5Gに加えて衛星通信という難題まで
iPhone 14の衛星通信はクアルコム製モデムで実現。アップル独自モデムの採用は遠い?
今年のiPhone 14シリーズでは、標準モデル/Proモデルともに、携帯電話やWi-Fiの圏外でも助けを求められるよう「衛星経由の緊急SOS」機能を搭載している。これを実現しているのが、クアルコム製のX65モデムチップであることが明らかとなった。
また、アップルは米Reutersに対して、自社が設計したカスタム無線周波数コンポーネントとソフトウェアと組み合わせることで、衛星経由の緊急SOSが可能になったと述べている。つまりクアルコム単体の技術で実現したわけではない、と示唆しているようだ。
クアルコムのX65モデムは、通話およびデータ通信を支える5Gセルラー接続だけでなく、Globalstarの衛星との通信を可能にするn53バンドもサポートしている。iPhone 14全モデルに本チップが搭載されていることは、修理業者iFixitの分解レポートにより明らかとなった格好だ。
もちろんX65が衛星と通信できるのは、アップルがGlobalstarの衛星ネットワーク容量を最大85%利用できる契約が大前提となっている。Globalstarが衛星インフラに投資する4億5000万ドル(約645億円)のうち、アップルが95%を負担するというのだから、ほぼiPhone専用回線と言っていいだろう。
iPhone 14シリーズでの衛星通信は、現状では衛星の位置が捉えにくく、通信帯域も限られているためか、何段階かのステップを踏むことになる。まずiPhoneがユーザーに質問を投げかけて状況を判断し、どこにデバイスを向ければよいのかを指示。その後にメッセージが発信され(サイズを3分の1に圧縮して届きやすくする)、アップルの専門スタッフが代わりに救助を呼ぶしくみだ。
このサービスは、まず今年11月に米国とカナダのユーザー向けに提供され、2年間は無料となる予定だ。その後の展開は明かされていないが、2022年内に対象地域を拡大するとの噂もある。
ここで気になるのが、アップルが独自開発中と噂されるモデムチップのゆくえだろう。同社のチップ開発チームがクアルコムへのロイヤリティ支払いを完全に排除することや、省電力性の改善をめざし、自社製5Gモデムの開発に取り組んでいることは公然の秘密となっている。
しかし、モデムチップの開発は非常に複雑であるとともに、通信事情が異なる世界各国をまたがることから、現地の通信キャリアや規制機関との連携も大きなウェイトを占めている。以前は2023年のiPhone 15(仮)搭載に向けて準備中との報道もあったが、有名アナリストMing-Chi Kuo氏はアップルが独自モデムチップ開発に苦戦しており、来年には間に合わないとツイートしていた。
5Gモデムでさえ難航を極めている上に、衛星通信という新たな課題も加わったとなれば、「アップル独自開発モデムのiPhone搭載」はさらに遠のいたのかもしれない。