【連載】佐野正弘のITインサイト 第197回
謎の韓国スマホメーカーが「ケータイのようなスマホ」で突如日本に上陸、一体なぜ
インフレや円安、政府のスマートフォン値引き規制などもあって多くの国内メーカーが撤退し、低迷が続く日本のスマートフォン市場。その状況下で2026年、新たに日本進出を果たしたスマートフォンメーカーがある。
それは「ALT」という韓国の企業だ。といっても、日本でALTについて知っている人はほとんどいないだろう。なぜ韓国でALTが生まれ、日本市場へ進出してきたのかというと、そこにはスマートフォンの市場が飽和し、競争激化の末にメーカーが減少したという、日本と共通した事情が大きく影響している。

日本にもかつて多くのスマートフォンメーカーがあったように、韓国にも多くのメーカーが存在した。サムスン電子や、2021年に撤退したLGエレクトロニクスが知られるところかと思うが、かつて日本に進出していたパンテック(2014年に経営破綻、会社としては現在も存続)を覚えている人もいるかもしれない。

だが、中国メーカーの台頭による世界的な競争激化の末、メーカーの淘汰が進んでサムスン電子以外の主要韓国メーカーは撤退。結果、韓国市場では米アップルとサムスン電子の2大勢力が市場をほぼ二分している状況にあるが、両社はともに高額なフラグシップモデルや、市場の “ど真ん中” を狙ったモデルを世界規模で多数販売する、規模のビジネスに力を入れている。
それゆえこれらのメーカーは、特定の市場に向け、少数のニーズを満たす端末の開発に消極的だ。その代表例に挙げられるのがシニア向けや子供向けのスマートフォンであり、かつてはサムスン電子もこうした層に向けた端末を出していたものの、規模による競争が強く求められるようになって以降は力を入れなくなっている。
だが、ローカル市場で事業を展開している携帯電話会社にとって、そうした少数のニーズを満たす端末は意外と重要な存在でもある。日本でも携帯各社がシニアや子供に特化した携帯電話やスマートフォンを販売しているが、それは専用デバイスの投入により、通常のスマートフォンではカバーできない層にも通信契約をしてもらう狙いが大きい。
しかしながら多くのメーカーが撤退した韓国には、ニッチな端末を作ってくれるところがなく、そこで台頭したのがALTなのである。ALTは2017年に設立した新興のメーカーで、韓国の端末メーカーや通信会社出身者が多く参画。主にスマートフォンやセットトップボックス(STB)、AIロボットなどを手がけている。

とはいえスマートフォン市場が飽和し、規模によるビジネスが求められる中にあって、単に新興のメーカーが参入しても到底敵わない。それゆえALTは当初より、メインストリームを狙った端末は開発せず、シニアや子供など、大手が狙わないニッチな需要を満たす端末の開発・販売に注力する戦略を取った。
その結果、SKテレコムやKTといった韓国の携帯大手との取引を実現して急成長を遂げ、2025年には韓国の新興企業向け株式市場であるKOSDAQへの上場も果たしている。そこでALTはさらなる成長を求めて2026年に海外進出へと踏み切り、米国、そして日本への参入を打ち出した訳だ。

それゆえALTが日本で最初に投入する製品も、強みとするシニアをターゲットとした「MIVE ケースマ」となる。これは従来型の折り畳みタイプの携帯電話型ながら、中身はAndroidを搭載したスマートフォンである。

それゆえMIVE ケースマは、従来の携帯電話のようにキーやボタンで操作や文字入力できる一方、タッチ操作に対応した4.3インチのディスプレイを搭載する。「Google Play」もプリインストールされていることから、スマートフォンアプリを追加し、タッチで操作することも可能だ。
この仕組みによって従来の携帯電話と変わらない使い心地を実現しながら、スマートフォンでしか利用できない「LINE」などが利用できることをアピールする。携帯電話を使い続けたいがLINEなども利用したい、というシニアの乗り換えを促したい狙いがあるようだ。

MIVE ケースマは日本参入第一弾ということもあり、韓国で販売されている同型のモデルを一部カスタマイズして提供する形が取られているため、日本のニーズに合った洗練度合いという意味では弱さもある。Androidがベースとなるためユーザーインターフェースが従来の携帯電話とはかなり違っているのに加え、このタイプの端末としては画面サイズが大きいため、本体サイズもかなり大きいと感じてしまう。

もっともALTは日本に参入したばかりなだけに、MIVE ケースマで日本市場に勝負をかける訳ではないだろう。まずはこの機種で日本市場の動向をつかみ、今後投入する製品の開発にその知見を生かすことで、韓国と同じように携帯4社からの販売を実現することが最大の狙いと筆者は見ている。
そこでハードルになってくるのが国内メーカーの存在だ。日本にはシャープやFCNTのように、ローカル市場に力を入れる国内メーカーが複数存在。すでに携帯各社に向けてシニアや子供向け端末を供給している状況にある。
ALT側の説明によると、日本にはシニアのフィーチャーフォン利用者がまだ数百万人いるため、市場性が高いという。それに加えてALTは企業としての規模が小さい分、フットワークが軽く筋肉質な体制で小回りの利く事業展開ができることから、ビジネスチャンスが十分あるとして市場参入を決めたようだ。
ただ、同じくニッチ市場に着目して日本市場に参入した米オルビックが、品質面の問題などで苦戦を強いられたように、独自性が強い日本市場で海外の新興メーカーが足場を固めるには難しさも伴う。
パンテック時代にKDDIとのビジネスに携わったというCEOの李尚洙氏をはじめ、ALTには日本市場でのビジネス経験を持つ人材が多く存在するだけに、その知見をうまく生かして日本市場のニーズを確実につかむ製品投入やサポートができるかどうかが、大きな勝負所になってくるだろう。
