【連載】佐野正弘のITインサイト 第216回

“低価格スマホ”の機種変は今後困難に。価格高騰に背を向けた、総務省の有識者会議

佐野正弘

スマートフォンの価格高騰が止まらない。最近発表された機種のSIMフリー版の価格を見ても、シャープの「AQUOS R11」は前機種から5万円超の値上げを記録していた。

また、FCNTの「arrows We3」はSIMフリー版の場合、RAM4GB・ストレージ64GBの下位モデルで「Amazon.co.jp」での販売価格は42,000円だ。前機種「arrows We2」のSIMフリー版(RAM4GB・ストレージ128GBで当時の市場想定価格が36,850円)と比べストレージが減ったにもかかわらず値段が上がっていることが分かる。

FCNTの新機種の1つ「arrows We3」はローエンドモデルの位置づけだが、SIMフリー版のRAM4GB・ストレージ64GBのモデルであっても4万円超での販売が多いようだ

その原因は多くの人がご存じの通り、円安とAIデータセンター需要の高まりによるメモリ価格高騰の影響によるところが大きい。2026年6月25日には米アップルが、「Mac」「iPad」など多くの製品の国内価格を突如値上げして話題となったが、値上げが見送られた「iPhone」シリーズも、このままの状況が続けば新機種の大幅値上げは避けられないだろう。

それだけ価格高騰が進み、消費者が新しいスマートフォンを購入しづらくなっているだけに、期待されていたのがスマートフォンの値引き規制緩和だ。2019年の電気通信事業法改正以降、携帯電話会社同士の競争を阻害する要因とされた携帯電話会社によるスマートフォンの値引き販売、そして顧客の契約を縛ることに対して非常に厳しい規制が課せられている。

だが円安の長期化に加え、メモリ不足という新たな要因も加わったことでスマートフォンの価格は一層高騰。そこに値引き規制が加わり、消費者が新しいスマートフォンに買い替えづらくなってきている。一方で法規制の影響によって、新規契約者などに向けたポイント還元を目的に、短期解約を繰り返す「ホッピング」行為の横行が生じるなど、業界全体に悪影響を与えるようになってきていた。

そこで総務省では、電気通信事業法による一連の規制を見直すべく、2025年末から「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」を開始。およそ半年にわたって議論を続けた末、2026年6月24日の第8回会合ではその取りまとめ案が示されている。

総務省「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」第8回会合資料より(以下同様)。今回の有識者会議は、電気通信事業法で定めた携帯電話会社の競争に関する規制を、利用実態に合わせて見直すことが目的となっていた

中でも今回の有識者会議で大きな論点となったのがホッピング対策だ。携帯各社などへのヒアリングなどでも強い問題意識が示されただけに、取りまとめ案でもその対策のため、明確な規制の見直しへと踏み込んでいる。

議論の中ではホッピング対策として大きく3つの案が示されていた。1つは新規契約者に対する利益を、契約継続を条件に分割提供できるようにすること。2つ目はサービス解約時の違約金を、現在の税抜1,000円から引き上げ、解約をしづらくすること。そして3つ目は逆に、新規契約者に提供できる利益そのものを、現在の税抜き2万円から引き下げてホッピングのメリット自体をなくすことだ。

だが、2つ目はMVNOなどから競争を阻害するとして反対意見が挙がった。3つ目も逆に、乗り換え競争停滞の要因になるとして反対意見が挙がっていた。そこで今回の取りまとめ案では、1つ目の案を軸とし、新規契約者に対して最大で1年間、契約継続を条件としてポイント還元などの利益を分割で提供できるよう緩和する方向性が示されている。

実はこの仕組みは、1人に1回だけ、最大で税抜き2万円の利益を6か月間にわたって分割提供できるという、2024年末に解禁された「お試し割」の改良版というべきもの。新規契約時のポイント還元を分割提供できれば、フルで還元を得るのに少なくとも1年間は月額料金を支払う必要があるし、途中解約すれば利益がもらえなくなることから、競争を阻害しない範囲でホッピング対策につながるという判断が働いたようだ。

ホッピング対策に向けては、各社の意見を踏まえ大きく3つの案が提示されたが、今回は新規契約者に与える利益を、継続利用を条件に分割提供することを認める、「お試し割」に近い策が認められた

もう1つ、大きな議論のテーマとなったのが端末購入プログラムだ。これは購入から一定期間後に端末を返却することで、残りの支払いが免除、あるいは安くなる購入方法を指す。だが、返却した端末は中古市場に売却して利益を得るため、返却時期に端末の価値がどれくらい残っているかを示す「残価率」が、価格を決める上で非常に重要になってくる。

現状のルールでは残価率の計算に、中古スマートフォンの業界団体であるリユースモバイル・ジャパン(RMJ)の買い取り実績データを用いることとされている。ただ業務にかかる負担、そして過去のデータがない新タイプの端末の残価率計算ができなくなることなどを考慮し、共通する要素が多い機種をグループ化してその平均額を基に残価率を計算できるなど、ある程度の柔軟性が持たせられている。

しかし、その柔軟性を逆手に取り、携帯各社が一部機種で残価率をつり上げることで、端末購入プログラムの適用により「実質24円」など、過度な割引をしているケースが見られるとして問題視する向きが出てきていた。そこで残価設定ルールの見直しに向け、グループ化を禁止して機種ごとに残価率を算出させる案や、全機種で一律の残価率を採用する案などが示され、議論がなされていたのである。

端末購入プログラムの残価率計算は現状、業務負担や先行機種のない事例が存在することなどを考慮し、共通項が多い機種をグループ化して計算することも認められているが、それが拡大解釈へとつながり大幅値引きにつながるケースもあるようだ

前者の案では、流通台数の少ない機種のデータが乏しく、残価率の計算が難しいことが課題として挙げられていた。また後者の案では、機種毎の市場価値の違いが反映されず、価値の低い端末の残価率を引き上げるとして、特にアップルが猛反発していたようだ。

折衷案などもいくつか提示されていたが、意見はうまくまとまらなかったことから、今回は見直しを見送り、今後の方策を引き続き検討するという結果に至ったようだ。それゆえ今後も携帯電話会社の裁量によって、一部機種が端末購入プログラムの適用によって格安で購入できる余地は残されたこととなる。

ただ一方で、議論が盛り上がらず見直しもなされなかったのが「廉価端末特例」だ。これは低価格のスマートフォンを購入しやすくする仕組みで、具体的には本体が税抜4万円以下のスマートフォンを販売する際に、最大で税抜2万円までの値引きを認めるものとなる。

携帯各社はこれまで、廉価端末特例を適用して「一括1円」など、格安販売ができる2万円台のローエンドスマートフォンの調達・販売を増やしていた。だが端末メーカーなどに話を聞くと、昨今の円安やメモリ不足の影響などにより、2万円台で満足できる性能を持つスマートフォンを提供することは既に困難との声が非常に多く聞かれる。

それだけに、今回の有識者会議では廉価端末特例の見直しによる割引の増額が期待されたが、取りまとめ案では「過度な値引き等の誘引力に頼った競争慣行からの脱却等を根拠に現行ルールの維持を求める関係者が多い」とし、見直す必要はないとの結論に至っている。

急速にスマートフォンの価格が高騰しているにもかかわらず、ルールの見直しがなされなかったことで、低価格のスマートフォン求める人の端末買い替えは、今後非常に困難になることが予想される。

急速な価格高騰が進む中、見直しが期待されていた「廉価端末特例」だが、現行ルールの維持を求める関係者が多いとして「見直しは必要ない」との結論が下されている

そもそも今回の有識者会議の議論を振り返ると、「利用者視点を踏まえた」と銘打ちながらも、結局は規制維持を求める事業者側のエゴを強く反映した内容、という印象が非常に強い。

業界の問題となっているホッピング対策では熱心な議論がなされた一方で、消費者がいま切実に求めている “高騰するスマートフォン価格の引き下げ” に関しては、割引を増やしたくないこともあって規制の維持を求める事業者が多く、議論がほぼ盛り上がらなかったことが、そのことを象徴している。

法規制の目的でもあった携帯電話料金の引き下げが十分に進んだ一方で、消費者が急速なスマートフォンの価格高騰に苦しんでいる。その現状を考慮するならば、より利用者の視点に寄り添って韓国のように値引き規制そのものを撤廃するなど、強く踏み込んだ競争政策の見直し議論が必要不可欠だろう。

利用者視点をうたいながら事業者視点の議論に終始した今回の有識者会議に、筆者はとても強い失望感を抱いている。

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