音響のリアリティに焦点技術など

アップルの本命とおぼしき「ARグラス」、音質や快適性などこだわり多数か

Image:nan palmero

アップルは長年にわたりAR/VRヘッドセットを開発していると噂されており、ついに取締役会にてデモが行われ、発表も間近かもしれないとの報道もあった。だが、同社の本命は大きく重いヘッドセットよりも、小型かつ軽量なARグラス(通称「アップルグラス」)との見方も有力である。

そうしたヘッドセットやARグラス関連と思しき複数の特許を、同社が取得していることが明らかとなった。

まず2020年9月に取得した特許「仮想インタラクションのためのフィードバック調整」は、ARやVR世界での、音響のリアリティに焦点を当てたものだ。たとえばコンサート会場に行ったとき、柱で隠れる安い席と、高価な最前列の席では、演奏の聞こえ方が違う。こういった、場所に応じて異なる「音楽演奏の時間的精度を向上させる」ことで、音楽の品質とユーザー体験を高めようというのだ。

特許文書では、この処理を「量子化」と読んでいる。そして量子化により、その場所に応じた聞こえ方に修正し、「演奏者の意図や音楽の構造により合致」させる、精密なオーディオを目指しているというのだ。

またスピーカーやヘッドフォンといったハードウェアの構造上、あるいはデータ転送の遅延も考慮に入れて……と細々とした配慮が並べられているが、目的は「リアルなサウンドの再現」とシンプルそのものだ。

第2の特許は2020年に取得され、その後に細かい修正箇所もUSPTO(米特許商標庁)に承認された「ディスプレイデバイス用の構造サーマルソリューション」というものだ。手短にいえば内に熱がこもりがちで、プロセッサなども熱を発しやすいAR/VR機器で、装着している人を涼しく保つことを目的としている。

それに加えて「適切な冷却と放熱が行われないと、パネル(高価で交換が難しい)は時間とともに劣化し、しばしば修復不可能な損傷やシステムの故障につながる」とも付け加えている。短時間の使用のみならず、デバイスを長期にわたり動作させることも考えられているのだ。

さらにアップルは、既存のシステムがヒートシンクなどの追加部品を組み込んでいることを指摘している。だが、それではシステム全体が重くなってしまうので問題がある、というのだ。そこで提案されたソリューションは「構造部品にサーマルソリューション(熱対策)を統合したディスプレイシステムを使うこと」と述べている。

つまりディスプレイをそのものに放熱機構を組み込むことで、「全体的な部品数、複雑さ、重量を減らすだけでなく、熱伝導率を高め、熱管理を改善して動作温度を下げ、システムの使用可能期間を延ばせる」とのことだ。

ここでは新たな機構を組み込むわけではなく、すでに存在しているハードウェアを活用することに主眼が置かれている。また「空気の流れを生み出す」ために部品そのものが動くという解決策も提案されている。

アップルが長時間ヘッドセットを装着することでの問題を意識している可能性は、米Bloombergの「一日中使う」デバイスではない(ゲーム、コミュニケーション、コンテンツ消費向けであり、デスクワーク用途ではない)との報道からも窺われていた

これまでAR/VR機器は、新しもの好きのアーリーアダプター層を中心に愛用されてきたが、今後キャズムを超えてiPhoneのような大衆商品になるためには、こうした細部へのこだわりが必須となるのかもしれない。

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