【連載】佐野正弘のITインサイト 第213回
人気の「JALモバイル」に“ahamo版”追加、JALとNTTドコモの思惑は
携帯電話があまねく普及したことで市場が飽和し、携帯電話会社同士の競争が停滞している昨今。にもかかわらずここ最近、異業種によるモバイル通信事業への参入が盛り上がりを見せている。
中でも人気なのが航空会社によるモバイル通信サービスで、その火付け役となったのが日本航空(JAL)である。実際JALは2025年4月に、MVNO大手のインターネットイニシアティブと「JALモバイル」の提供を開始。サービス内容自体はIIJのモバイル通信サービス「IIJmio」の「ギガプラン」とほぼ同じながら、JALのサービスと連携したさまざまな特典が用意されているのが特徴だ。
具体的には、1つに契約内容に応じてJALのマイルと「Life Statusポイント」が付与されること。そしてもう1つは、4つの行き先候補のうちどこかに行くことができる国内線特典航空券「どこかにマイル」の交換に必要なマイル数が大幅に抑えられるクーポンを、年に1度提供されることだ。

JALモバイルの好評を受けてか、全日本空輸(ANA)を有するANAホールディングス傘下のANA Xが、2026年3月よりMVNOとして「ANAモバイル」の提供を開始。国内航空大手によるモバイル通信サービス競争が、急速に盛り上がっているのだ。
そこで先行するJALは2026年6月5日、再び大きな動きを見せている。新たに、NTTドコモと「JALモバイル powered by ahamo」の提供を開始すると発表したのである。

これはその名前の通り、NTTドコモが提供するオンライン専用プラン「ahamo」をJALのブランドで提供し、JAL独自の付加価値を追加するもの。従来のJALモバイルと同様、年1回のどこでもマイルクーポン付与や、毎月の利用でマイルやLife Statusポイントが貯まる仕組みが用意されるほか、新たに新規・乗り換え契約時にマイルがもらえる特典も追加される。
一方で、月額料金は通常のahamoと同じ2970円で、通信量も30GBとサービス内容はahamoと基本的に同じ。通信量を110GBに増やす「大盛りオプション」や、「d払い」などを利用した際のポイント還元率を高められる「ポイ活オプション」などの利用も、もちろん可能だ。
また既存のahamoユーザーも、「JALモバイルオプション」を追加契約すればJALモバイル powered by ahamoに変更できるという。オプションの申し込み時に2200円の手数料がかかるが、それ以上の料金はかからない。

新サービスの提供で気になるのは既存のJALモバイルだが、ユーザー層に違いがあることから、こちらも「JALモバイル powered by IIJmio」として継続するとのこと。ただ、JALモバイルの中に2社のサービスが混在してしまうため、双方のサービスを移行するには番号ポータビリティによる手続きが必要になるなど、複雑な状況が生まれてしまうことにもなる。

にもかかわらず、なぜJALはJALモバイル powered by ahamoを提供するに至ったのか。理由について、日本航空の執行役員マイレージ・ライフスタイル事業本部長の西田真吾氏は、JALモバイルの利用者から携帯大手のサービス品質を求める声があったためだと説明している。

確かに携帯大手のサービスは、混雑時に通信品質が低下しやすいMVNOのサービスと比べると、品質面では有利だ。だがJALモバイルの場合、より大きなポイントとなるのは海外での利用だろう。
JALモバイルは航空会社がサービスだけあって、提供当初より海外でモバイル通信が利用できることを要望する声が少なからずあったが、現行のMVNOの仕組み上、海外ローミングを容易に提供できないことに課題があった。そこでJALモバイルでも、2026年6月より海外で安くデータ通信を利用できる「JALモバイル 海外eSIM」を提供しているのだが、メインとは異なる回線を申し込む必要があり手間が生じてしまう。
しかしahamoであれば、追加料金不要で、30GBの通信量を海外の91の国・地域で利用できることから、JALモバイルとしても海外利用で優位性が高い携帯大手のサービスを、自社サービスに取り込みたかったのだろう。それだけにこの点は、競合のANAモバイルに対する大きな優位性となりそうだ。
もう1つ、JALモバイル powered by ahamoは、JALだけでなくNTTドコモの戦略を見据える上でも、実は非常に大きな動きでもある。なぜなら確固たるブランドを確立しているはずのNTTドコモが、MVNOのようにあえて、他社のブランドを冠したサービスを提供することになるからだ。
その背景にあるのは、やはり契約数を増やすことだろう。NTTドコモは通信品質の低下と市場競争の激化による業績悪化に苦しんでおり、親会社のNTTからは今後の事業拡大のためにも、通信契約の維持拡大が強く求められている。
だが従来のように、乗り換え契約者に対するポイント還元の強化だけでは、それを目的として短期間で契約乗り換えを繰り返す「ホッピング」行為の恰好のターゲットとなり、優良な顧客獲得につながらない。そこでNTTドコモは、既に強力な顧客基盤を持つJALのような企業と手を組み、その企業のブランドを活用して契約数を増やす “実” を取りに行ったのではないかと考えられる。
ただ、JALのブランドを前面に打ち出したサービスの契約者が増えてしまうと、NTTドコモの他のサービス利用に広がらず、携帯各社が力を入れる経済圏ビジネスを展開する上では不利に働くように思える。
だが西田氏は、「経済圏という考えでいうと、綺麗に分離されている方が見ている分には分かりやすいが、(JALの)マイラーでもdポイントを貯めるシーンはある」と話し、利用者がそれぞれのライフスタイルに応じて、複数の経済圏を重複して利用していることが多いことから、双方にメリットのある取り組みだとしている。

また、NTTドコモの常務執行役員経営企画部長である坪谷寿一氏も、各社の経済圏ビジネスの取り組み自体が多様化していることから、今回の取り組みが「経済圏自体にブレーキをかけるものではない」と回答。将来的には両社の経済圏のデータを連携した価値創造も検討しており、両社の経済圏ビジネスの発展につなげようとしている様子だ。

そうなると、次のステップとして注目されるのは、NTTドコモがJALモバイルに続いて、パートナー企業のブランドを冠した「○○モバイル powered by ahamo」というサービスの提供を本格化するかどうかである。この点についてNTTドコモ側は、今回の取り組みが最初のステップと位置付け軌道に乗せることを最優先にし、その結果を見極めた上で他社に広げるかどうかを改めて検討すると説明していた。
もしNTTドコモが自社ブランドにこだわらないサービス提供を本格化したとなれば、競合、とりわけ異業種のモバイル通信参入を新たな商機として力を入れているMVNOに与える影響は甚大だ。だが顧客を増やすことが至上命題となっている現在のNTTドコモにとって、強力なブランドと顧客基盤を持つサービスとの連携はメリットが大きいことから、 “実” を取るべくこの路線の強化に踏み切る可能性は十分あると筆者は見ている。
