2019年ツール・ド・ポーランドの選手死亡事故をきっかけに開発

サイクリスト用「着るエアバッグ」、UCIワールドツアーの一部チームが採用へ

Munenori Taniguchi

Image:Aerobag

ベルギーのAerobag社は、社名と同じ名前のサイクリスト用エアバッグシステム「Aerobag」を開発している。

このシステムは電子センサーが、走行中のサイクリストに何らかの衝突の可能性を検知して、自動的に膨張する「着るエアバッグ」だ。開発のきっかけとなったのは、2019年のツール・ド・ポーランドで起こったベルギーの若手選手ビョルグ・ランブレヒトの死亡事故だったという。そして、現在自転車ロードレースのUCIワールドツアーに参戦しているTeam Picnic PostNLが、この着るエアバッグシステムをトレーニングに使用し、いずれは大会でも使用することを想定しているという。

Aerobagには慣性、衝撃、磁気センサーなど複数のセンサーが搭載されており、それらからのデータをアルゴリズムで分析してサイクリストに衝撃が起こる可能性を算出し、衝撃検知予測が出たわずか100ミリ秒以内にバッグ内にCO2ガスを噴出する仕掛けになっている。

システムそのものはビブショーツに縫い付け可能な熱可塑性ポリウレタンチューブと、背中に背負う小型ポーチで構成される。このポーチには、サイクリストが自分で交換可能なCO2カートリッジとセンサー類が収められる。

もし、転倒してAerobagが作動してしまっても、しぼんだチューブを再び折りたたんで元のように収納すれば、サイクリストはレースを再開できる。CO2カートリッジは交換する必要があるものの、それ以外のシステムはすべて繰り返し使用することが可能な設計になっている。

開発者兼エンジニアのバート・セリス氏は、ライダーが転倒しそうになっているかどうかを判定するしくみについて、複数のセンサーの情報を総合的に判断材料とするが、必要がないのに作動してしまわないよう、かなり慎重な設計になっていると述べ、「ライダーがアスファルトの上を滑るような状況では作動しないが、ガードレールを飛び越してしまうような状況では作動する」と説明した。具体的には、ライダーの背中の位置・姿勢が大きく変化したり、大きな回転加速度が発生したりしないと作動しないとのことだ。

現在はまだ、レース本番でのAerobagシステムの着用は認められていない。だがPicnic PostNLチームはまず、選手たちのトレーニング走行でこのシステムを導入するつもりだ。セリス氏は、「選手たちは90~95%の時間をトレーニングに費やしている」とし、トレーニングで自転車に乗ることも、レースと同様に危険なシチュエーションが起こりうるため、Aerobagが役立つとした。

また将来的に「レースで許可される可能性はあるが、それは次の段階まで待たなければならない。もっと経験を積んだ来年から始めるかもしれない。UCIも、この状況が来ることは分かっている」と見通しを語り、「2028年ロサンゼルスオリンピックまでに、最速のスーツだけでなく、最も安全なスーツを開発することが私たちの計画だ」と述べた。

Aerobag開発マネージャーのクイントン・ヴァン・ロッゲレンバーグ氏は、Picnic PostNL以外にもうひとつのチームがまもなくこのシステムを採用する予定であることを明かし、さらに「我々はすでにいくつかのプロジェクトを通じてUCIと協議しており、UCIは広く支持してくれている」と述べている。ヴァン・ロッゲレンバーグ氏はまた、現在はシステムがまだ「かなり高価」であるため、「750〜800ユーロに抑えようとしている」と語った。

なお、今回の開発においては、イタリアの自転車ウェアブランドのナリーニがPicnic PostNLチームのために特注のAerobag用ウェアを制作している。このウェアはAerobagを着用しつつ、ビブショーツやジャケットなども着ることが可能であり、将来的により一般向けとして提供可能なバージョンを制作するため、チームと協力していくという。

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