【連載】佐野正弘のITインサイト 第223回

携帯3社が相次ぎ実施、イベントや観光地の「通信品質対策」その狙いはどこに

佐野正弘

ここ数年来注目が高まっている、スマートフォンの通信品質。最近ではKDDIとのローミング契約終了が近づき、楽天モバイルの通信品質低下が懸念されていることから、再び通信品質に対する関心が高まっている様子だ。

それだけに、携帯各社による通信品質対策の重要性は今まで以上に高まっているのだが、実際どのような策をもって通信品質を向上させようとしているのだろうか。その取り組みを見極める上で実は重要なのが、多くの人が集まる施設や大規模イベントなどでの通信品質対策である。

そうした場所では一時的に非常に多くの人達が集まり、スマートフォンを利用することから通信品質が大幅に低下しやすく、ユーザーの不満を高めやすい。それだけに携帯各社は、人が多く集まるイベントや観光地などで通信品質を向上させるさまざまな策を講じているのだが、それらの施策は将来的に街中の通信品質向上にも活用されることが多い。

そうしたことからイベントなどでの通信品質対策は、携帯各社の将来的な通信品質向上策を見極める上でも重要なわけだ。筆者は2026年8月、そうしたイベントなどでの通信品質対策を多く取材していたので、その時の様子から各社の狙いを確認してみよう。

NTTドコモが「SUMMER SONIC 2026 OSAKA」の通信品質対策として導入した「Tri-Band Massive MIMO」対応の基地局。3つのアンテナからそれぞれ3.5GHz帯、3.7GHz帯、4.5GHz帯の電波を射出し、それを束ねて大容量通信を実現する

まずはNTTドコモだが、同社は2026年8月14日から大阪府の万博記念公園で実施されていた音楽イベント「SUMMER SONIC 2026 OSAKA」で、通信品質対策のため新しい技術を導入している。それが「Tri-Band Massive MIMO」というものだ。

Tri-Band Massive MIMOとは、多数のアンテナ素子を用いて通信容量を増やす「Massive MIMO」に対応した無線機3つを用い、それぞれ異なる周波数帯の電波を射出し、大容量通信を実現するもの。具体的にはNTTドコモが免許を持つ3.5GHz帯、3.7GHz帯、4.5GHz帯の、3つの周波数帯を活用する。

このうち3.7GHz帯と4.5GHz帯は、最初から5G向けに100MHz幅が割り当てられているが、3.5GHz帯は元々4G向けに割り当てられたもの。NTTドコモは40MHz幅の3.5GHz帯の免許を2つ保有している。この2つの周波数帯は連結しており、5Gに用いれば80MHz幅の1つの帯域として活用できる。

そこで今回のTri-Band Massive MIMOでは、100MHz幅の2つの周波数帯と80MHz幅の3.5GHz帯の合計で、280MHz幅の帯域幅を用いている。これにより、従来の3倍近い設備容量を実現しているのだ。

イベント開催前の現地で実際、その通信速度を測定してみたが、ダウンロードで3Gbpsを超える通信速度を実現していた。実際のイベント開催時にもTri-Band Massive MIMO大きな効果を発揮していたようで、今後の通信品質対策に大きな効果を発揮する可能性がありそうだ。

イベント開始前日に、Tri-Band Massive MIMO対応基地局の基地局付近で通信速度を測定したところ。ダウンロードで3Gbps以上の通信速度が出ていることが分かる

同社は通信品質低下が指摘されて久しく、現在も通信品質の向上が求められている。それだけに大容量通信に耐える新しい技術を導入し、イベントでその能力を見極めた上で、本格的な通信品質対策に活用したい狙いがあるのではないだろうか。

一方、通信品質では高い評価を受けているKDDIが、イベント対策への活用を進めたのがミリ波である。同社は2026年8月15日から東京ビッグサイトで実施された同人誌即売会イベント「コミックマーケット108」での新たな通信品質対策として、5Gの「ミリ波」活用に向けた取り組みを本格化させているのだ。

KDDIが「コミックマーケット108」で設置したKDDIの移動基地局車。これまで積極的に搭載してこなかったミリ波のアンテナを搭載しているのが大きなポイントだ

ただ、ミリ波としてKDDIらに割り当てられている28GHz帯は、電波が遠くに飛びにくく活用しづらい帯域でもある。これまでのイベントにおける通信品質対策でもあまり効果が出なかったことから活用が進まなかったが、そのミリ波を効率的に広げる無線中継器を活用することで、KDDIは通信品質対策につなげる取組みを進めている。

具体的には、実際にミリ波を射出する「親局」となる移動基地局車1台と、無線中継器を搭載した移動基地局車2台を、100〜150メートル間隔で設置。親局からの電波を無線中継器が増幅し、それをさらに先の無線中継器へと電波を届けることにより、ミリ波でも広いエリアをカバーする。

全ての移動基地局車からミリ波の電波を射出することも可能だが、そのためにはバックホールとなる光回線に接続する必要があり、基地局同士の電波干渉も考慮して設置しなければならない。だが、無線中継器は電源さえあればよいので設置がしやすく、電波を中継するだけなので電波干渉が生じない点もメリットとなるようだ。

ただし、ミリ波のエリアをどれだけ広げても、ミリ波に対応する端末が少ないので利用が進まないという課題もある。そこでKDDIでは、ミリ波非対応端末でもミリ波を活用してもらうため、ミリ波をWi-Fiスポットのバックホールとして活用する取組みも、今回のコミックマーケット108で試験的に実施している。

あくまで検証としての取り組みとなるため、今回はKDDIの「au Wi-Fi」が利用できるユーザーのみが利用できる形となった。通信速度も400Mbps程度と、ミリ波の実力をフルに生かせるわけではない。ただ、活用が難しいとされるミリ波の本格活用に向け、同社が積極的に取り組んでいる様子は見て取ることができよう。

KDDIではミリ波をWi-Fiのバックホールとして活用する取組みも実施。中央がミリ波の無線中継器で、左がミリ波の電波を受信してWi-Fiにする通信設備、右がWi-Fiのアンテナとなる

なぜKDDIがイベント対策にミリ波を活用するようになったのかといえば、一層通信トラフィックが増える今後を見据えているためだろう。KDDIは現在のところ高い通信品質を維持しているものの、AIの広がりなどでより一層多くのトラフィックが生じる今後、その通信品質を維持できるとは限らない。そうした状況に先手を打つべく、イベントでミリ波の本格活用に向けた方策を探るというのが、同社の狙いといえるだろう。

一方で、2社とは異なるアプローチで通信品質対策を進めているのがソフトバンクだ。同社は2026年8月、京都府京都市の人気観光地の1つ、清水寺における通信品質対策を報道陣に公開したのだが、その大きなポイントとなっているのが “場所” である。

ソフトバンクが京都・清水寺の通信品質対策として設置した基地局。長年の交渉の末、「清水の舞台」をカバーできる適切な場所を確保できたという

歴史的建造物や自然が多い京都府は、条例で建物の高さやデザインなどに規制をかけるなど景観に厳しく、清水寺もその例外ではない。その一方で、昨今のインバウンド需要の高まりなどによって、清水寺付近でもトラフィックが増加傾向にあることから、通信品質対策が急務となっていた。

そこでソフトバンクでは、清水寺と何度も協議を進めた末に、基地局を設置できる場所を確保。景観への配慮も求められることから、清水寺や京都市らと交渉し、基地局を建てる柱の高さや色など調整する必要があったという。

実際に設置された基地局を見ると、アンテナやそれを設置する柱は周辺の樹木に近いこげ茶色に塗られている。さらに、色を塗ることができない基地局などの設備は塗装したカバーで覆われているなど、景観に配慮した様子がうかがえる。

基地局やアンテナを設置する柱は景観に合わせて塗装されており、塗装できない基地局には塗装されたカバーがかけられている

ソフトバンクの取組みからは、どれだけ新しい技術があっても、設置場所を確保できなければそれらを有効活用できないことが分かる。そして通信品質対策が必要な都市部ほど、その設置場所が多いとは言えない実情があるだけに、同社としては技術だけでなく場所の確保に重きを置いた取り組みを進めている様子を見て取ることができそうだ。

携帯電話の通信品質は “水物” であり、高い通信品質を維持し続けるには一時的ではなく、継続的な取り組みが求められる。今回の一連の取り組みが今後の各社の通信品質向上につながることは確かだろうが、その取り組みをいかに継続できるかが、各社には求められることになるだろう。

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