【連載】佐野正弘のITインサイト 第190回
スマホも通信料も「値上げラッシュ」。2025年の携帯電話業界を振り返る
2025年も間もなく終わりを迎えようとしている。携帯電話業界におけるこの1年を振り返ると、「値上げ」の1年だったということに尽きるのではないだろうか。
そのことを強く印象付けたのが、携帯電話料金がついに値上がりしたことだ。ここ数年来、物価高でさまざまなモノやサービスの値段が上がり続けている中、菅義偉元首相による携帯料金引き下げ政策の影響もあって、携帯電話料金だけは “唯一” といっていいほど値下げの動きが続いていた。
だが物価高が一層加速し、企業にも賃金引上げが求められている状況にあって、携帯各社が現在の料金を維持するのに限界が来ていたことも確かである。そこで2025年、ついに携帯電話会社も料金プランの値上げに大きく動いた。

顕著に表れたのが2025年6月で、NTTドコモとKDDIが、相次いで基本料金を引き上げた新料金プランを導入。ソフトバンクも、2025年9月にサブブランドのワイモバイルで新料金プラン「シンプル3」を導入し、実質的な値上げを図っている。
加えてKDDIは既存プランの料金プランも値上げしたほか、NTTドコモとKDDIは、ともに小容量かつ低価格の料金プランを大幅に縮小。低価格帯の選択肢が減少する一方、データ通信が使い放題で料金が高い、最上位の料金プランにこれまで以上に力を注ぐ傾向が強まっている。
実際、NTTドコモの「ドコモ MAX」は、月額4200円の「DAZN for docomo」をセットで提供したことで話題となった。また、KDDIの「auバリューリンクプラン」などでは、混雑時などにより快適な通信ができる「au 5G Fast Lane」を導入。より安価な料金プランと通信品質で差を付ける施策を打ち出している。

携帯大手が低価格プランを縮小して高額なプランを重視するのには、物価高の影響だけでなく、市場飽和で良質な新規契約者を獲得するのが難しくなっていることも大きく影響している。
コストをかけて新規契約者を獲得しても、ポイント還元などの特典を目当てに短期間で携帯電話会社を乗り換える「ホッピング」目的の顧客ばかりになってきている。それだけに、既存顧客を上位プランに移行させることに力を入れる戦略へと転換を図りつつあるのだ。
2026年は、大手3社が既存顧客重視の囲い込みにより力を入れることになりそうだが、新興の楽天モバイルからすると不利な動きだろう。同社が目標とする黒字化のためには、より一層契約数を増やす必要がある。
楽天モバイルは、主力の料金プラン「Rakuten最強プラン」を、当面の間あえて値上げしないと宣言している。引き続き低価格を武器として顧客獲得にまい進する姿勢を見せているが、契約数の急増によって通信品質の低下を懸念する声も出てきている。
同社は2025年12月25日に目標の1000万契約を達成したが、2026年は契約者を増やすだけでなく、低価格と通信品質をいかに両立させていくかが、楽天モバイルには大きく問われることになるだろう。

値上げの波はもちろん、スマートフォンにも大きく影響している。スマートフォンは円安と政府の値引き規制によって、ここ数年のうちに急速な価格高騰が続いているのだが、今年もその波が収まることはなかった。
そのことを象徴していたのが、2025年2月に発売されたアップルの「iPhone 16e」である。iPhone 16eは「iPhone SE」の系譜を継ぐ低価格のiPhoneとして、発売前から価格面で大きな期待がなされていた。しかし、実際の価格はほぼ10万円という高さで、多くの人の落胆を招く結果となった。

一方で、スマートフォンは昨今注目されるAIを中心に、高い性能が求められる機能が増えているのも2025年の特徴だった。いかに本体価格を抑えながら、AIなどの機能を利用できるようにするかがメーカーに大きく問われた。結果注目が高まったのが、ミドルクラス以上、ハイエンド未満という “ミドルハイクラス” のスマートフォンである。
ミドルハイクラスはこれまで、位置付けが中途半端なこともあって、あまり注目されてこなかった。だが、ハイエンドのスマートフォンが軒並み10万円を軽く超え、これまでハイエンド端末を使っていた人が買い替えられなくなってしまっている。
その受け皿として、8万円程度と比較的購入しやすく、それでいてAIなどの機能にも対応できる性能をもつ、ミドルハイクラスのスマートフォンが急増し注目されたのである。なかでも規模が小さく企業体力が弱い国内メーカーが、この領域に活路を見出す傾向が強かったようだ。
実際、FCNTは2025年8月に発売した「arrows Alpha」を、8万円台で購入できてAI機能も使えるハイエンドモデルとしてアピールしていた。シャープも最上位のフラグシップモデル投入を見送る一方、「AQUOS R10」でミドルハイクラスには継続して力を入れる姿勢を示している。

ただし2026年、スマートフォンの価格高騰に大きく影響している円安の行方は筆者も知る由がないものの、もう1つの要因である政府のスマートフォン値引き規制に関しては、見直しの動きが出てきているようだ。そのことを示しているのが、前回も触れた総務省の新しい有識者会議「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」である。
これまでスマートフォンの値引きを非常に厳しく規制することに徹底してきた総務省が、あえて規制緩和を模索する会議を開催する様子からは、国も価格高騰の現実に合わせて法規制を見直そうとしている様子が伺える。この議論は2026年に本格化するだけに、今後の行方が注目される所だ。

一方で、スマートフォンの価格が高騰する新たな要因も出てきており、それは昨今話題となっているメモリの価格高騰だ。スマートフォンもコンピューターでメモリを多く用いるデバイスだけに、今後その影響を受けて価格が一層高騰する可能性が高まっている。
それだけに2026年は、スマートフォンの価格を巡って非常に混沌とした年になることが予想される。消費者もその買い替え時に、とても悩まされることになるのではないだろうか。
