星がなく、暗黒物質とガスでできた「なりそこね銀河」

これまでにない謎の天体「クラウド9」、ハッブル宇宙望遠鏡が発見

Munenori Taniguchi

Image:NASA, ESA, VLA, Gagandeep Anand (STScI), Alejandro Benitez-Llambay (University of Milano-Bicocca), Image Processing:Joseph DePasquale (STScI))

NASAのハッブル宇宙望遠鏡を用いた研究チームは、月曜日に行われたアメリカ天文学会の場で、これまでには発見されていないタイプの天体に関する報告を発表した。この研究結果は、Astrophysical Journal Lettersにも掲載されている

NASAのために天文学研究大学協会(AURA)によって運営されている宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)のメンバーである欧州宇宙機関(ESA)のアンドリュー・フォックス氏はこの謎の雲状の天体を「暗黒宇宙への窓」と形容しつつ「理論上、宇宙の質量の大部分は暗黒物質であると予想されているが、暗黒物質は光を発しないため、検出することは難しい。このクラウド9は、暗黒物質が支配的な雲を観察する貴重な機会を与えてくれるものだ」と説明している。

NASAのハッブル宇宙望遠鏡のウェブサイトでは、この天体を発表する記事で、これが「Reionization-Limited H I Cloud(RELHIC)」と称するものだと説明している。日本語に無理やり訳すと、再電離限界中性水素雲となり、何が何やらわからないのだが、要するにこれは星が形成されないままとり残された初期銀河の化石のような存在なのだという。

科学者たちは長年、この理論上の幻の天体の証拠を探してきた。ハッブル宇宙望遠鏡をこの雲に向け、実際に星が存在しないことを確認して初めて、この理論を裏付ける証拠が見つかった、ということだ。

暗黒物質は宇宙に存在する物質の約85%を占めると考えられているが、光を含む電磁波と相互作用しないため、目に見えることはない。そのため、科学者らはその存在を重力との相互作用や他の物質などに与える影響からしか推測できない。

しかし、宇宙に浮かぶ星々からわれわれ自身を含むあらゆるものを形作る原子を形作る粒子よりもはるかに大量に存在するとされる暗黒物質は、初期宇宙の形成において、多大な影響を与えたと考えられている。

そして、今回発見されたクラウド9は、暗黒物質の高密度空間に生じた重力場に水素ガスが集合しつつあるように見え、まさに初期宇宙における星々の誕生の引き金になりそうな状態と言うことができる。

だが、クラウド9は星の形成には至っていない。これはおそらく、星々の形成が開始されるに足るだけのガスが集まらなかったからと考えられるだろう。

STScIのチームメンバーであるガガンディープ・アナンド氏は「ハッブル宇宙望遠鏡を使う前は、これは地上の望遠鏡では見えない微弱な矮小銀河だと主張する人もいた。地上の望遠鏡では、感度が低すぎたからだ」「しかし、ハッブル宇宙望遠鏡の高性能探査カメラによって、そこに何もない(見えるものはガスしかない)ことを突き止めることができた」と述べた。また、同じくSTScIのレイチェル・ビートン氏は「われわれが住む銀河系のご近所に、廃屋となった場所がいくつかあるかもしれない」と述べている。

こうした「失敗した銀河」や初期の宇宙に取り残された「遺物」の発見がさらに重なり、促進されていくようになれば、初期宇宙や暗黒物質に関する新たな物理学的知見が得られることが期待される。

ちなみに、冒頭の写真はハッブル宇宙望遠鏡による観測データと、ニューメキシコ州にある巨大なパラボラアンテナ27基で構成されるカール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)による観測データを合成したもの。うすぼんやりと紫色に光っているように見えるのは、クラウド9のガスが発する電波をもとにわかりやすく着色加工しているためで、肉眼でこのように見えるわけではない。

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