科学的に言えば、構造水は安定して存在できません

フロリダ州保健局長、市民に「構造水(H3O2)」を飲むよう推奨して物議

Munenori Taniguchi

Image:Vink Fan/Shutterstock.com

フロリダ州保健局長官のジョセフ・ラダポ氏は以前より、児童に対するあらゆる予防接種の廃止を行うなど医学・科学否定的な立場をとる施策で物議を醸している。同氏は先週末、住民に対して水分補給を怠らないように、という極めて妥当なアドバイスを伝えるXへの投稿で、「プラスチックボトルなどで提供される水を飲むことを避け、『構造化された水(structured water)』を飲むようにすれば、より多くの利点が得られるかもしれない」と述べた。

「構造化された水」とは、日本語では構造水、構造化水またはEZウォーター、六角水、六方晶水、クラスター水など様々な呼ばれ方をする液体のことだ。水の化学式がH2Oであるのに対し、構造水は水素原子と酸素原子をそれぞれひとつずつ余分に加えたH3O2で表される。この状態では水は負に帯電し、原子が六角形の層状ネットワーク構造(クラスター)を形成、通常の水よりも構造化されて安定した状態になると、ある界隈では言われている。

また構造水を摂取すると、栄養素の吸収力が高まる、代謝老廃物を除去する、細胞間のつながりが強化される、免疫力強化、デトックス効果、集中力向上、血圧を下げる、頭痛・背骨の痛みの除去、肌の調子が良くなる、がん・喘息・糖尿病・変形性関節症などの予防など、さまざまな効果があると、ある界隈では信じられている。

科学的見地から言えば、水分子はクラスターを形成することは確かにあるものの、その構造は非常に不安定で、すぐに普通の水に戻ってしまう。そのため、仮に構造水がそこにあって摂取できたとしても、それが体内で維持されて何らかの効能を発揮する可能性はほとんどないと言うことができる。

豪シドニーにあるニューサウスウェールズ大学化学部の学部長であるティモシー・シュミット教授は、「最も科学的に妥当な見解では、H3O2の界面付近では水の異常な特性が説明できる」ため、「構造水と呼ばれる液体に親水性があり、その表面では奇妙な挙動を示すという考えには一理あるかもしれない」としつつ、「科学的な説明ができるのはそれぐらいだ」と指摘した。そして州の保健局長官のような「重要な公職にある人物が、科学に関する基本的な学部レベルの知識さえも欠いていることに、私は非常に驚いている」とGizmodoに対しコメントした。

シュミット教授は2022年に、大学のブログ記事で構造水の概念について述べている。そこでは「もし水がH3O2に変化するとすれば、単純な計算から、H2O分子2個がH3O2分子1個に変わる際に余剰の水素原子が浮遊することになる」「この水素原子は水素分子として放出されるか、空気から余分な酸素を取り込む必要が生じるが、簡単な実験でどちらも起こらないことが示されるだろう」と指摘している。

そして、構造水(ここではEZウォーターと記述)はH2O以外の何物でもないと述べ、もしH3O2の六角形構造が安定かつ強い結合を持つならば、それが液体のように流れることはありえない」との見解を述べている。この記事では他にも構造水が安定的に存在しないいくつかの理由が説明されている。

構造水の発言をいったん横に置けば、ラダポ氏がプラスチックボトル入りの水を飲むことを避けるよう人々に勧めているのは良いことかもしれない。マイクロプラスチックの存在は現実に確認されているからだ。とはいえこれに関しても、その健康への影響についてはまだ研究が始まったばかりだ。具体的に、どれだけの量のマイクロプラスチックにどれだけの期間晒されれば健康への影響が出てくるのかといったことは、まだはっきりとはわかっていない。そのため、現段階ではペットボトル飲料などを過度に拒絶する必要もないだろう。

ちなみに、今回構造水を推奨する発言をしたラダポ氏は、2021年9月に州保健局長に就く以前から、たとえば新型コロナのパンデミックが拡大した時期に、ヒドロキシクロロキンやイベルメクチンといった医学的に効果がないと判明している治療法を人々に推奨し、一貫して反ワクチンの姿勢をとっている。これらに比べれば、存在しない水を勧めることはたいした問題ではないかもしれないが、公衆衛生を監督する立場の人が反科学的な主張をすることを現地の人々がどう思っているのかは気になるところだ。

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