【連載】佐野正弘のITインサイト 第228回
「繋がらない」から20年、ソフトバンクはいかにして通信品質を改善したか
現在、携帯4社の一角を占めるソフトバンク。そのソフトバンクが英ボーダフォンの日本法人を買収し、「ソフトバンク」ブランドでモバイル通信事業に参入したのは2006年10月1日であることから、この10月に同社は参入20周年を迎えることとなる。
参入して間もない頃は、当時から競合のNTTドコモやKDDIと比べ「通信できるエリアが狭い」「通信品質が悪い」といった声が多かったソフトバンクだが、現在では同社の通信品質に対し、悪い評判を聞くことは少なくなっている。この20年で同社がいかにしてネットワークを改善し、現在の評価へとつなげていったのか。2026年10月1日に同社が記者説明会を実施しその経緯を説明している。

ボーダフォン日本法人が現在のソフトバンクの前身に当たるソフトバンクモバイルとなり、携帯電話事業を開始した当初、同社の通信品質に対する評価が低かったのにはさまざまな理由があるが、ソフトバンクのモバイルネットワーク本部本部長である長野哲也氏によると、中でも大きかったのは周波数と基地局の数であるという。

当時、同社が免許を保有していたのは1.5GHz帯と2.1GHz帯の2つだけで、遠くに飛びやすく広いエリアをカバーしやすい1GHz以下のいわゆる「プラチナバンド」はまだ保有していなかった。それに加えて基地局数も約2万局と、現在の5%程度の水準にとどまっていた。
その一方で、同社は2008年に国内で初めてiPhoneを販売し、スマートフォンの利活用を本格化。音声通話が主体だったモバイル通信もデータ通信の利用が急速に増え、通信品質が一層課題になっていた。そこで同社は2010年に「電波改善宣言」を打ち出し、基地局数を1年で6万局から12万局に倍増するなど、あらゆる手段を講じてネットワークを急拡大していったそうで、長野氏はこの時期が最も大変だったと話している。

ただそれでも、プラチナバンドを持つ競合にエリア面で追いつくのは難しかったというが、2012年には念願のプラチナバンドとなる900MHz帯の免許割り当てを獲得。サービス開始から9か月で約2万局を展開するなど、こちらも基地局を急拡大することで、エリア面での課題を大幅に改善していったという。

ただプラチナバンドは、遠くに飛びやすいが帯域幅が狭く、大容量通信には向かないので、増え続ける通信トラフィックへの対処には別の手段を講じる必要があった。そこでソフトバンクが推し進めたのが、1つにウィルコムやイー・アクセスといった企業の買収による周波数免許の獲得だ。
実際ウィルコムは2.5GHz帯、イー・アクセスは1.7GHz帯と700MHz帯の周波数免許を保有しており、それらがソフトバンクの通信容量を増やすことに貢献したことは間違いない。一方でソフトバンクがイー・アクセスを買収した際には、ある意味で国が割り当てた電波の免許をお金で買うこととなった是非も問われたことは確かで、その後総務省の周波数免許割り当てに大きな影響を与えたことも忘れてはならない。

ただ、買収で周波数免許を獲得したといっても、会社が異なれば異なるネットワークの設計思想も異なる。それらを効率よく運用するにはネットワークの統合を進める必要があり、その辺りも苦労するポイントとなったようだ。
もっともイー・アクセスに関しては、2013年に「ダブルLTE」として両社のネットワークを利用するサービスを提供していたのに加え、同じ通信機器ベンダーの機器を採用していたこともあって、比較的スムーズに統合を進められたと長野氏は話している。
もう1つ、ソフトバンクが通信品質改善・強化に向けて力を入れてきたのが新しい技術の積極的な採用である。基地局を制御する装置を集約し、複数の基地局を強調して制御することで、電波を効率よく活用する「C-RAN」や、5Gで大容量通信に応える技術として注目されてきた「Massive MIMO」といった技術を、同社は4Gの段階で投入している。

加えるならば、グループ会社のAgoopが提供するアプリの通信ログを活用したビッグデータを分析し、基地局を最適化する取り組みも、ソフトバンクが工夫の上に生み出したものだ。
こちらも当時は、個人が利用するアプリのデータを活用することの是非について議論があったと筆者は記憶している。だが、後にこの取り組みには競合も追随しており、とりわけコロナ禍明けの通信品質対策で競合と大きな差が出る要因にも繋がっている。

当時ソフトバンクの携帯電話事業を取り仕切っていた、現在のソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長執行役員である孫正義氏のキャラクターもあって、同社の通信対策はトップダウンの印象が強く、その取り組みにも議論を呼ぶものが少なからずあったことは確かだ。
だが結果的に見れば、それら取り組みの中には現在業界でスタンダードになる取り組みへと繋がっているものあり、先見の明があった部分も多かったこともまた確かである。
ただ忘れてはいけないのは、通信品質は “水物” だということ。かつて通信品質で絶大な信頼を得ていたNTTドコモが、2023年に通信品質を著しく落としたことで「繋がらない」イメージが定着してしまったように、ソフトバンクも増え続けるトラフィックに対して適切な対応を取ることができなければ、再び評価が大きく落ちてしまうことも十分あり得るのだ。
それだけにソフトバンクとしても、4Gの影響を受けないスタンドアローン(SA)運用の5Gエリアの拡大を積極的に進めるほか、基地局などの無線機器にAI技術を導入し、処理の高度化などを進める「AI-RAN」の取り組みなど、新しい技術を積極的に取り入れて新しい時代に応じた通信品質改善を進めていく方針を、長野氏は示している。さらに同社の今後を考慮するならば、既に免許を獲得している4.9GHz帯の活用や、2026年に試験サービスを実施した「空飛ぶ基地局」ことHAPSの活用なども、今後は注目されるところだろう。

だが、スマートフォンの普及などで大きな成長を見込めたこれまでの20年とは違い、今後は通信トラフィックが増えても、通信会社の収入増があまり見込めないことから、通信品質を高めるために潤沢な資金を使う訳にもいかなくなってくる。
それだけに、KDDIと「5G Japan」を設立して進めているインフラシェアリングのほか、2026年9月16日に発表された、ミリ波における通信事業者間での利用エリア拡大に向けた共同検討など、競合との連携や協力もより積極的に進める必要が出てくるかもしれない。
通信事業者にとって次の10年、20年は、これまでより一層厳しい時代となることは間違いない。それだけにソフトバンクには、今後どのような策を持ってその難題に取り組むかが、問われることになりそうだ。
