ホンダくん…

新規則でガラガラポンの2026年F1世界選手権が開幕。テクノロジー面での注目ポイントは?

Munenori Taniguchi

Image:F1/YouTube

3月6日、南半球オーストラリア・メルボルンで、2026年のF1世界選手権が開幕した。8日の決勝レースに向け、6~7日には3回の練習走行と予選セッションが行われる。

昨年、ブラッド・ピットが主演した映画『F1/エフワン』が大ヒットしたアップルは現在、続編の製作を準備中と言われている。だがアップルは映画のヒットを受けてさらにF1への関与を深め、2026年からは5年間のF1独占放映権を獲得し、動画ストリーミングサービスApple TVによる中継配信を2026年から開始した。

これにより、Apple TV加入者は追加料金を支払うことなく、F1レース全戦をリビングのテレビやMac、iPad、iPhoneその他Apple TV視聴可能デバイスで視聴できる。

Image:F1/Apple

ただ、これは米国内の話だ。日本では、従来通りテレビ中継はフジテレビのCSで、配信はDAZNに代わりフジテレビのFODが担当することになった。F1ファンにとってはFODの価格が月額3880円からと、Apple TVに比べて割高なのが辛いところではあるが、CS放送のフジテレビNEXTライブ・プレミアムなら月額2580円(4月以降)で引き続きF1を視聴できる。経済的に、また自身の視聴環境に合うものを選択すると良いだろう。

さて、われわれの視聴環境も変わったが、F1世界選手権そのものにも2026年シーズンから様々な変化が起こっている。この記事ではそのあたりを少しおさらいしてみよう。

まず、走行するマシンを見て最初に気づくのは、「アクティブエアロ」と呼ばれる、マシン前後でダウンフォースを発生させるウィングの挙動だ。2025年までは、マシンがコース上のストレートを走行するときにリアウィングの仰角が変わって空気抵抗を減らし、前走車を追い越すために用いられるDRSと呼ばれる機能が使われていた。

2026年からはこれを推し進め、アクティブエアロダイナミクスと呼ばれるシステムに更新された。このシステムは、前後ウィングのフラップ角度をDRSと同様に変化させることができる。

さらに、マシンの追い越し機会を増やすもう一つの施策として「オーバーテイクモード」が導入される。これは2台のマシンが1秒以内の間隔で争っているときに有効化できるモードで、有効化するとまずその周回で、ドライバーはマシンのバッテリーに通常よりも0.5MJ(メガジュール。1MJは約0.28kWh)余分に回生エネルギーを蓄えられるようになる。そして、次の周回でそのエネルギーをマシンの加速に使うことで、より有利に追い越しを仕掛けられる。

なお、通常のマシン加速では、速度が290km/hを超えて上昇するにつれMGU-Kのアシスト量が徐々に低下し355km/hでアシストがゼロになる。だが、オーバーテイクモードを使用中のマシンはバッテリー残量のある限りアシストを継続するようになり、ストレートでの加速の「伸び」の部分で大きなメリットが得られる。

Image:F1

目に見えないところで特に大きく規定が変更されたのは、エンジンと電動システムを組み合わせたパワーユニット(PU)まわりだ。F1は本質的には自動車を使った「スポーツ」でありながら、一方では、参戦する企業が独自の技術力や、近年では持続可能性と脱炭素化へのコミットメントを示す場としても機能している。そのため、車両規則面でも近年はPUのハイブリッド技術を導入しており、2026年からは、さらにそれを推し進めたルールが採用された。

新しいF1のPUは、エンジンは依然として1.6L V6ターボとして供給されるが、これまでターボに内蔵されていた熱回生システム(MGU-H)が廃止された。一方で、減速時に電力を発生する運動エネルギー回生システム(MGU-K)とバッテリーが強化され、想定されるマシン全体の出力は、エンジン400kW + MGU-K 350kWで、理論上は合計750kWになる。これは馬力で表すと約1020PS(1006bhp)だ。

Image:Honda

このPUで使用される燃料も、2026年からは100%カーボンニュートラル燃料の使用が義務づけられている。カーボンニュートラル燃料とは、化学的な成分はガソリンだが、その原料が化石燃料由来ではなく、非生物由来もしくは都市廃棄物や非食用バイオマス由来であることと定義されている。

とはいえ、従来のガソリンに比べると、カーボンニュートラル燃料は特性的に気化しにくい場合もある。F1での導入にあたっては参加PU各社や、チームと提携する石油企業がそれぞれ独自に開発した燃料を採用し、ここでもそれぞれの優位性を競っている。

なお、PUにおける電動比率の上昇とカーボンニュートラル燃料の導入は、レッドブルと提携してPUを製造するフォードとザウバーF1チームを買収して参戦を決めたアウディ、そして2021年にPU供給から撤退を表明したホンダが、方向転換して再び参戦を決めるなど、長年にわたり参入する自動車メーカーがいなかったF1の状況を変える要因にもなった(ただし、アルピーヌF1チームだけは、前身のルノーF1時代から昨年まで使い続けてきた自社製PUの開発を終了し、2026年からメルセデス製PUのカスタマーになっている)。

なお、2026年から新規参戦のキャデラックは、自社製PUを開発しているが、その開発は2029年を目標としており、当初はフェラーリからPU供給を受ける。

PUの変更は、ドライバーの運転操作方法も大きく変えている。F1のハイブリッド方式は、一般的な市販のハイブリッドカーとは異なる。各マシンは、サーキットを1周するごとに最大8.5MJ(約2.36kWh)を走行用に使うことができる。

しかし、マシンに搭載されるバッテリーの容量は4MJ(約1.1kWh)しかない。そのため、ドライバーは通常のMGU-Kからの充電に加え、エンジンの回転数を上げ、その動力をMGU-Kに強制的に回収させる「スーパークリッピング」と呼ばれる特殊な手法も駆使して、1周を走る間に複数回のエネルギーの蓄積と放出(デプロイ)を行うことになる。

特に、スーパークリッピング操作はエンジン回転数が上がるものの、その出力エネルギーが回生に使われる。ストレートで使用すればマシンは減速するし、コーナー進入時に使用すれば視聴者や観客からは、普通ならエンジン音が下がっていくはずの場面で、不自然にアクセルを煽っているような音が聞こえるようになる。こうした変化は、もしかするとレース展開にも影響するかもしれない。

ただ、これら回生に関連する操作はドライバーの視点からすれば、レース中のドライビングへの集中力を別の方向に使うものだ。マックス・フェルスタッペン選手などは正直に「面白くない」とコメントしている。

また、われわれ日本のF1ファンにとって気になるのは、ホンダが大苦戦に陥っているところだ。2023年に全22戦のうち21勝という圧倒的強さを誇ったホンダと、そのマシンであるレッドブルRB19を設計した天才デザイナー、エイドリアン・ニューウェイが、アストンマーティンF1チームでふたたびタッグを組むことになる。

だが、チーム全体としても大きな期待をもって迎えた2026年シーズンは、開幕前に行われた合同テストにおいて、マシン側と結合したPUの振動が、モノコックタブごと共振してしまうという致命的な問題を露呈した。さらに、走行中にバッテリーパックが振動に耐えられず破損してしまうなど、ほとんどまともに走行できないまま開幕を迎えてしまっている。

2026年のF1開幕戦オーストラリアグランプリが行われているメルボルンでは、ニューウェイとホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長が共同会見を開き、その惨状を説明した。

そこでホンダは、ダイナモ上でエンジンとギヤボックスを車体に搭載し、ダイナモ上で走らせることで、できる限りの対策を施したものの、問題の解明や抜本的な対策を施すには至っていないと述べた。この対策はテストで破損したバッテリーへの振動を大きく減らすものだ。だが、実際にコースを走ってみなければどれぐらい効果のある改善かはわからない。

一方、ニューウェイは2026年用マシンAMR26について、車体重量が重すぎることを認識しているものの、車体だけで言えば1周タイムでの遅れはベンチマークから0.75~1秒程度であり、全体では「おそらく5番目に優れている」シャーシだと主張した。

ただ、共通する認識は、振動源はエンジンとMGU-Kの組み合わせである可能性があり、シャシーがその受け皿になって振動を大きくしてしまっているというものだ。カーボンファイバー製のモノコックタブを中心とするF1のシャーシは、剛性が非常に高いため、振動がほとんど減衰しない。そのため、PUで発生した振動でミラーやテールランプといったパーツが文字通り車体から振り落とされてしまう可能性まであるという。

この振動はコクピットのシートやハンドルを通じてドライバーにも伝わっている。ランス・ストロール選手は、感電しているような感覚で非常に不快だと述べた。もう一人のドライバーで、2005年、2006年のF1チャンピオンであるフェルナンド・アロンソ選手は「手の神経に取り返しの付かない損傷を負うリスク」を冒さずに連続で25周以上走行できないと感じる旨をコメントした。これについては、2025年に手首を負傷し手術も経験したストロール選手も「15周が限度」と考えているという。

実際、オーストラリアグランプリ初日は2度練習走行セッションをすでに終えたが、アストンマーティンの2台は、走行したマシンの中では最下位に沈んでしまった。このグランプリでは難しいと思われるが、一日も早く振動問題を解決し、ニューウェイの主張が正しいかどうかを確認したいところだ。

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