【連載】佐野正弘のITインサイト 第205回
ソフトバンクが販売を決めた「Natural AI Phone」、AIエージェントでスマホを変えられるか
急速な勢いで発展を遂げるAI技術が大きな注目を集める昨今。スマートフォンにもAI技術を取り入れたスマートフォンが増えているが、よりAIの利用に大きく踏み込んだスマートフォンの投入を発表したのがソフトバンクである。
同社は2026年4月17日、米Brain Technologies製のスマートフォン「Natural AI Phone」の発売を発表している。これは分かりやすく言えば、昨今話題の「AIエージェント」を標準搭載したスマートフォンだ。

Natural AI Phone約6.7インチのディスプレイと3眼カメラ、チップセットに米クアルコム製の「Snapdragon 7s Gen 3」を搭載した、スタンダードなミドルクラスのAndroidスマートフォンといった印象。AIを活用するためかRAMが12GBとやや大きく、日本市場に向けてFeliCaにも対応しているが、ハードウェアとして取り立てて目立った特徴がある訳ではない。
それだけにNatural AI Phoneは、AIエージェントの「Natural AI」こそが最大の特徴となっている。一般的なスマートフォンは、人が自ら複数のアプリを操作して用件をこなす必要がある。だが、Natural AI Phoneは、AIにやりたいことを伝えることで、目的に応じた提案をし、必要に応じて操作も自動でしてくれるのだ。

会食の予約をしたい場合を例に挙げると、通常であればWebブラウザや地図アプリなどで場所やお店を探し、予約アプリで予約をし、カレンダーアプリにその予定を追加する……といった操作を人間が全てこなす必要がある。だがNatural AI Phoneの場合、日時や場所、好みなどの条件をAIに伝えると、目的に合ったお店を探して提案。選んだレストランを予約し、カレンダーに予定を追加するといった操作もAIが自動でこなしてくれる。

さらにNatural AI Phoneは、普段のスマートフォン利用からユーザーの行動などの情報を記録。必要に応じてそのデータを活用することにより、よりユーザーが求める最適な提案をしてくれる機能なども備わっている。
単にAI技術を活用したスマートフォンという訳ではなく、OSレベルでAIを組み込み、AIによる操作に重きを置いたスマートフォンといえるだろう。

そのNatural AI Phoneを開発したBrain Technologiesは、AI技術を活用したユーザーインターフェースを開発するスタートアップ企業だ。スマートフォンを製品として投入するのはNatural AI Phoneが初となるが、それ以前にも独ドイツテレコムと提携し、2024年には同様のAIスマートフォンのコンセプトモデルを披露していたことがある。

同社はその少し前からソフトバンクと接触していたようで、当時はNatural AI Phoneもまだコンセプトの段階だったという。だが目指す方向性が近いと判断して両社は協力に至り、今回の製品化へとこぎつけたようだ。
Brain TechnologiesのCEOであるジェリー・ユー氏は、国内未発売だった初代「iPhone」が登場してからおよそ19年が経つ現在もなお、アプリを人間が操作するというスマートフォンのあり方が変わっていないことに疑問を抱いていたとのこと。そこでより人間の思考に近い、自然な形で操作できるインターフェースに変えるべく、OSのカーネルレベルに手を加え、AIを中心とした独自のアーキテクチャを開発したという。

ただ、同社はハードウェアの開発は手掛けておらず、今回のNatural AI Phoneもスマートフォンで実績のあるパートナー企業が製造を担っているとのこと。なのであれば、他社に同社の技術をライセンス提供することをビジネスにする手段も考えられる。
しかし、ユー氏は「初めて開発するAIフォンは、全て我々がコントールしたらこうなる、ということを見せたかった」と話している。ハードとソフトを全てコントロールすることで、より同社が望むスマートフォンの姿を実現したかったようだ。
それだけにNatural AI Phoneは、一般消費者からするとかなり先駆的な内容といえる。AIによる操作に対応するアプリも「Gmail」などグーグル製のものや、Eコマース関連、そして「LINE」「食べログ」などに限られている。今後対応するアプリは増やしていく予定だというが、全てのニーズに応えられるわけではなく、利用する側にもある程度の知識や理解が求められるだろう。
そうしたことから、ソフトバンクのプロダクト本部本部長である足立泰明氏は、Natural AI Phoneの販売数は他のスマートフォンよりは少なく、チャレンジ要素の強い取り組みだと話している。
それゆえターゲットは、AI関連の技術に強い関心を持つイノベーター、アーリーアダプター層になるというが、一方で足立氏は「サブ機ではなく、メイン機として使って欲しい思いはある」とも話しており、製品の内容には自信を持っている様子だ。

また足立氏は、ソフトバンクとしてもNatural AI Phoneの開発にあたって「AIの発展スピードを考えると、キャリアも考え方を変えないととても追いつけない」と話す。それゆえBrain Technologies側が提供するAI関連機能の部分に関しては、機能の把握はしつつも多くの部分の検証は同社に任せるなど、従来とは取り組みを変えている部分が多いという。
ただ気になるのは、Natural AI Phoneの将来性である。先にも触れたように、Natural AI PhoneはAndroidの深い部分に手を入れているため、今後のOSアップデートへの対応が難しくなってしまうように思える。足立氏は現時点で、具体的なOSのアップデート回数は公開していないというが、ソフトバンクとしてはセキュリティも含め可能な限りOSを最新にしていきたい考えであることから、今後Brain Technologies側と協議の上で検討していくとのことだ。
もう1つ、最近ではOSを提供するプラットフォーム事業者の側が、同種のAIエージェント関連機能の開発に力を入れていることも気になる。実際グーグルはサムスン電子などと協力し、AIエージェントをAndroidのOSレベルで組み込む取り組みを進めており、それがNatural AI Phone、ひいてはBrain Technologiesにとって脅威となる可能性がある。
だがユー氏は、グーグルなどの既存事業者は「アプリから収益を得るエコシステムを構築しており、それを維持しなくてはいけない。これはある種、イノベーションのジレンマだ」と説明。収益源である既存のエコシステムを維持しながら、新しいAIエージェントを実現することは難しいことから、そうしたしがらみのないBrain Technologiesに優位性があると話している。
スマートフォンにAIエージェントを導入する取り組み自体、始まったばかりのものではあるが、大きな将来性が見込めるとあってその競争は今後熾烈になるものと予想される。そうした状況下でNatural AI Phoneの取り組みを継続するには、Brain Technologiesがソフトバンク以外のパートナーをいかに拡大し、早期に利用を広げて普及を進めることが重要になってくるだろう。
ユー氏は2026年中に何か国かでNatural AI Phoneの展開を予定しており、そのうち1つは米国になると話しているが、さらなる拡大を図る上では先行する日本市場での実績が非常に重要になってくるように思う。ソフトバンクとの協力関係でいかに相乗効果を発揮し、日本での評価を高められるかが、今後大きな関心を呼ぶところではないだろうか。
