【連載】佐野正弘のITインサイト 第220回

「ドコモの銀行」「dアカウント」の不満にどう応えるか。NTTドコモFG社長に聞く

佐野正弘

携帯各社が決済・金融事業に力を入れる中、競合と比べ金融事業で出遅れていたNTTドコモ。だがマネックス証券、オリックス・クレジット(現ドコモ・ファイナンス)、そして住信SBIネット銀行と、相次ぐ買収で金融事業者を傘下に収め、急ピッチでキャッチアップを進めてきた。

その仕上げとなるのが、決済・金融事業を統括する金融持株会社の「NTTドコモ・フィナンシャルグループ」の設立だ。「dカード」「d払い」など強みを持つ決済事業と、傘下に収めた金融事業を同社が取りまとめることで、NTTドコモの総合力を生かした顧客への価値提案ができる体制がようやく整ったことになる。

ただ一方で、金融各社の急速な買収や、既存サービスやブランドの内容変更に対して、顧客から不安や不満の声が挙がっていることも確かだ。そうした声にどう対応して事業を広げようとしているのか、NTTドコモ・フィナンシャルグループの代表取締役社長に就任した廣井孝史氏に話を聞いた。

取材に応えたNTTドコモ・フィナンシャルグループの廣井氏

2026年7月9日に実施された同社の設立会見で打ち出された戦略の中でも、注目を集めたのはドコモショップの積極活用だろう。ドコモショップでは2026年1月から、一部店舗でマネックス証券の口座開設などのサポートを実施している。

だが、住信SBIネット銀行が「ドコモSMTBネット銀行」へ名称変更する予定の2026年8月からは、同行の口座開設サポートなども実施するとしている。

ドコモショップの活用に至ったのには、dカードやd払いなど、決済系サービスで得た経験があると廣井氏は話す。

事業拡大のためには顧客の決済サービス利用を金融サービスにも広げていく必要があるものの、金融は決済と比べ難しい要素が多く、専門的なアドバイスが欲しいという人が相当数いたという。そこでドコモショップで培った経験を生かして金融サービスのサポートを強化し、利用へと導く考えのようだ。

ドコモショップでは既に、一部店舗でマネックス証券の口座開設サポートなどを実施しているが、今後は住信SBIネット銀行の口座開設サポートなども実施する方針だという

ドコモショップ側からすると、金融サービスのサポート業務が増えることで、ショップスタッフにかかる負担の増加が懸念されるところだ。この点について廣井氏は、負担は確かに増えるが、その一方で「モバイルの加入数はマチュア(成熟)で、段々ショップの事業機会がなくなってきている」とも話している。

それゆえドコモショップが金融サービスのサポートへと業務を広げることは、ショップ側に新たな事業成長の機会をもたらし、雇用拡大にもつながると説明。NTTドコモ・フィナンシャルグループでも、ショップが金融サービスを提供するのに必要な研修や経済的支援を実施するなどして、ショップの収益向上につなげていきたいとしている。

一方で、ドコモショップの活用はサービスブランドにも大きな影響を与えたようで、それが住信SBIネット銀行のブランド変更である。同社はドコモSMTBネット銀行に名称を変更する2026年8月3日に合わせ、ブランドを従来の「d NEOBANK」から、グループのシナジーをより強く打ち出すべく「ドコモの銀行」に変更するとしている。

住信SBIネット銀行は、「ドコモSMTBネット銀行」への名称変更に合わせて「ドコモの銀行」へとリブランドを予定しているが、これが既存の住信SBIネット銀行ユーザーに不安を与えているようだ

ただ、そのことに不満の声を挙げているのが、既存の住信SBIネット銀行ユーザーだ。元々SBIグループ傘下だった住信SBIネット銀行は、先進的で使い勝手のよいアプリやサービス、そして証券サービスとして高い人気を誇る「SBI証券」との連携に優れている点が評価され、顧客を獲得してきた。

それがNTTドコモの傘下となり、本格的にNTTドコモのブランドへと変更がなされることで、サービスの先進性が失われ利便性が落ちることを不安視する声が多いのである。しかもSBIグループは「SBI新生銀行」を保有しており、こちらのサービス充実度が高まれば、SBI証券利用者が住信SBIネット銀行から離れてしまうのではないか、と見る向きもあるようだ。

住信SBIネット銀行は元々SBIグループ傘下で、SBI証券などとの連携で顧客を多く獲得してきたことから、NTTドコモ傘下となったことに対するユーザーの不満が大きい

廣井氏はそうした声に対し、「我々もグループでマネックス証券を一押しでやっていくが、SBI証券のトランザクション(取引)は住信SBIネット銀行にも必要。マルチで対応していくし、商売を狭めるようなことはしない」と回答。そのためにも「先進性のある従来のサービスを変更する予定はないし、評価の高いサービスは維持していく」としている。

ただもう1つ、住信SBIネット銀行ユーザーの不満の根源には「dアカウント」が抱える問題も少なからず影響しているだろう。dアカウントは「dポイント」を軸にNTTドコモのサービスを利用する上で基盤となるもので、NTTドコモ・フィナンシャルグループが決済・金融サービスの連携を進める上で欠かせないものだ。

だがそのdアカウントはモバイル通信サービスに強く紐づいている部分が多い。そのため1つのdアカウントに複数のモバイル通信を登録できない、回線契約を解約すると特定のケースで問題が生じるなど、使い勝手の悪さが多く指摘されている状況にある。

「dアカウント」は元々、NTTドコモの通信契約に紐づいていたアカウントを後付けでオープン化したため、通信契約に関連するさまざまな制約を受けることがユーザーの不満となっている

廣井氏もdアカウントに対して多くの不満があることを認識しており、「(批判を)甘んじて受ける」と回答、改善を進めている最中だとしている。改善の具体的な時期は示されなかったが、「(改善は)結果で示すしかない。どこかで『良くなった』と言われたらいいが、そのためにもやり続けないといけない」と、継続的に改善を進めていく考えのようだ。

では、そのモバイル通信との連携はどうしていくのだろうか。KDDIの「auバリューリンク マネ活2」など、モバイル通信と金融サービスを連携した料金プランは増えているが、金融事業に弱みのあったNTTドコモはこの部分で競合に対抗できていない。

廣井氏はモバイル通信だけで差別化ができなくなってきている現状、金融サービスとのセットはモバイル通信の大きな競争ポイントになっているとし、競合に対抗するには「金融が強くならないと、モバイルも魅力的に映らなくなる」と話す。

それゆえ廣井氏は、モバイル通信と金融のセットプランに取り組むだけでなく、モバイル通信に依存しない形での顧客還元を実施する考えも示している。実際、今後展開を予定している、ドコモSMTBネット銀行とdカードの連携による初年度のポイント3%還元特典などは、モバイル通信ではなく金融事業の収益から原資を捻出しているとのことだ。

ドコモSMTBネット銀行への名称変更後、同行を「dカード」の引き落とし先とすることで、dカードのスマートフォン決済で初年度3%のポイント還元を実施するとしているが、これは金融事業から原資を捻出して実施されるという

ただ、急速な買収で金融事業を増やしただけに、NTTドコモ・フィナンシャルグループがそれら企業をうまくまとめて一体感のある取り組みを実現できるのか?という点にも疑問を抱く向きがある。

実際、マネックス証券や住信SBIネット銀行はNTTドコモの子会社になったとはいえ、前者はマネックスグループ、後者は三井住友信託銀行による出資が継続しており、100%出資による完全な支配権を持ったわけではない。

「マネックス証券」はNTTドコモの子会社になったとはいえ、マネックスグループによる出資も継続しており、企業名に「ドコモ」の名称も付いていない

だが廣井氏は、それら企業の出資先も「ドコモの顧客基盤を使って成長したいところがある」と説明。互いのリソースを持ち寄ってビジネス上の実利を得る、ジョイントベンチャーのような位置付けであることから、各社との関係は良好で「バラバラな感じはしない」と回答、完全な支配権を持たなくても一体感のある運営は可能だとしている。

廣井氏もNTTドコモ・フィナンシャルグループ側も現状のさまざまな課題を認識しており、それを乗り越えてビジネス拡大するための施策を打っている状況であることは確かなようだ。ただdアカウントの問題解決に時間がかかっていることが信頼低下につながっているように、既存顧客の不満や不安を取り除くには、早期に実績を示すことが求められる。

主要な金融サービスが揃い、事業環境が整った今後は、顧客の声に応えるスピード感が求められることになりそうだ。

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