【連載】西田宗千佳のネクストゲート 第9回

東京ゲームショウで見た「VR」の勢い。なぜ今、またVRなのか

西田宗千佳

先週15日から18日まで、千葉市・幕張メッセで「東京ゲームショウ2022」(以下、TGS2022)が開催されていた。コロナ禍を経て、3年ぶりに一般客を会場に招く形でのイベントとなり、4日間で13万8192人が訪れた。イベント規模はこれでも過去に比べると抑え気味であり、本格的な「イベントの脱コロナ」はこれから、というところだろうか。

「東京ゲームショウ」が3年ぶりに、一般客を会場に入れる形で千葉市・幕張メッセで開催

今回のTGS2022で特に目立ったのが「VR」の勢いだ。正確には「VRゲームをアピールする企業の勢い」といった方がいいだろうか。そこで今回は、「なぜ今VRなのか」を考えてみよう。

TGS2022ではなぜ「VR」がアピールされたのか

TGS2022に行くために海浜幕張駅に降りると、今年このイベントに一番予算を投下しているのがどの企業か、はっきりわかった。Metaだ。MetaはVRデバイス「Meta Quest 2」をアピールするために、海浜幕張駅から会場まで広告を大量に出稿し、さらには会場にも大きなブースを設けていた。

Metaは広告とブースで「Meta Quest 2」をアピール

それと張り合うように展開していたのが中国のPicoだ。こちらは6月に国内発売したばかりの「Pico Neo 3」をアピールするのが目的だ。

PicoもMetaに対抗。ブースもMetaの正面に構えた

Meta Quest 2とPico Neo 3は、ともにPCやスマートフォンを接続する必要がなく、両手用のコントローラーが付属する「スタンドアローン型」だ。性能ではPCに敵わないが、より手軽で安価であるのがポイントだ。

今年6月発売のPico Neo 3はともかく、Meta Quest 2は2年前に発売された製品であり、いま大きくアピールする理由は薄いようにも感じられる。だが、その辺はちょっと違うようだ。

TGS2022では、Meta Quest 2ブースにも試遊を求める人の長い列ができた。150分も並ぶなら買ってしまえばいいのでは、と筆者などは考えるが、そうもいかない人も多いのだろう。

Meta Quest 2をアピールすべきこの2年間、世界はコロナ禍にあった。日本でもイベントや店頭での体験試遊などが企画されていたが、なかなか展開が難しかったのが実情だ。またシャイな人の場合、店頭などの他人に見られる場所で体験するのは抵抗があるという人もいそうだ。

コロナ禍で奪われたアピール機会を取り戻す格好のチャンスがTGS2022だった、という考え方もできるわけだ。

Meta Quest 2は、世界規模ではかなりの売れ行きを見せている。調査会社IDCによれば、2020年第4四半期に、累計販売台数が1480万台になったという。現在は1500万台を超え、2000万台に近づいているだろう。

日本ではまだそこまで大きな市場を形成できていないが、海外ではゲーム・プラットフォームとして強く認知されうるレベルになったといっていい。その勢いを国内に持ち込むのが、Metaの狙いだ。

日本国内にも、ヒットが見込めるVRゲームを作れるクリエイターはいる。彼らのゲームは、海外だけでなく、日本のファンへのアピールという意味で非常に重要だ。

ただ、8月に「値上げ」したのはマイナス要因である。アメリカでも100ドル、日本では2万円以上の大幅な値上げとなっている。この点についてMeta側は「持続的なビジネスをするための判断」と説明している。

10月には、Metaは新型VRデバイスを発表する予定になっているが、こちらはPCなどと同じような「仕事のための機器」であり、価格がMeta Quest 2よりさらに高くなることが予想されており、ゲームデバイスとしてはMeta Quest 2が継続してアピールされる。だから、TGS2022で「Meta Quest 2推し」は正しい判断なのである。

Metaは「メタバース」も推している。意外に思うかもしれないが、Meta Quest 2とMetaが展開するメタバースは直結していない。もちろん、サービス基盤はMeta Quest 2も想定して作っているし、現在Metaが考えているサービスはMeta Quest 2を抜きに語られることはないと思う。

一方で、メタバースそのものはすぐにできるものではなく、長期的な開発の末に出来上がっていく。Metaは長期的ビジョンに基づいてメタバース構築を考えており、Meta Quest 2で体験できるものがメタバース、というわけではない。

PS5専用機器として「新世代品質」となったPS VR2

もう一つ、新しくアピールされたVR機器が「PlayStation VR2」(PS VR2)だ。

こちらは、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)がTGS2022に出展していないため、前もってプレス向けの体験会が開かれた。そのほかはカプコンブースに対応ゲーム「バイオハザード ヴィレッジ」体験用が展示されていた程度だ。

PS VR2はSIEが出展していないため、TGS2022ではカプコンブースに展示

PS5自体がまだ生産量の限界から欠品状態となっており、積極的なプロモーションを行いづらい事情がある。さらに、大手メーカーのプロモーションが「イベントより独自の映像配信」に移行している関係もあるだろう。そんな流れから、SIEはTGS2022に出展していないわけだが、PS VR2はPS5専用の周辺機器なので、こういった事情の影響を受けざるを得なかった。

とはいえ、PS VR2自体は非常に素晴らしいデバイスだ。筆者も取材したが、画質・操作性ともに快適で、PS5との接続もケーブル1本で終わるシンプルさだ。

PS VR2。筆者も体験したが、画質・操作性・快適さともに、初代PS VRを大きく上回る

Meta Quest 2やPico Neo 3のようなスタンドアローン型は、コストも下げられるしケーブルが邪魔になることはない。一方で、使える性能には限界がどうしても出る。現在も画質で言えば、PC向けVRがベストである。

PS VR2は、ハイエンドPCを使ったVRに近い画質・体験を、より低コストで提供するものになるだろう。まさに「今最も新しく、品質の高いVR体験が得られ、価格的にも入手しやすい機器」になるのは間違いない。目の前の課題はPS5とPS VR2の入手しやすさがどうなるか、くらいだ。

一方でVRはまだ黎明期であり、コミュニケーション系やインディー系などで日常的なトライアルが続いている。PCを使ったVRの価値は、それを受け止める自由度にあるのは間違いない。Meta Quest 2も、ストアを介さずにアプリを提供する「App Lab」という仕組みを昨年用意し、開発者向けに門戸を広げる必要に迫られた。

では、ゲーム機のクローズドなビジネスモデルを採用すると思われるPS VR2は、そのあたりへをどう対応するのか、しないのか。VR市場から「メタバース」への広がりも考えると、インディー系などをどうカバーするかも考える必要が出てくる。この辺は後日、SIEに取材できたときにお伝えすることにしよう。

関連キーワード:

関連リンク