耐火性の素材で印刷・製本
焚書に反対する作家が「燃えない」本を制作、自ら火炎放射器で燃やそうとするデモ:動画
米国の図書館や学校では、特定の本を撤去させようとする「禁書」の動きが広がっている。米図書館協会も警戒感を表明し、様々な資料をアーカイブする閲覧サービスInternet Archiveも検閲に反対する取り組みを進めているほどだ。
こうした動きに対する認識を高め、文字通り焚書(禁じられた本を燃やす)の脅威に抗議するため、カナダの作家マーガレット・アトウッドと出版社ペンギン・ランダムハウスは、彼女の代表的なディストピア小説『The Handmaid’s Tale(邦訳は「侍女の物語」)の「燃えない」版を、1回限りのオークションに出品している。
ペンギン社によると、これは「検閲に反対する強力な象徴であり、重要な物語を保護する必要性を思い起こさせるもの」だそうだ。この「燃えない」版は遮熱箔で覆われたページやフェノール樹脂(耐熱性・難燃性に優れる)のハードカバーなど、耐火性の素材で印刷・製本されている。
実際にアトウッドは、自ら火炎放射器を手に取って本のプロトタイプを燃やそうとする実験を行っている。文字は不滅だと証明する試みだが、少なくとも本が物理的に火炎に負けないことは証明されたようだ。
アトウッドは、『侍女の物語』が何度も発禁処分を受けたことを振り返っている。「サラザールやフランコ(いずれも独裁者)時代のポルトガルやスペインのように、国全体で発禁処分を受けたこともあれば、教育委員会や図書館で発禁処分を受けたこともある」とのことだ。その意味で、本書は「禁書」運動に抗議するシンボルとなり得るのだろう。
記事執筆時点では、本書の最高入札額は7万ドル(約900万円)となっている。オークションは6月7日に終了し、収益はすべてPEN America(自由な表現を擁護するための非営利団体)に寄付され、全米で図書禁止令と闘う活動を支援するために使われるという。同団体は最近の報告書で、全米26州86の学区で1,586冊の本が禁止されていることを記録している。
ペンギン社は、禁書の対象が「人種差別、ジェンダー、性的指向に関する文学作品、しばしば有色人種の作家やLGBTQ+作家によって書かれ、また社会的不平等、歴史、セクシャリティに関するもの」になる傾向があると指摘している。こうした動きは学生の憲法修正第一条の権利を侵害し、教育や思想の流れを阻害するものだとのことだ。
学生らが幅広く多くの本に触れ、あるいは性的マイノリティの人々の想いを追体験できてこそ、思考力が養われたり、自分を発見する機会が得られるはず。なによりアトウッドの人生は検閲や焚書との戦いそのものであり、今後の展開を見守りたいところだ。
- Source: Penguin Random House
- via: Engadget