【連載】佐野正弘のITインサイト 第209回

デザインと望遠カメラが劇的変化、「Xperia 1 VIII」はファンの支持を得られるか

佐野正弘

2026年3月31日に事業分離が発表され、中国TCL Electronicsへの譲渡が決定したテレビ事業と同様に、非常に厳しい状況にあるソニーのスマートフォン事業。だがソニーは2026年5月13日、そのスマートフォン事業の今後に向けた試金石となりそうな新しいスマートフォン「Xperia 1 VIII」を発表している。

ソニーの新しいフラグシップモデル「Xperia 1 VIII」。鉱石の原石をイメージしたというカラーと新しいデザインが目を引く

Xperia 1 VIIIはその名前の通り、ソニーのスマートフォンのフラグシップモデル「Xperia 1」シリーズの最新モデルだが、従来のXperia 1シリーズから大幅なリニューアルを遂げている。そのことを示しているのが、Xperia 1シリーズの象徴でもあるカメラ部分のデザインだ。

Xperia 1シリーズは広角・超広角・望遠の3つのカメラを搭載しており、それ自体はXperia 1 VIIIも変わらない。だがその配置が大幅に変化しており、縦に並ぶ従来のデザインから、最近のスマートフォンで多い四角に並ぶデザインとなっている。

最も大きく変化したのはカメラ部分。3つのカメラが縦に並ぶ従来のデザインから、3つのカメラが四角に並ぶデザインとなっている

カメラのデザインが大きく変わった理由は望遠カメラにある。Xperia 1 VIIIの望遠カメラは焦点距離70mmで、1/1.56インチ・4800万画素のイメージセンサーを採用しているのだが、これは前機種「Xperia 1 VII」のイメージセンサー(1/3.5インチ、1200万画素)と比べて、サイズと画素数ともにおよそ4倍となっている。

しかもこのイメージセンサーは超広角カメラと同様、ソニー独自の積載型構造を採用した「Exmor RS for mobile」である。広角カメラが採用している「Exmor T for mobile」と比べれば性能が落ちるとはいえ、小型ながら暗い場所で高い撮影性能を誇る。Xperia 1 VIIIでは、暗い場所における望遠撮影の画質向上が期待できるだろう。

Xperia 1 VIIIは望遠カメラが大きく変化しており、イメージセンサーが前機種「Xperia 1 VII」の4倍となり、画素数も他のカメラと同じ4800万画素となった

加えて画素数も広角・超広角カメラと同じ4800万画素となったことから、動画撮影時にAI技術を活用し、被写体を追従してフレーム内に収める「オートフレーミング」が望遠撮影時も利用できるようになった。Xperia 1 VIIでは広角・超広角撮影時のみ利用できた機能だけに、望遠カメラの強化で動画撮影のしやすさが向上したのは嬉しい。

望遠カメラの画素数向上により、動画撮影時の「オートフレーミング」が望遠撮影時も利用できるようになった

ただ、イメージセンサーのサイズが大きくなったことで、カメラのモジュールが大きくなってしまったようだ。5000mAhのバッテリーを搭載するスペースを考慮すると、縦に並ぶデザインを維持できなくなった。結果、ボディデザイン自体を大きく変える必要があり、今回の変更へとつながったようだ。

上がXperia 1 VII、下がXperia 1 VIIIの望遠カメラモジュール。イメージセンサーが大型化した分、縦にサイズが大きくなっている

もう1つ、望遠カメラのイメージセンサー変更により、望遠カメラの光学ズーム機構が廃止されたことを気にする人も多いと思う。

Xperia 1シリーズは2021年発売の「Xperia 1 III」で、望遠カメラに2つの倍率を切り替えられる可変式のレンズを採用。翌2022年発売の「Xperia 1 IV」以降、レンズが連続して動作する真の光学ズームを実現しており、それがシリーズの大きな特徴にもなっていた。

2024年発売の「Xperia 1 VI」からは、レンズが可変する望遠カメラの特性を生かし、本格的なマクロ撮影ができるテレマクロ撮影機能を搭載。撮影方法を工夫すれば芸術的な写真を撮影できる点も、Xperia 1シリーズのアピールポイントの1つとなっていた。

可変式レンズ採用の望遠カメラの特性を生かし、「Xperia 1 VI」からはマニュアルフォーカスによるこだわりの撮影が可能なテレマクロ撮影機能が用意されていた

だがXperia 1 VIIIでは、可変式レンズをやめたことで、これらの機能が大幅に変化した。テレマクロには引き続き対応するが、専用のモードは廃止。ズーム撮影も最近のスマートフォンで一般的な、イメージセンサーの高画素を生かして撮影した写真の一部を切り出す仕組みへと変更されている。

一方でソニー側の説明によると、Xperia 1 VIIIの望遠におけるズーム撮影は、イメージセンサーの性能向上と「RAWマルチフレームプロセッシング」の導入により、従来の光学ズームより高い画質を実現しているという。この処理技術は静止画撮影時に全てのカメラで利用でき、撮影した写真が加工されていないRAWデータの段階で、同時に撮影した複数の写真を重ね合わせて画質を改善するというものだ。

望遠カメラでも暗い場所などでの画質を向上させるため、RAWデータの段階で重ね合わせ処理をする「RAWマルチフレームプロセッシング」が適用されるという

ソニーはカメラに関してもう1つ、望遠カメラに並ぶXperia 1 VIIIのカメラに関する新たな特徴として「AIカメラアシスタント」を打ち出している。これは撮影時に被写体をAIが認識し、シーンに応じた最適な表現を提案してくれる仕組みだ。

AIは最大で4つの提案をしてくることから、それらの中で好みの表現を選ぶことにより、カメラの細かなパラメータ調整を手動でする必要なく、好みの撮影表現ができる。質の高い撮影を、誰でも手軽に楽しめるようにする機能といえるだろう。

Xperia 1 VIIIの新機能としてアピールされている「AIカメラアシスタント」。被写体に応じ適した表現を提案し、選んだ表現に合わせて設定も自動で変更してくれる機能だ

そしてこれらカメラに関する進化を見るに、ソニーはXperia 1シリーズ最大の特徴であるカメラの方向性を、大きく変えているように感じる。Xperia 1シリーズはかつて静止画、動画など撮影方法ごとに専用のアプリを用意していたし、カメラアプリが統一されて以降も、テレマクロのようにこだわりの撮影モードを用意するなど、カメラに詳しい人がクリエイティブにこだわるためのカメラを目指していた印象が強い。

だが、Xperia 1 VIIIで望遠カメラの中身を大きく変え、さらにAIカメラアシスタントのように、誰でも綺麗な写真が撮影できる機能をアピールの中心に据えている。ソニーがXperia 1シリーズのカメラから複雑さを廃し、より多くの人が撮影しやすくすることに重きを置くようになった感がある。

そのこと自体は、より多くの人にスマートフォンを販売する上では重要だ。ただ、Xperia 1 VIIIの価格と購買層を考えると、その方向性を手放しで喜べないようにも感じてしまう。

Xperia 1 VIIIは、円安に加え昨今のメモリ不足の影響などもあって、SIMフリーモデルでは最も安価なRAM12GB、ストレージ256GBのモデルで23万6000円と、Xperia 1 VIIの発売時の価格(20万4600円から)と比べてもさらに価格が上昇した。もはや一般ユーザーが容易に購入できる製品ではなくなっている。

それだけに重要になってくるのが、高額でもXperia 1シリーズを継続的に購入しているコアファン層への販売強化である。だがデザインや機能面など多くの部分で変化を遂げ、コンセプトも大きく変化しつつあるXperia 1 VIIIに、従来のコンセプトや機能を支持するコアファン層が、どのような評価をするのかは未知数だ。

フラグシップモデルの大幅な高騰が進んだ現在、その販売を確実に増やしていく上で、コアファン層の支持獲得は欠かせない。ソニーには、大きく変わったXperia 1 VIIIを知り理解してしてもらう、販売面での取り組みが大きく問われることになりそうだ。

関連キーワード: