【連載】佐野正弘のITインサイト 第222回

KDDIが楽天とのローミング大幅縮小へ、その思惑と今後に与える影響は

佐野正弘

2025年末に、MVNOによるサービスも含んだ契約数が1000万契約を超え、2026年6月末時点では1075万回線に到達。1100万回線が視野に入るなど、契約数が好調に伸びている楽天モバイル。だがその楽天モバイルの今後に不安を生じさせているのが、KDDIとのローミング契約の終了が間近に迫っていることだ。

楽天モバイルは元々2019年10月よりKDDIとのローミング契約を結び、当時新規参入したばかりで基地局の整備が進んでいなかったエリアを、KDDIの回線で賄っていた。その後、楽天モバイルは急ピッチで自社エリアの整備を進めたが、その結果経営が非常に厳しくなり、2023年6月にKDDIとのローミング契約を延長している。

この契約により、楽天モバイルは同社がまだ整備できていない地方のエリアに加え、都市部の入り組んだ場所などでもKDDIのネットワークを活用してカバー。そのことを生かし、月額1078円から利用でき、どれだけデータ通信をしても月額3278円で済むという、現在の主力プラン「Rakuten最強プラン」を提供して契約獲得につなげてきた経緯がある。

だが、延長したKDDIとのローミングも2026年9月末をもって切れ、楽天モバイルは現在の体制を維持できなくなる。それだけに、KDDIが楽天モバイルとローミング契約を再び延長するのかどうかが注目されていたのだが、2026年8月7日に実施されたKDDIの決算説明会で、同社の代表取締役社長である松田浩路氏がこの件に言及している。

KDDIの松田氏は楽天モバイルとのローミング契約について、現在の形の契約は2026年9月末の終了をもって終了し、今後は地方でのローミングのみ期間限定で継続するとした

松田氏は楽天モバイルとのローミングに関して、「人口カバー率を補填する目的で7年間提供してきたが、先方のエリアも7年で拡大していることを受け、当社としては役割を十分果たせたと考えている」と説明。現在の契約は2026年9月末をもって予定通り終了する方針を明らかにしたのだ。

ただ一方で、松田氏は「ルーラル(地方)の一部エリアについては、期間を限定した上でインフラ維持に協力しようと思っている」とも説明。今後楽天モバイルが自らエリアを整備することを前提に、期間限定で地方でのローミングだけを継続する考えのようだ。

楽天モバイル側の見解はどうか。2026年8月10日に実施された楽天モバイルの親会社、楽天グループの決算説明会で、同社の代表取締役会長兼社長最高執行役員である三木谷浩史はこの件に言及した。

三木谷氏はKDDIへの長年の感謝を述べた後、「楽天モバイルがカバーを要するエリアは(2026年)10月以降も契約に乗っ取って継続していく。一方で、楽天モバイルがカバーできているエリアは順次ローミングを縮小すると認識している」と話していたことから、両社の見解に相違はなさそうだ。

楽天グループの三木谷氏も、まだエリアカバーが必要なエリアのローミングは継続する一方、既にカバーしているエリアのローミングは順次縮小との認識を示している

なぜ、地方に限定したローミング継続となったのか。その理由はKDDIの視点から見えてくる。松田氏は楽天モバイルとのローミングにより「想定外のエリアから、想定以上のトラフィックが我々(のネットワーク)に来ている」と話していたが、これは楽天モバイルの低価格でデータ通信使い放題のサービスを利用する顧客のトラフィックが、ローミングでKDDIの一部エリアに流れ込み、ネットワークが混雑してKDDI自身のユーザーに悪影響を与えていることを示している。

しかもそうしたエリアの多くは、先のローミング再契約で対象となった都市部のエリアであるようだ。それゆえ両社は、混雑が生じているエリアのローミングを順次終了させているのだが、楽天モバイルのユーザー数が急拡大したことで、ローミングによる混雑が多くのエリアで生じているため、都市部でのローミングをまとめて終了し、解決を図るという判断に至ったのだろう。

そもそもKDDIが楽天モバイルとのローミング契約を延長したのには、楽天モバイルがネットワーク整備を大幅に前倒しで進めた結果、KDDIに入るローミング収入が急減し業績が悪化したという事情も少なからず影響していた。だが現在では、都市部のローミング継続で収入を得るよりむしろ、通信品質悪化で顧客が離れてしまいかねないデメリットの方が、業績に悪影響を与えるとKDDIは見ているのだろう。

期間限定とはいえ、地方でのローミングが継続されることで、楽天モバイルにとって最悪の事態は避けられたともいえる。好調を維持しているとはいえm楽天モバイルが依然赤字であることに変わりはない。収益性が低い地方でのエリア整備を、大幅なコストをかけて一気に進める余裕はないだけに、地方のローミング維持で競合とエリア面で差が出ない状況を維持できたことは大きい。

楽天グループは主力事業の好調と楽天モバイルの業績改善で、携帯電話会社としてサービスを開始した2020年第2四半期以降初めて税引前利益の黒字化を達成したが、楽天モバイルが依然赤字であることは変わらない

一方で大きな課題となってくるのが、都市部でのローミング終了によるネットワーク品質の低下だ。先にも触れたように、両社は現在でも、混雑が見られるエリアのローミングを順次終了させている。だがここ最近、そうしたエリアで突然楽天モバイルの通信品質が低下したとの声が増え、ユーザーの不満が急速に高まっているのだ。

2023年のNTTドコモの通信品質低下以降、一般消費者は通信品質に非常に厳しくなっているだけに、ローミング終了で通信品質が急低下したとなれば、折角獲得した顧客が一気に離れてしまいかねない。実際ここ最近、競合各社のショップで「楽天モバイルのローミング終了」を打ち出し、通信品質に不満を抱く楽天モバイルユーザーの乗り換えを促す施策が目立ってきている。

楽天モバイルの競合各社の携帯電話ショップでは、楽天モバイルのローミング契約がもうすぐ終了することをアピールするポスターを掲出し、ネットワークに不安を抱く人の乗り換えを促すアピールが増えてきた。写真はソフトバンクショップの事例

都市部では面でのエリア整備が進んだ楽天モバイルだが、多くのトラフィックに耐えられるネットワークの厚さという部分では、後発というだけでなく保有している周波数帯が少ないこともあって不利な要素が多い。それだけに楽天モバイルは、都市部での基地局増強を積極的に進めるものと考えるが、それには大きなコストがかかるのも事実だ。

三木谷氏は現行のRakuten最強プランについて、「インフレで消費者の生活が苦しいところがある。さまざまな形で節約したいニーズがある中、Rakuten最強プランに引き続き興味を頂いている」と話し、企業努力を図りながら継続する方針を示していた。そこには楽天モバイルの顧客基盤を楽天グループの成長につなげるため、契約数を一層増やしたい狙いがあるのだろう。

だが料金プランを値上げせず、ARPU(1ユーザー当たりの平均売上高)の大幅な上昇も見込めない中、顧客とトラフィックの急拡大に応えられるネットワーク強化を進めるコストをどう捻出するかは、楽天モバイルにとって今後非常に大きな課題となってくることは間違いない。再び訪れた難しい局面をどう乗り越えるか、楽天モバイルの手腕が大きく問われる。

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