【連載】佐野正弘のITインサイト 第29回

タブレットが“市場消滅”の危機から復活できた理由

今年9月に新iPhoneなどを発表したばかりの米アップルだが、翌月の10月18日にも新製品をいくつか発表した。中でも注目を集めたのは、タブレット端末である「iPad」「iPad Pro」の新機種であろう。

プロユースに向けたハイエンドモデルとなるiPad Proは、チップセットに「M2」を搭載してベースの性能強化を図るなど、順当な進化を遂げたモデルとなっている。

一方で、エントリーモデルとなる第10世代のiPadは劇的な変化を遂げており、従来のiPadに搭載されていたホームボタンやLightning端子が廃止された。Touch ID用の指紋センサーは電源ボタンと一体になり、新たにUSB Type-C端子が採用されるなど、ボディデザインが「iPad Air」と同じものに変化している。

アップルが新たに発表した第10世代「iPad」。デザインやインターフェースなどがiPad Airと同等になるなど、大幅なリニューアルが図られている

そして第10世代iPadは、大幅なリニューアルに加え円安の影響もあり、6万8800円と、もはやエントリーモデルとは言えない価格になってしまったことでも話題になったようだ。その内容と価格に対して、消費者がどのような評価を下すかが注目される。

近年活発化するタブレット市場の動向

だが今年2022年、正確に言えば2021年の半ば頃から、タブレットを巡る市場動向が劇的に変化していることはご存じだろうか。アップル以外のメーカーが、タブレット新製品を投入するという動きが、近頃非常に活発化しているのだ。

実際、2021年10月には中国のシャオミが、ハイエンドの性能を持つ「Xiaomi Pad 5」で国内のタブレット市場に初参入。同社は、アップルが新しいiPadを発表した3日後の10月21日にも、性能が抑えめな分、希望小売価格が最も安いモデルで3万9,800円と4万円を切る「Redmi Pad」を投入することを発表。タブレットを継続的に投入していこうとしている意向が見て取れる。

シャオミは2021年に日本のタブレット市場に初参入。2022年にも10月28日に、新機種「Redmi Pad」を発売することを発表している

また、今年4月には韓国サムスン電子が、国内向けとしては約7年ぶりとなるタブレット「Galaxy Tab S8+」を投入。6月にはより上位の「Galaxy Tab S8 Ultra」も投入しており、やはりタブレットを強化しようとしている様子がうかがえる。

サムスン電子は2022年、およそ7年ぶりにタブレット新機種「Galaxy Tab S8+」を国内投入し、注目を集めた

さらに今年9月には、中国OPPO(オッポ)が「OPPO Pad Air」で、やはり国内のタブレット市場に初参入を表明。NTTドコモも、5G対応のタブレット「dtab」「dtab Compact」を、11月以降順次投入することを明らかにしているし、2023年にはグーグルが「Pixel Tablet」を投入予定だ。いかにタブレット市場に新規参入、あるいは力を入れようとする動きが相次いでいるかが、よく分かるのではないだろうか。

OPPOも「OPPO Pad Air」で2022年に国内タブレット市場に初参入。性能は高くはないものの、4万円を切る低価格で勝負に出ている

実はそれ以前のタブレット市場は、正直なところ著しく盛り下がっていたといっても過言ではない状況だった。国内のタブレット市場を見ると、コンシューマー向けはほぼアップルの独壇場となっており、他のメーカーといえばレノボ・ジャパンや、NECパーソナルコンピュータなどの中国レノボグループが、低価格のタブレットを提供する程度に過ぎなかったのだ。

かつては、スマートフォンと同様に大きな注目を集めたタブレットが、なぜそこまで盛り下がってしまったのかといえば、理由の1つは利用用途の幅が広がらなかったことである。

コンシューマー向けタブレットの主な利用用途は、自宅での動画視聴などに限定され、高い性能も求められなかった。そのため、コミュニケーションからゲーム、決済など利用用途が大きく広がり、高い性能が求められるようになったスマートフォンと比べ、付加価値を付けるのが難しくなってしまったのだ。

そしてもう1つは、急激な低価格化だ。タブレットに高い性能も付加価値も求められなくなったことから、スマートフォン以上に価格競争が激化。撤退するメーカーが相次いだことで、タブレットを提供する企業自体が大幅に減少してしまったのである。

結果として市場には、低価格タブレットを提供できる体力のあるメーカーと、教育市場の開拓や「iPad Pro」によるビジネス市場開拓などで付加価値を高めたアップルだけが残り、市場も大幅に盛り下がってしまったわけだ。一時は折り畳みスマートフォンなどの台頭で、タブレットの市場自体が消滅してしまうことさえ危惧されたほどである。

アップルが「iPad Pro」シリーズを投入したのも、コンシューマー向けiPadの販売に限界が出てきたことで、新たな市場を開拓する狙いが大きかったといえる

急速に高まるタブレット需要の要因とは

それがなぜ一転して、タブレット市場が急速に盛り上がったのかといえば、やはりコロナ禍の影響が大きいだろう。コロナ禍により自宅で過ごす時間が増え、自宅でコンテンツを楽しむタブレットの重要性が高まったというのも要因としては大きいが、より大きいのはリモート需要の高まりであろう。

コロナ禍によって「Zoom」などのビデオ会議などを使い、直接会うことができない友達や家族とコミュニケーションを取ったり、リモートで会議をしたり、授業を受けたりする機会が急速に増えたことは多くの人が感じていることだろう。そうしたビデオ会議ツールは、もちろんパソコンやスマートフォンでも利用できるのだが、パソコンは環境の整備や設定に手間がかかるし、スマートフォンでは画面が小さく、多くの人が参加した時などに見づらいという弱点がある。

だがタブレットであれば、スマートフォンとOSのベースが同じなので、アプリをインストールさえすればビデオ会議が利用できる。パソコンのように手間がかからず、それでいて大画面といった手軽さから、タブレットが支持された側面も大きい。

実際、ここ最近のタブレット新製品を見ると、ビデオ会議がしやすいようスタンドが付属したり、声がクリアに聞こえるようマイク性能が強化されたりなど、ビデオ会議を意識した機能・性能を備えるものが増えている。

アイリスオーヤマが2022年9月に発売した「LUCAタブレット TM152M8N1」。15.6インチと非常に大きな画面でサイズも大きい異色のタブレットだが、リモート需要を意識してこのサイズになったとのこと

ただ懸念されるのは、タブレットがコロナ禍によって復活を果たしただけに、コロナ禍が落ち着いていくであろう今後、「タブレットの市場が再び縮小してしまうのでは?」ということ。もちろんビデオ会議やリモートワークなどは一部で定着してきており、今後需要がなくなることはないだろうが、コロナ禍が落ち着いた後、その規模がどの程度になるか、現時点での見通しは難しい。タブレットの市場が今後も発展していくためにも、メーカーは新たな需要開拓が求められるところだ。

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