開発者のケン・コシエンダ氏が語る

初代iPhoneに“コピペ機能”がなかった理由は「時間がなかったから」

Image:marleyPug/Shutterstock.com

初代iPhoneが発表されたのは15年前のことだが、発売当初はコピー&ペースト(通称コピペ)が使えなかった(2009年のiPhone OS 3.0で対応)。他社のBlackBerryやPalm、Windows CEでは利用できただけに、不思議がられていた経緯がある。

この謎につき、元アップルのヒューマンインターフェース担当のケン・コシエンダ(Ken Kocienda)氏がTwitterにて舞台裏の事情を解き明かしている。

コシエンダ氏は2001年にアップルに入社し、iPhoneを支える重要なエンジニアの一人だった。それ以前には純正Webブラウザ「Safari」開発チームに属しており、初代iPhoneの開発において重要な役割を果たしたことが知られている。

アップルがなぜ同社初のスマートフォンをコピペなしで出荷したのか。コシエンダ氏の回答は「そんな時間はなかったからだ」と簡潔だ。もちろん、話はそれだけに留まらない。

なぜ時間がなかったのかといえば、開発チームはiPhoneのバーチャルキーボードとオートコレクト(自動修正)システムを作るのに忙しかったからだ。コシエンダ氏のチームはiPhone発売後にようやくコピペ機能への着手を決めたが、ユーザーに提供できるまでには時間がかかったという。

コピペをする際には、テキスト上のカーソル位置を正確に知ることが必要だ。コシエンダ氏らはそのために「拡大文字ルーペ」なるアイディアを思いついたそうだ。とはいえ、iPhoneの画面から指を離した後に、自然な揺れで動いてしまうカーソルに頭を悩ませたとのことだ。

そこでチームは、テキスト編集のためだけに「タッチ履歴ログ」を開発することになった。これにより、 “最後にタッチした数ミリ秒後の指の位置” を自動的に検出し(揺らぎを織り込み補正する)、ユーザーが本当に望む場所にカーソルを留められるようになったと説明されている。

ほかにもiPhoneの文字入力エピソードで興味深いのは、元々すべてのスタイル付きテキストはWebKit(Safariの描画エンジン)をベースにしていたことだ。つまりアプリがカスタムフォントを使うたび「小さなWebページを表示してテキストをレンダリングしていた」わけだ。テキスト入力欄が編集モードでないときは、CPUやRAM、バッテリーを節約するため、静止画像が表示されていたという。

また当時は、タッチスクリーン機器が普及しておらずユーザーが不慣れで、触覚フィードバックもなかった(入力の受け付けをユーザーに返せない)。開発チームは画面上に表示されるボタンよりも大きな “仮想領域” を実装することで、ユーザーがボタンに正確に触れていなくても、iPhoneはタッチを認識できたというわけだ。

初代iPhoneの開発過程については、コシエンダ氏の著書『Creative Selection Apple 創造を生む力』に詳しく書かれている。限られた技術リソースをやりくりしてユーザーに不自由を感じさせない工夫は、今でも学べるところが多そうだ。

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