【連載】佐野正弘のITインサイト 第191回

初のエントリー投入でユーザー拡大を図る「Nothing」が抱える課題とは

佐野正弘

新興のスマートフォンメーカーである英Nothing Technologyは2025年、スマートフォンだけでなくワイヤレスヘッドホンにも参入するなど積極的に製品を投入。さらに携帯4社の1つとなる楽天モバイルからの販路開拓を実現するなどして、日本市場で急速に存在感を高めてきた。

2025年に多くの製品を投入し躍進を見せたNothing Technology。2025年末にもコミュニティメンバーと共同開発した「Phone (3a) Community Edition」を発売していた

そのNothing Technologyは、年が明けた2026年1月7日に早速スマートフォンの新製品「Phone (3a) Lite」の投入を発表し、攻めの姿勢を継続している。これは同社のメインブランド「Nothing」のスマートフォンの中で、これまでなかった低価格のエントリークラスのモデルとなる。

その内容は既報の通りだが、性能はミドルクラスに位置付けられる「Phone (3a)」と比べ全体的に抑えられている。背面の3眼カメラも広角カメラは5000万画素であるものの、超広角カメラは800万画素で、望遠カメラではなく400万画素のマクロカメラを搭載するなど、実用性に重きを置いたとはいえ性能は抑えられている。

Nothing Technologyが2026年1月7日に日本投入を発表した「Nothing Phone (3a) Lite」。同社の中ではエントリークラスのモデルとなる

性能面に加えもう1つ、低価格化の影響を受けているのが、Nothingブランドのスマートフォンの特徴でもある、背面に備わったLEDが光って通知などを知らせる「Glyph」だ。Phone (3a) Liteは、Phone (3a)のように背面がLEDで大胆に光る「Glyphインターフェース」ではなく、底面下部のLEDライト1つを光らせる「Glyphライト」を採用。LEDの数を減らして低コスト化を図ろうとしていることが分かる。

低価格実現のため随所でコストは抑えられており、Nothing Phoneシリーズの特徴である「Glyph」も、LEDライトが1つの「Glyphライト」に変更されている

だが低価格でも、Nothingブランドを名乗るだけあって背面のシースルーデザインは継承されているし、同社がいま力を入れている、AI技術を活用して記録した情報を引き出しやすくする「Essential Space」を活用するための「Essential Key」もしっかり搭載。加えて日本市場向けにはFeliCaを搭載するなど、低価格モデルながらもポイントはしっかり押さえていることが分かる。

そしてPhone (3a) Liteの投入により、2025年より展開されてきた「Phone (3)」シリーズは、Phone (3a)とPhone (3a) Lite、そして同社がフラグシップに位置付ける「Phone (3)」の3モデルが揃い、フルラインアップをカバーしたことになる。

同社の日本法人となるNothing Japanのマネージングディレクターである黒住吉郎氏は、Nothingブランドのエントリーモデルを展開するに至った理由として、Phone (3a)が日本で高い評価を得たことで、より広くアプローチしやすい価格で展開するモデルを日本から要望したのがきっかけの1つだったと話す。

Nothing Technologyの黒住吉郎氏によると、Nothing Phone (3a) Liteの登場には日本からの要望も大きく反映されているとのこと

現在、Nothing Technologyの販売規模が最も大きいのはインドだが、黒住氏は日本が戦略市場の1つになっているとのこと。日本はインドと比べれば人口は少なく市場規模も小さいが、日本のユーザーからのフィードバックは世界でもトップクラスに多く、高い経験値が得られるという。

それゆえ日本市場でビジネスを継続し、見識を積むことが世界市場にも良い影響を与えると黒住氏は話しており、それが日本のニーズを反映した製品開発へとつながっているようだ。そのことを明確に示しているのが、Phone (3a) Liteで日本独自のカラーである「レッド」を用意したことである。

Phone (3a) Liteには日本独自カラーの「レッド」も用意。こちらは楽天モバイル限定のカラーとなるが、クリムゾンレッドではない

Phone (3a) Liteは基本的にホワイトとブラックの2色展開で、インド向けにはブルーのモデルも投入されているが、レッドは完全に日本独自のカラーになるとのこと。ちなみにレッドは楽天モバイル限定のカラーとして投入され、楽天グループの企業カラーであるクリムゾンレッドを「意識していないかというと嘘になる」と黒住氏は話すが、あくまでユーザー調査で最も評価の高い色を採用したとのことだ。

では、Phone (3a) Liteでどのような人達をターゲットにしようとしているのかというと、黒住氏は「ヤングファミリー」だと話す。同社は若くクリエイティブな思考を持つ人をターゲットに、デザインなどにこだわった製品を投入しているが、子育て世帯の親ともなると、自身のファッションやアイテムに思うようにお金をかけられなくなる。そこで低価格のエントリーモデルを投入することにより、そうした人達の需要を満たす狙いがあるようだ。

ただ1つ、大いに気になるのが、同社には低価格とデザイン性を両立したサブブランド「CMF by Nothing」を既に展開しており、Phone (3a) Liteが担うエントリークラスは、本来そちらがカバーすべき領域だということ。実際、Nothing Technologyは2025年7月にこちらのブランドのスマートフォン新製品「CMF Phone 2 Pro」を投入しているが、性能面、そして4万円台という価格面でもPhone (3a) Liteと近しい部分がある。

Nothing Technologyは低価格ブランド「CMF by Nothing」でも、Phone (3a) Liteと同等クラスのモデルとなる「CMF Phone 2 Pro」を発売している

ではなぜ、CMFブランドでカバーしている領域に、あえてNothingブランドの製品を投入したのか。黒住氏によるとNothingブランドとCMFブランドは、Nothing Technologyの中では素材やデザイン、カラーなどが大きく異なり、デザインコンセプトの面で別のブランドとして差異化ができているという認識のようだ。

確かに、シースルーのデザインやGlyphが特徴のNothing Phoneシリーズと、着せ替えやパーツの装着でカスタマイズができることが特徴のCMF Phoneシリーズとでは、性能はともかくデザインの方向性は大きく異なっている。それゆえ同社が重視するデザインという視点で見れば、ユーザーが重複しないという解釈なのだろう。

ただそこまでのこだわりを持たない消費者からすると、同じメーカーから類似する性能のモデルが2つあるとなれば、やはり混乱してしまうというのが正直な所でもある。同社はかつてワイヤレスイヤホンでも、2023年発売の「Nothing Ear (2)」までは数字でモデルのナンバリングをしていたのが、2024年発売の「Nothing Ear」(第3世代)ではそれを廃止。だが2025年には「Nothing Ear (3)」を発売し、再びナンバリングを復活させ議論と混乱を呼んだことがある。

ワイヤレスイヤホンでも「Nothing Ear」(第3世代)でナンバリングを止めたにもかかわらず、写真の「Nothing Ear (3)」では復活させるなど、分かりやすい製品ブランディングという意味では課題がある

こうした問題は製品数が増えるに従って、どのメーカーでも生じやすいものではある。ただ尖った製品が好きな人達をターゲットにし続けるならばともかく、同社はこれからエントリーモデルに力を入れ、より幅広い層を獲得して次のステップへと進もうとしているだけに、やはり製品やブランドを明確に整理し、分かりやすくすることは今後不可欠になってくるのではないだろうか。

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