【連載】山本敦の発見!TECH最前線 第6回
Uber Eatsはなぜデリバリーを「お店と同じ価格」にできるのか
日本のフードデリバリー市場がいま、大きな転換点を迎えようとしている。
2026年2月25日、DoorDash傘下の「Wolt(ウォルト)」が日本市場からの撤退を発表した。持続的な規模拡大が見込める地域に投資を集中するためだ。
外食産業の断続的な値上げや物価高の影響により消費者の節約志向が強まる中、店舗価格に配達手数料などが上乗せされるデリバリーは「割高」との認識が定着しつつある。結果、コロナ禍で急拡大したフードデリバリー市場は選別の局面に入り、淘汰が進んでいる。

業界に向かい風が吹いているように見える中、業界最大手のUber Eats Japanが3月19日に打ち出した新施策は市場の常識を覆す内容だった。
デリバリーを「生活インフラ」に進化させる
Uber Eatsが発表したのは、アプリ上の表示価格を加盟店の実店舗での販売価格と同一にする「お店と同じ価格」サービスの提供開始だ。3月20日から、ガストやローソンを含む全国約1万8000店舗で導入される。
Uber Eats Japan代表のユリア・ブロヴキナ氏は、この施策を実施する背景について「デリバリーをご褒美や忙しい日の『特別な選択肢』から、『毎日の生活インフラ』に進化させるため」だと説いた。
その核心にあるのが、同社が掲げる「3A戦略」だ。3Aは「Anywhere(どこでも)」「Anything(何でも)」「Affordability(お手頃さ)」の頭文字を取っている。
とりわけ「Anywhere」の観点では、サービス提供エリアの拡大を継続しており、2026年3月には石垣島や宮古島といった国内の離島地域にも展開を広げた。
Uber Eatsは2016年9月の日本市場参入以降、サービス網を全国47都道府県に拡大している。現在では12万を超える加盟店舗と、約10万人の配達パートナーを擁する規模にまで成長した。

今ではUber Eatsから購入して、配達サービスが受けられる品物はフードに限らない。日用品や小型サイズの家電までも網羅するほど品揃えは拡充している。
なぜ「お店と同じ価格」にできるのか
一般にデリバリーサービスの価格には加盟店が支払う手数料が上乗せされるため、店頭価格より2〜3割高く設定されるのが通例だ。この「壁」をどうやって取り払うことができたのか。
Uber Eatsの広報担当者によれば、この施策は短期的には加盟店に手数料負担をもたらす側面があるものの、それを上回る中長期的な成長を見据えて設計されているという。
店舗価格とデリバリー価格を統一することで、注文数の増加や1件あたりの注文単価の上昇が期待できる。さらにユーザー層の拡大が進めば、加盟店の中長期的な成長も促せる。
足もとを支えているのは、Uber Eatsが長年にわたり磨き上げてきたテクノロジーの基盤だ。ピーク時に複数の注文を効率よく処理する配車アルゴリズムや、配達パートナーのルートを最適化する仕組みがその中核を担う。これらのシステムが、配送コストの低減とオペレーション全体の効率化を実現する原動力となっている。
配達パートナーの報酬体系も、複数件同時配達時の柔軟なインセンティブ設定など、効率を上げるほど稼げる仕組みがある。コロナ禍以降もアクティブな配達パートナー数は増え続けており、10万人規模のネットワークがこの巨大なインフラを支えている。

ライバルは店舗。サービスの品質を落とさない工夫が求められる
発表会のパネルディスカッションに登壇した加盟店の声からも、デリバリーに対する期待の変化が読み取れる。
ローソンの吉田泰治氏は、Uber Eatsと提携する同社の全国約8,000店舗を「動く冷蔵庫」に例えた。365日24時間、食料品から日用品まで約3,500アイテムを店頭と同じ価格で届けられることは、「『今はどうしても外出できない』『急に体調がすぐれなくなった』といった方々の生活の支えになれることを意味している。ローソンが生活インフラの一部として、確かなポジションを築くための好機」にしたいと、吉田氏は意気込む。

ファミリーレストランのガストを展開する、すかいらーくホールディングスの平野曉氏は、3月12日から先行して価格統一を実施した結果、注文数が予測を大きく上回っていることを明かした。
ここで懸念されるのが、デリバリー対象商品の実質的な値下げによる「クオリティへの影響」だが、加盟店側にそのような妥協はない。
発表会に登壇した有限会社黒門小雀弥(こがらや)の川口扶展氏は、店舗の味を自宅で再現するための技術的な取り組みについて触れた。
具体的には、麺と出汁を分ける専用容器の開発や、商品を温かい状態で届けるための配達パートナーとの連携強化など、品質維持に向けた工夫を各所に凝らしているという。川口氏は「店舗とデリバリーの価格差が解消されることで、純粋に味のクオリティによって選ばれる時代が来る」との見解を語り、意欲をのぞかせた。
「時間資産」を買い戻すという合理的消費
筆者自身、デリバリーサービスを利用する際は以前からUber Eats一択だ。その理由は、今回の発表でも強調されていた「確実性」と「一貫性」にある。
最大のアドバンテージは、国内のみならず海外へ出張した際も、全く同じユーザー体験で利用できることだ。見知らぬ土地でも、使い慣れたアプリで食事が手配できる安心感は代えがたい。
トラッキングシステムの精度が高いことも、ユーザーとして安心できる重要な要素だ。配達パートナーが今どこにいて、あと何分で着くのかがアプリの画面上でリアルタイムに、かつ正確に把握できる。
そのため、待機時のストレスからも解放される。Uber Eatsを利用する際には、いつも原稿の締め切りに追われていることが多いので、配達員が到着するタイミングを把握しつつ、執筆作業に集中できる。

この利便性に「お店と同じ価格」という魅力がさらに加われば、これから利用する頻度がさらに増えそうだ。自分が食べたい料理、ほしいアイテムを提供する店舗が、このUber Eatsの施策に加わっていてほしい。
代表のブロヴキナ氏は、今回の施策について「競合への対抗が目的ではなく、日本でのサービス開始10周年を機に、ユーザーの要望を反映し生活を直接的に支援したいという考えに基づいている」と述べている。あわせて、今後も対象店舗を順次拡大していく方針を明らかにした。

Uber Eatsが仕掛けた今回の戦略は、競合他社の撤退が相次ぐ中で絶対的な自信の表れとして受けとめることもできる。
ブロヴキナ氏は壇上で繰り返し「値下げ競争が施策の目的ではない」ことを強調している。これまでに蓄積したデータと高度なアルゴリズム、そして膨大な店舗網と配達ネットワークという「規模の経済」を最大限に活用したインフラの適正化をこのタイミングで図れるところに、Uber Eatsの強みがあると筆者は考える。
同社は今後も市場の健全性を損なうことなく、ユーザーの認知と利用をさらに拡大できるのだろうか。今後の展開に注目したい。
