【連載】佐野正弘のITインサイト 第203回

「携帯電話不正利用防止法」で厳格化する携帯契約の本人確認、データSIMに影響も

佐野正弘

2026年も4月となり新年度に入ったが、携帯電話業界も今年の新年度にはいくつか大きな変化が起きている。以前にも取り上げたように、NTTドコモの3Gサービスが終了し、国内のモバイルネットワークが4G・5Gだけになること、そして携帯4社らによる「JAPANローミング」が始まったことなどが、主な変化といえるだろう。

そしてもう1つ、我々が携帯電話を契約する上で非常に大きな変化となるのが、2026年4月1日に改正された「携帯電話不正利用防止法」(携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律)である。

これは文字通り、犯罪などの不正行為に携帯電話が利用されることを防ぐための法律なのだが、今回大きく変わるのはその中でも、非対面での本人確認に関する部分だ。

総務省「不適正利用対策に関するワーキンググループ」第6回会合資料より。2026年から施行されている「携帯電話不正利用防止法」は、携帯電話契約・譲渡時の本人確認などを義務付ける法律であり、2026年4月にはその一部改正がなされることとなる

携帯電話不正利用防止法ではこれまでにも、携帯電話を契約する際の本人確認を求めている。だが犯罪者らがその隙を突いて不正にSIMを契約し、特殊詐欺などの犯罪に用いられてしまうケースが後を絶たないことから、法改正によりその隙を埋める取り組みが進められてきた。

そして今回の改正では非対面、主としてオンラインでSIM契約する時の本人確認が厳格化。原則的にマイナンバーカードや運転免許証などに搭載されたICチップを直接読み取って本人確認する方法へと一本化される。

これは従来認められてきたマイナンバーカードなどの写真付き本人確認書類の写真と、本人の顔写真を撮影して送信し、本人確認する方法が認められなくなったことを意味している。

同じく総務省「不適正利用対策に関するワーキンググループ」第6回会合資料より。本人確認をより厳格化するため、非対面での携帯電話回線契約ではマイナンバーカードなどのICチップ読み取りを義務化し、写真で券面を確認する方法の廃止が打ち出されていた

その理由はやはり、写真のみでの本人確認では不正を防ぎきれないためだ。マイナンバーカードの本人確認書類を偽造する技術は年々向上しており、人の目には見分けがつかないものも増えている。

それだけに偽造書類を用いて本人確認をすり抜け、携帯電話を不正に契約して問題となるケースが多く発生していたが、オンラインとなるとその区別が一層つきにくく不正の温床となりやすかったようだ。

だがICチップは偽造が非常に難しいので、最も確実に本人確認ができる手段として活用が進みつつある。とりわけマイナンバーカードは、既に日本国民の8割に普及するなど大きく広がっていることから、デジタル庁を中心に、オンライン・オフラインの両面で、マイナンバーカードのICチップを読み取り本人確認に活用する取り組みを強化している。

2026年2月に三重県名張市でデジタル庁が実施した、被災者情報把握システムの実証実験より。マイナンバーカードは顔写真付きの券面情報に加え、偽造が難しいICチップを搭載していることから、確実に本人確認できる手段として活用が進められている

そしてスマートフォンなどのデジタル機器を必ず用いるオンラインでの手続きであれば、対面よりもICチップによる本人確認がやりやすく、最も確実な本人確認手段となり得る。そのことを法律に反映したのが今回の法改正で、今後オンラインで携帯電話のSIMを契約する際は、マイナンバーカードなどによるICチップの読み取りが必須になると考えていいだろう。

この法改正に合わせ、携帯各社やMVNOはオンラインでICチップでの本人確認を実現するべくスマートフォンアプリでの対応を強化している。例えばこれまでアプリを提供していなかったMVNOの1つである「イオンモバイル」は、2026年3月26日より公式アプリを提供して契約時のICチップによる本人確認対応を図っている。

携帯電話不正利用防止法改正に対応するべく、イオンモバイルは2026年3月26日より公式アプリの提供を開始し、契約時のICチップ読み取りへの対応を進めている

法改正による各社の対応が進むことで、本人確認が徹底され不正契約が減少することが期待されるが、それだけで携帯電話回線の不正利用が減る訳ではない。中でも以前より多く指摘されているのが、データ通信専用のSIMである。

携帯各社やMVNOは音声通話とデータ通信が利用できるサービスだけでなく、データ通信のみ利用できるサービスも提供していることが多い。また訪日外国人向けのプリペイド(前払い)SIMなどもデータ通信専用であることが多いのだが、これまでデータ専用SIMの契約に本人確認は必要とされていなかった。

だが最近では電話をかける詐欺行為だけでなく、メールやSNSなどを通じた詐欺行為も多数存在しており、そうした詐欺行為に本人確認不要なデータ専用SIMが用いられるケースが増えている。そこで政府では、データ専用SIMの本人確認を必須化する議論も進められていた。

総務省「不適正利用対策に関するワーキンググループ」第6回会合の警視庁提出資料より。音声通話ができないデータ専用SIMはこれまで本人確認の必要がなかったことから、それを犯罪に悪用するケースが増えているという

そして各種報道によると、2026年3月24日にデータ通信専用SIM契約時の本人確認を義務化するよう、携帯電話不正利用防止法を改正する案を国会に提出したとされている。国会でこの案が通過し実際に法改正がなされれば、今後データ通信専用SIMにも契約時の本人確認が必須となってくるだろう。

報道では他にも、個人が不自然に多数の回線を契約することを、携帯電話会社が拒否できる規定が追加されるとされており、今後個人が契約できる回線数に制限が生じる可能性もありそうだ。それらはもちろん詐欺行為などの不正利用を防ぐためではあるのだが、あまり規制が先鋭化するとユーザーの利便性を損なう可能性があることも気になっている。

そのことを象徴しているのが、諸外国では非常にメジャーな存在のプリペイド方式携帯電話サービスである。こちらもかつて詐欺行為に多く利用されたことから、政府が2006年に携帯電話不正利用防止法を制定し本人確認を厳格化したのだが、これを受けて携帯各社はプリペイド方式の事業を大幅に縮小。自社サービスの安全性を打ち出すため、あえてプリペイド方式サービスの終了を打ち出す事業者もあったほどだ。

その結果、国内でプリペイド方式サービスに対するイメージが大幅に悪化、新たなサービスも生まれず利活用が進まなくなってしまった。プリペイド方式のサービスは国が長年求めてきた携帯料金引き下げにつながりやすい仕組みで、有効活用すれば競争促進に大きく貢献する可能性もあったのだが、国内では現状、存在感がほぼ失われてしまっているのが実情だ。

犯罪を防ぐことはもちろん非常に重要であるし、それを否定するつもりは毛頭ない。だが規制を厳しくするあまり、サービスの有用性や利便性が著しく損なわれてしまえば、事業発展の芽が失われてしまうこともまた確かである。今後も犯罪対策に向け様々な取り組みが進められるだろうが、政府には規制と自由のバランスを取った施策が求められる所だ。

関連キーワード: