FPSゲーム職人だけにフレームレート重視
元Oculus CTOのカーマック氏、MetaのメタバースやQuest Proの価格に苦言
元OculusのCTOであるジョン・カーマック氏(現在はMetaの「エクゼクティブアドバイザー)が講演を行い、Metaによるメタバースの現状や高級ヘッドセット「Quest Pro」の価格戦略について苦言を呈している。
カーマック氏はOculus(後にFacebookにより買収)のVRプロジェクトに最初期から関わり、かつFPSゲームジャンルの生みの親としても知られるプログラマーだ。3次元グラフィックに革新をもたらした実績もあり、サムスンと共同開発のGear VRでソフトウェア部分を担当したこともあった。
昨年カーマック氏は、2022年のMeta Connectイベントまでに「複数のプラットフォームでフィードを取得する何千人もの人々の前で、(仮想)ホールを歩き回ったり、自分のアバターでステージを歩き回りたい」と語っていた。その夢は叶わず、今年カーマックのアバターは無人の空間で、たった1人で話すことになったのだ(Facebook動画として配信)。
カーマック氏は台本なしの講演で、現在のMetaのVRハードウェアとソフトウェアについて「不機嫌なことが山ほどある」と述べている。最近の改善点やVRの将来への期待により多少和らいだものの、総じて不満を抱いているようだ。
たとえばザッカーバーグCEOのConnectでのプレゼンを「Horizon World」のルームで数十人と一緒に見ることは、散らかったノートPCの画面で見るよりは「いくつかの真の利点」があるという。が、それは彼のめざす「完全に均一に共有された世界で、何千ものアバターが、少なくとも何百もの大きな部屋を動き回りながら楽しむ」こととは程遠い。
カーマック氏は、真のバーチャル会議空間を実現できれば、対面式の会議を開くよりも「無料でヘッドセットを提供するだけで、十分な成果を上げられる」という。それほど広く世界を共有することは技術的に難しい課題であり「今は間違いなく対応できないが、乗り越えられない(チャレンジ)ではない」とのことだ。
また講演では、今年8月にザッカーバーグ氏の自撮りアバターに世界中からツッコミの嵐が巻き起こったことにも触れられている。この反応を受けて、Meta社内では多くの人が、最高品質のアバター以外を見せたくないと被害妄想に陥っているそうだ。
しかしカーマック氏は、写実的なアバターを追求する姿勢に対して懐疑的である。Metaが推進するフォトリアリスティックなものよりも、ディテールの乏しいアバターが大勢いる方が望ましいという。
なぜなら、写実的であるほどプロセッサーの処理能力を消費してしまうからだ。「ヘッドセットのリソースには限りがあり、クラウド・レンダリング(外部サーバーによる描画)では救えない場合が多い」ため、カーマック氏は質より量の最適化に力を注いでいるとのことだ。
またカーマック氏の矛先は、高価かつ高機能のQuest Proにも向けられている。自分は常に、費用対効果の高い大衆向けヘッドセットこそが、会社やVRの普及にとって最も重要なことだと主張してきたと振り返る。「そしてQuest Proは間違いなくそれではない」という。
Meta社内でQuest Proを推す声に対抗して、同氏は超安価で超軽量のヘッドセットを提唱しているそうだ。よけいな機能をなるべく削ぎ落とし、かつ実用に耐える「250ドル、250g」を目標としているそうだ。なお、Quest Proは「非常に優れたエンジニアリング」と賞賛されており、ハードウェアの評価が低いわけではない。
それでもカーマック氏はVR市場のローエンド(一般向け製品)は、1499ドルのハイエンドよりはるかに重要だと示唆しているのである。
さらに批判はQuestヘッドセットで友人らと交流する「Horizon Home」にも及び、ビジュアル品質に不満が表明されている。美しさというよりも滑らかさが欠けている点を問題だと指摘し、「目標である90fpsに固定されることはほとんどない。VRを使うたびに悩まされている」とのことだ。
そのほかカーマック氏は、Meta社員が古いヘッドセットをConnectイベントに間に合わせるために20分もかけて何度も再起動したという社内投稿を紹介したり、Horizonの部屋に誰かを招待すると、相手が空間に入るまでに1分ほどかかるなどの体験を語っている。そこは、『Doom』や『Quaek』など数々の名作FPSゲームを手がけ、多くのプレーヤーを快適に遊ばせた職人ゆえのこだわりかもしれない。
- Source: Facebook
- via: Ars Technica