内向けのオリジナル・バラエティ番組なども充実している。昨今はスポーツにも力をいれ、11月1日には、日本人同士のWBC・WBA世界ライトフライ級王座統一戦である、寺地拳四朗 vs 京口紘人戦がライブ配信されている。
実際には配信サービスの場合、「どれか1つだけ」の人は少なく、2つ以上加入している人も多い。だがその選び方として、多くが「シェア1位とどれか」という組み合わせになっており、そこで最初に選ばれるのがAmazon Prime Video、ということが多い。
この種のサービスの特徴として、最初のうちはスマートフォンやPCで見ているものの、そのうちテレビで見たくなってくる。加入からの時間が長ければ長いほど、テレビで視聴する人が増えていく傾向にある。
そう考えると、Amazonが「テレビでPrime Videoを視聴するための機器」を積極的に売るのもうなずける。そしてそのハードに相乗りする形で、他の映像配信もアプリ経由で利用される。Amazonのハードが普及することは、他の映像配信事業者にとってもマイナスではないのだ。
なぜAmazonのハードは安いのか
Amazonのハードウェアの特徴として、「安い」という点がある。一番安価な「Fire TV Stick」は4980円で、4K対応の「Fire TV Stick 4K Max」ですら6980円だ。
安価である理由は、ハードウェア自体では、あまり利益を確保していないからである。Amazonにとっては、ハードを買ってAmazonのサービス(特にプライム会員)を使い続けてくれればいい。
Amazonのハードウェア事業責任者である、デバイス&サービス担当上級副社長のDave Limp氏は、筆者とのインタビューで次のように答えている。
「ハードウェア自体で利益を得ない、という方法論は、非常に気に入っているやり方だ。これからも続ける。このモデルでは顧客との関係を継続しやすく、ソフトウェアのアップデートで価値を提供しやすい。売り切りと違い、長くアップデートしつつハードウェアの提供を続けられる」
つまりハードウェア自体に大きな利益をのせて販売しないので、いつソフトをアップデートして価値を向上させても、それまで売った製品の価値が失われない、ということだ。
事実、Fire TVのユーザーインターフェースは最近大きく変えられた。さらにEcho Studioについても、アップデートでステレオ音源を「空間オーディオ」として聴く際の品質が大幅に向上している。
どうせ買うなら快適な「Fire TV Cube」
もちろん、市場で一番売れるのは安価な「Fire TV Stick」である。数千円で買えるのであれば、多くの人が欲しいと思うのも当然に思える。
ただ正直な話、筆者としては数千円でFire TV Stickを買うよりも、最上位のFire TV Cubeを約2万円で買った方が満足度は高いだろうと思う。その理由は動作速度だ。
動画配信で見たいものを探すためには、リモコンであちこちに移動することが多い。安価な製品は動作が遅く、少しイライラする。これしかない、ということなら仕方ないのだが、もっと快適なものがあるとわかっているなら、それを選んだ方が「精神的コスパ」がいい。
以前はそういう意味だと「Apple TV」の一択だったが、Fire TV Cubeは今回の第3世代で非常に快適になったので、これも十分お勧めできる。
さらにFire TV Cubeの場合、Alexaによるスマートスピーカー(すなわちEcho)としての機能もあるので、スマートホーム機器との連動やテレビのオンオフなども音声だけで行える。
後ろを見ると「HDMI In」があるが、別に録画したり映像のキャプチャができたりするわけではない。これは主に「チューナー用」となっている。
特にアメリカ市場などでは、地上波よりもケーブルTVの方が多く見られているため、テレビ内蔵のチューナーはほとんど使われていない。外付けのチューナーを簡単に操作するためにも、Fire TV Cubeにチューナーをつなぎ、Fire TV Cubeのリモコンで操作することになる。日本でも同じようにケーブルテレビのチューナーをつないで使えるし、BDプレイヤーなどをつないでもいい。
今回のモデルは本当にコストパフォーマンスが良く、「Amazon Prime Videoがメインに利用しているサービス」である人にはファーストチョイス、と言ってもいいだろう。
「Alexa対応音声認識リモコン Pro」でショートカットを2つ増やそう
同時別売の「Alexa対応音声認識リモコン Pro」(11月16日発売)も借りたので、こちらにも少し言及しておこう。
Fire TV Cube付属のリモコンとはかなり機能が近いので、本来はFire TV Stickの利用者向け、といった方がいいかもしれない。ただ大きく違うのは、2つの「ショートカットボタン」があることだ。ここに自分の好きなアプリを割り当てたり、よく使う音声コマンド(「エアコン消して」など)を割り当てたりできる。
最近はリモコンに映像配信アプリを呼び出す専用ボタンがつくようになったが、このボタンにないサービスを登録し直すことはできなかった。なので、Amazon Prime VideoとAmazonMusic、Netflix、ABEMA以外を使う方は、このリモコン Proで、好きなサービスを追加するといいだろう。そこに4000円は、確かにちょっと高いが…。