【連載】佐野正弘のITインサイト 第26回

衛星通信で一発逆転ねらう楽天モバイル。野心的計画の成否を占う

最近になって、携帯電話業界でにわかに注目が高まっている衛星通信。衛星を活用することで、地上に基地局がなく携帯電波の電波が飛んでいない場所でも、全国、さらには全世界の津々浦々までカバーできるというものだ。

だがここ最近、これをスマートフォンに活用し、従来以上に広いエリアで通信できるようにしようという動きが活発になってきている。

衛星通信で注目を集める「楽天モバイル」

その衛星通信を巡って、最近注目されているのが楽天モバイルである。楽天モバイルの親会社である楽天グループは、2020年3月に衛星通信事業を手掛けるベンチャー企業の米AST&Scienceに出資。衛星と携帯電話を直接つないで、全国どこからでも通話や通信を実現できるようにする「スペースモバイル計画」を掲げており、新規参入で不利とされているエリアカバーを、衛星通信で一気に挽回する動きとして関心が寄せられている。

楽天モバイルは衛星とスマートフォンを直接つないで通信することで、従来以上に広範囲のエリアをカバーする「スペースモバイル計画」を打ち出し、注目されている

そして、先日9月28日から2日間にわたって実施された楽天グループのビジネスイベント「Rakuten Optimism 2022」では、楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏が、基調講演でスペースモバイル計画について触れ、AST&Scienceが試験衛星「BlueWalker 3」の打ち上げに成功し、スペースモバイル計画の準備が着々と進んでいる様子を示したことに加えて、実現する通信速度に関しても言及がなされたのだ。

「Rakuten Optimism 2022」での三木谷氏基調講演より。試験衛星の「BlueWalker 3」の打ち上げに成功し、スペースモバイル計画が順調に進んでいる様子をアピールしていた

三木谷氏はこの講演で、スペースモバイル計画で2Mbps程度の通信速度を実現し、YouTubeの動画程度であれば視聴もできると説明している。これは普段、数百Mbpsの通信速度に慣れている日本の多くのユーザーからすれば、非常に遅いように思えるのだが、衛星とスマートフォンを直接つないで通信することを考えると、非常に高速なのである。

そもそも、地上から非常に遠い場所にある衛星と、手のひらサイズのスマートフォンが通信するというのは非常に難しいこと。最近では、衛星を高度2,000km以下の低い軌道で飛ばすことにより、そうした小さな端末と直接通信ができるようにはなったのだが、それでも通常の基地局と比べれば距離が非常に離れていることに変わりはなく、地上並みの高速大容量通信を実現するにはハードルが非常に高いのだ。

その難しさは、既に公表されている同種の衛星通信サービスを見ると良く分かる。例えば、今年9月に発売されたアップル「iPhone 14」シリーズは、衛星と直接通信する仕組みを備えたことで話題となったが、基本的には緊急時のSOSを発信することしかできず、発信する際も専用アプリの指示に従ってiPhoneを特定の方向に向け、さらに15秒以上の時間をかけて送信する必要があるなど、かなりの時間と手間がかかる様子がうかがえる。

2022年9月に発売された「iPhone 14」シリーズには衛星通信による緊急SOSを送信できる機能が備わっているが、送信するにはアプリの指示に従って衛星に端末を向ける必要があり、通信にも時間がかかる

また米国では、今年8月に実業家のイーロン・マスク氏が率いるSpace Exploration Technologies(スペースX)と、米国の携帯大手である独ドイツテレコムの米国法人(TモバイルUS)が提携し、衛星とスマートフォンを直接つないで通信できるサービスの提供を目指すことを発表している。だが、こちらもサービス開始当初はテキストの送受信のみができるとされており、動画視聴などはできない。

こうしたサービスと比べてみれば、当初からYouTubeも視聴できる通信速度の実現を目指すという三木谷氏が掲げた内容が、いかに意欲的なものであるかが分かるだろう。しかしなぜ、楽天モバイルのスペースモバイル計画では、それだけの高速通信を実現できるのだろうか。

高速通信を実現できる理由

その理由は、衛星のサイズにある。楽天モバイルがスペースモバイル計画に用いる衛星は、衛星のサイズ自体が10×10mとテニスコートくらいの面積を持っており、その大半の部分をアンテナが占めている。つまり、端末側ではなく衛星側のアンテナを巨大化することで、離れた場所からでもスマートフォンと直接つないで、安定かつ高速な通信を可能にしようとしているのだ。

AST&ScienceのWebサイトより。同社が打ち上げた試験衛星「BlueWalker 3」は、展開するとテニスコートくらいの面積があり、その大半をアンテナが占めている

ただ、それだけ大きなサイズの衛星をロケットで打ち上げることはできないので、実際にはアンテナが畳まれた状態で打ち上げた後、時間をかけて徐々にアンテナを開いていく仕組みとなる。そうしたことから、先に触れた通り既に試験衛星の打ち上げには成功しているが、現在はアンテナが開くのを待っている状態のようで、実際に通信などの試験を始めるのはもう少し先になるようだ。

もしスペースモバイル計画が三木谷氏の説明通りのスペックで実現すれば、モバイル通信における衛星通信の活用が大きく加速することは確かだが、その成功に向けては課題も多い。そもそも、特定の軌道を回り続ける衛星1基だけで全世界をカバーすることはできず、エリアを広げるには打ち上げる衛星の数自体を増やしていく必要がある。

実際、スペースXが既にサービスを提供しており、携帯電話のバックホール回線などに活用されている衛星群「Starlink」は、広いエリアをカバーするため既に1,000を超える衛星を打ち上げている。スペースモバイル計画でも、168基の打ち上げを予定しているようで、実際のサービス提供に向けては、今後かなりの数の衛星を打ち上げる必要がある。

スペースXの「Starlink」は1,000を超える衛星群から構成されており、それを用いた通信サービスは、KDDIが基地局とコアネットワークをつなぐバックホール回線に用いるなど、世界的に活用が広がっている

だが、そのためには資金が必要で、これまでにも多くの衛星通信事業者が資金不足で経営破綻するケースが少なからずあった。最近では技術革新などにより従来よりも低コストで衛星を打ち上げる技術が確立されているようだが、それでも非常に大きな初期投資がかかることには変わりはない。

とりわけ楽天モバイルは、地上の基地局でも先行投資で赤字が続き、経営的には苦しい状況にある。スペースモバイル計画は、2023年以降の実現を見込んでいるようだが、サービス提供が遅れるほど投資も続かなくなるだけに、実現までのスピードが成否を大きく分けることになりそうだ。

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