【連載】佐野正弘のITインサイト 第207回

Starlinkとスマホの直接通信、携帯2社が新たに参入。先行するKDDIはどうする

佐野正弘

「au Starlink Direct」はサービス提供から1年で利用が拡大しており、既に400万人が利用したとのこと

米Space Exploration Technologies(SpaceX)の低軌道衛星群「Starlink」を活用した通信サービスは、2024年の能登半島地震で通信を復旧・維持するのに積極活用されたことなどもあって、その知名度を大きく高めている。中でも、国内でStarlinkを活用したサービスの展開に力を入れているのがKDDIだ。

その取り組みの中で最も大きな注目を集めたのは、Starlinkの衛星と地上のスマートフォンが直接通信してデータ通信の利用を可能にする「au Starlink Direct」ではないだろうか。KDDIは2025年4月にこのサービスを開始しているが、同社の発表によると、この1年でその利用者は400万人を突破。対応機種も2026年4月時点で89機種・1100万台にまで拡大しているという。

だが最近になって、競合各社がau Starlink Directに類するサービスを相次いで開始している。実際NTTドコモは、2026年4月2日に「docomo Starlink Direct」の提供開始を発表、2026年4月27日からサービスを開始している。

またソフトバンクも、2026年4月10日に「SoftBank Starlink Direct」の提供を開始した。テレビCMの積極展開によるアピールに加え、メインブランドの「ソフトバンクブランド」だけでなく、KDDIが従来対応していなかったサブブランド「ワイモバイル」利用者にも無料で提供することを打ち出し、優位性を打ち出してきた。

ソフトバンクは2026年4月10日に「SoftBank Starlink Direct」の提供を開始。「ソフトバンク」だけでなく「ワイモバイル」ブランドでも無料で利用できるなどして優位性を打ち出していた

では、独占による優位性が崩れたKDDIは、いかにしてau Starlink Directの優位性を維持しようとしているのか。2026年4月23日に、au Starlink Directに関する説明会を実施、ソフトバンクに追随してサブブランドの「UQ mobile」でもau Starlink Directを無料で利用できるようにすることを打ち出したが、他にもいくつかの新たな取り組みを打ち出している。

KDDIもソフトバンクに追随し、従来有料だった「UQ mobile」でのau Starlink Directを、2026年5月より無料で利用できるようにするとしている

その1つは海外ローミングの強化だ。KDDIは2026年3月に、米国でau Starlink Directの海外ローミングを初めて実施しているが、2026年6月にはカナダ、9月にはフィリピン、そして年内にはニュージーランドへと、ローミング対応国を広げるとしている。米国やカナダなどは日本よりはるかに国土が広く、モバイル通信が圏外となるエリアも少なからず存在することから、ローミングの拡大でそうした地域へ観光に訪れた際の安心感は大いに高まるだろう。

au Starlink Directの海外ローミング拡大を打ち出しており、既に提供されている米国に加え、今後カナダ、フィリピン、ニュージーランドでの利用も可能になるという

そしてもう1つ、安心感を高める取り組みとして打ち出されたのが「SOSセンター」の新設である。Starlinkによる衛星・スマートフォンの直接通信では現状、音声通話に対応していないので、当然のことながら緊急通報もできない。それゆえau Starlink DirectのエリアでSOSの連絡をする場合は、一度家族や友達などにメッセージを送り、そこからさらに緊急通報をしてもらう必要があるため時間がかかってしまう。

その問題を解消するべくKDDIが立ち上げたのがSOSセンターである。au Starlink Direct利用者が緊急通報をしたい時、「auナビウォーク」など特定のアプリから必要な情報を入力してメッセージを送ると、そのメッセージをSOSセンターが受信し、警察や消防などの緊急通報受理機関に連絡する。第三者を経由しない分、より迅速に緊急通報ができる訳だ。

新たに「SOSセンター」を設けることで、au Starlink Direct接続時に特定のアプリからSOSの情報をメッセージで送ることで、より迅速に緊急通報受理機関への連絡が可能になる

だがKDDIはもう1つ、au Starlink Directを個人向けのスマートフォンだけでなく、企業向けにも活用することにも力を入れ、競合との差異化を図る方針のようだ。そのことを示す取り組みの1つが「au Starlink Direct for IoT」である。

これは地上のモバイル通信が整備されていないエリアで、au Starlink Directの仕組みを活用してスマートメーターや監視カメラなどのIoT向け通信を提供するもの。人口が非常に少ない、あるいは住んでいない山間部などのデジタル化や、災害対策、あるいは昨今話題となっている熊などの獣害対策などへの活用が想定されている。

「au Starlink Direct for IoT」に対応した機器。モバイル通信が整備されていない山間部などでも、Starlinkに直接接続することでIoT向けの通信サービスが提供できるようになる

だがそれより一層踏み込んだ取り組みとして打ち出されたのが、アンテナを用いた通常のStarlinkの通信を企業向けに提供する「Starlink Business」で、インターネットを介さず企業のネットワークに直接つなぐ「閉域接続」を実現するというもの。Starlinkはインターネットに直接接続する仕組みで、閉域接続を実現するにはSpaceX側の協力も必要となるだけに、競合が追随しづらいKDDI独自のサービスといえる。

KDDIの説明によると、これは2024年の能登半島地震でStarlinkを活用した際、個人情報を多く扱う医療や自治体などから、非常時でも安全な通信ができる仕組みを求める声が多かったことから開発が進められたものだという。他社に先行してSpaceXとの関係構築を進め、Starlinkを活用してきた経験が、他社にはない新たなサービスの開発に生きている様子を見て取ることができよう。

KDDIは能登半島地震でStarlinkを活用した際、非常時でもセキュリティを確保した通信が必要という声を聞いたことで、SpaceXと協議しStarlinkでの閉域接続を実現するに至ったとのこと

一連の取り組みを見るに、KDDIは他社に先駆けてStarlinkを活用していることで得た知見を、新しいサービスの開発に生かすことにより、衛星通信での競争優位性を維持しようとしていることが分かる。だがこれまでの整備戦略が功を奏し、英Opensignal社のレポートで高い評価を得ている地上のネットワークとは違い、au Starlink DirectはStarlinkという同じ衛星群を使用している以上、通信品質で他の2社と大きな違いを打ち出すことはできない。

しかも低軌道衛星通信はSpaceXが圧倒的に先行している状況にある。楽天グループが出資する米AST SpaceMobileや、最近衛星通信事業を手がける米Globalstarを買収した米Amazonなどが、2026年内に低軌道衛星を活用した通信サービスを提供開始予定だが、順調にサービスを開始できるかはまだ未知数な部分があるし、打ち上げる衛星の数などを考慮しても、品質面でStarlinkに追いつくには時間がかかるだろう。

ネットワークで差異化が図れないのに加え、今後は競合他社もStarlinkを活用したさまざまなサービスやソリューション開拓を進め、急速にKDDIをキャッチアップするものと予想される。KDDIの時間的優位性は決して長いとは言えないだけに、その時間をどこまで有意義に活用できるかが、今後の勝負所となってくるのではないだろうか。

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