【連載】佐野正弘のITインサイト 第201回
災害時などに他社回線で通信できる「JAPANローミング」、利用促進に向けた課題は
東日本大震災から15年が経過した2026年だが、2011年以降多くの人がスマートフォンを手にしたことで、モバイル通信インフラの重要性が一層高まったことは多くの人が実感するところだろう。それだけに、災害時などにモバイル通信をいかに途絶えさせず、早期復旧を図るかが非常に重要になってきている。
そのためにも普段競争関係にある携帯4社が、非常時にはいかに協力して取り組むかが強く問われるようになってきた。そこで2026年3月18日、4社のグループが協力して実現した新たな取り組みとして、発表がなされたのが「JAPANローミング」である。

これは大規模の自然災害や通信障害などである携帯電話会社のネットワークが利用できなくなった時、他社が一時的にネットワークを開放し、そちらを使ってもらうことで通信を代替する取り組み。2022年にKDDIがおよそ3日間にわたって通信障害を発生させ、同社の通信回線契約者が通信できないなどの影響を受けたことを機として実現に向けた議論が始まったものであり、およそ4年の歳月を費やしようやく正式な実現へとこぎつけたようだ。

ただ、大規模災害や通信障害の際に生じる問題の内容や規模はその都度異なってくる。そこでJAPANローミングは、大きく2つの方式で提供がなされるそうで、1つは「フルローミング方式」である。
これはスマートフォンの設定でネットワークを「自動」で選択するよう設定しておくことで、問題が生じたときに他社回線へ自動的に接続し、通信を維持する仕組み。緊急通報を含む音声通話やSMS、データ通信が利用可能だが、ネットワークを提供する回線の負担を軽減するため、データ通信の通信速度は送受信共に最大300kbpsに制限される。
そしてもう1つは「緊急通報のみ方式」で、こちらは文字通り音声通話による緊急通報のみが利用できる仕組み。通信事業者のコアネットワークが故障しているなど、ローミング自体ができない場合はこちらが提供されるようだ。

緊急通報のみ方式ではネットワークが自動で切り替わらないことから、利用の際には契約している通信事業者以外のネットワークを手動で選んで接続し、通報が終わった後は再びネットワークの選択を「自動」に戻す必要がある。またこちらの方式では、電話番号や位置情報が緊急通報機関に通知されない場合があるため、通話によって場所などの詳細を伝える必要があるとのことだ。

JAPANローミングは2026年4月1日から開始を予定しているが、現状必ずしも全てのユーザーが利用できる訳ではない。まずJAPANローミングの対象となる携帯電話サービスだが、NTTドコモ、KDDI(沖縄セルラー含む)、ソフトバンク、楽天モバイルの4社グループが提供するサービスであれば、サブブランドやオンライン専用プランを問わず利用できる。
一方MVNOに関しては、緊急通報を含む音声通話やSMSは利用可能であるものの、データ通信に対応するのは一部のMVNO事業者に限られるとのこと。その理由はMVNO側に対応する設備を導入する必要があるためで、対応の可否はMVNO各社からの情報公開を待つ必要があるようだ。

またJAPANローミングに対応する機種に関してだが、2026年春以降に発売される機種は、日本で発売されるものは技術基準として順次対応が進められるようだ。それゆえ携帯4社以外が発売する、いわゆる「SIMフリー」のものも含め、今後発売される機種はJAPANローミング対応になっていくものと考えられる。
では発売済みの既存機種はどうか。一連の説明によると、フルローミング方式に関しては多くの機種が対応するというが、緊急通報のみ方式に関しては対応の可能性がある機種がかなり限られるようだ。
実際、各社のWebサイトでJAPANローミングの対応機種を確認してみると、主要メーカー製であればフルローミング方式の対応機種は比較的古めの機種でも対応している一方、緊急通報のみ方式に対応予定の機種はかなり最近の機種に限られることが多い。いざという時に備えたいのであれば、可能な限り新しい機種に買い替えておく必要がありそうだ。

このようにさまざまな制限はあるものの、JAPANローミングの提供によって大規模災害や通信障害時の通信手段を、より多くの人が確保しやすくなったことは確かだろう。大規模通信障害の時はもとよりだが、大規模災害時でもエリアによって「A社の回線は使えるがB社の回線は使えない」といった状況が起き得るだけに、自身が契約している回線が使えなくなった時でも、通信を維持できる可能性が高まったことは、命を守る上でも大きな意味を持つだろう。
最近ではKDDIの「au Starlink Direct」のように、スマートフォンと衛星を直接つないで通信できるサービスも出てきているが、現状では通信容量や安定性にまだ課題があり、音声通話、ひいては緊急通報に対応したものは出てきていない。そうした意味でもJAPANローミングが提供される意義と果たす役割は大きいのではないだろうか。
ただJAPANローミングはこれから始まるサービスで、しかも非常時のみ活用されるものだけあって、運用面ではさまざまな課題が生じる可能性が高い。理由の1つは、JAPANローミングを提供するタイミングの基準が明確ではないことだ。
JAPANローミングの提供条件は「大規模災害や大規模通信障害等により一部の通信事業者のモバイル通信がご利用いただけない場合」とされ、対象エリアも市区町村単位で決められるという。だが提供する時期や方式は各社で協議し、合意の上決定する形が取られることから、適切な場所にスピーディーに展開できなければ、有効に機能せず大きな不満や命の危機にもつながりかねない。将来的には自動で発動する何らかの基準作りが求められるだろう。
そしてもう1つは周知の問題だ。携帯各社はJAPANローミングが提供された際、自社のWebサイトなどで告知をし、さらにチラシや店頭での周知をするというが、他にインターネットに接続する手段がなければWebサイトを見ることもできないというのは、先のKDDIの通信障害でも多く指摘されたことだ。
それだけにより多くの人に素早く周知するには、テレビやラジオ、あるいはSNSなど、即時性があってより多くの人に同時に伝わりやすいメディアの活用が不可欠だろう。そうしたメディアと積極的に連携を図り、多くの人に早く周知を図る態勢の整備も強く求められるのではないだろうか。

加えて平常時から、JAPANローミングをより多くの人に周知する取り組みも不可欠になってくるように思う。携帯各社ではサービス開始に伴い専用のWebサイトを用意し、さらに利用者向けのチラシなどを用意するとしているが、毎月1日・15日などに試せる災害用伝言板(web171)のように、平常時から実際に体験して使い方を覚えられる環境整備も欠かせない。
ただ現状、平常時にJAPANローミングを試す環境を用意するのは技術的に難しいようで、引き続き検討は進めるとしているものの解決の目途は立っていないとのこと。ハードルは高いがそうした課題を解決していかなければ非常時の利用につながらないだけに、いざという時の利活用に向けた課題への取り組みが、今後は強く求められる。
