一番の被害者は対向車のドライバー

中国のテスラオーナー、FSDで“自動運転実演”配信中に対向車線走行し正面衝突事故

Munenori Taniguchi

Image:Douyin

中国で、テスラオーナーが自身のEVで走行中に「Full Self Driving」オプションの「完全自動運転」機能を実証するライブ配信を行ったところ、このクルマが反対車線を走行し対向車に正面衝突する事故を起こした。

なお、Full Self Drivingオプションは先進運転支援システム(ADAS)機能をいくつか組み合わせただけのものであり、フルにセルフでドライビングする能力は有していないというテスラの言い訳は中国でも同様だ。

ただし米国とは異なり、中国政府はこのシステムの名称が現実に即していないとして、テスラに速やかに名称を変更するよう(2025年春に)命令した。これを受けてテスラは、ウェブサイト上の表記を「FSD Intelligent Assisted Driving」から「Intelligent Assisted Driving」に変更している。

なお、米国や日本などではこの機能は以前は単に「FSD」「Full Self-Driving」などと呼ばれていたが、現在は「FSD(監視付き)」となっている。

中国でも熱心なテスラファンはいるようで、彼らの多くはTikTokの中国国内版であるDouyinなどでFSDを使用して走行する様子をライブストリーミングしている。そして、テスラは自動運転能力が高いことを中国の自動車メーカーよりも優れていると主張しようとしているようだ。

だが、事故を起こした「切安好」と名乗るテスラオーナーは、搭乗するModel 3がFSDを使用中に、するりと反対車線に入り、そのままやってきた対向車と正面衝突してしまった(ライブ配信は事故の瞬間の直前に途切れた)。

このライブ配信は、ただFSDで走行している間はほとんど人気がなかったが、事故後の様子を映した動画をテスラオーナーがアップロードすると、すぐに大きな話題に発展した。

視聴者の多くは、ドライバーがテスラに直接賠償を求めて連絡を取っていると述べて、事故の瞬間の動画を公開しなかったため、それが本当にFSDを使用中に起こったのかを疑問視していた。だが、後にドライバーは衝突時にFSDが作動しており、反対車線に車線変更を開始したことを明確に示す映像を公開した。

これまでにも、たくさんのドライバーがテスラのAutopilot/FSD機能を過信して幾度も事故を起こしており、その機能が完全な自動運転を実現していないことは明白だ。まして、中国ではまだ現地の道路状況に関する知識が不足気味な模様で、走行データの蓄積が足りていない可能性が指摘されている。

たとえば、春の時点では道路の右端にある自転車専用レーンを右折レーンと勘違いして走行するケースが頻発し、なかには1度の運転で7度も違反切符を切られ免停の危機に瀕したドライバーもいたという(FSDは自動運転ではないので、違反や事故はそれを起こしたドライバーに責任がある)。

なお、この事故がイーロン・マスク氏の所有するSNSのXに投稿されると、あるユーザーが同サービスの背後で稼働するAIチャットボットのGrokにファクトチェックを求めた。するとGrokはどうやって調べたのか「テスラのデータが自動運転(FSD)モードでなく手動だったことを確認した」と述べ、詳細は乏しいが「詐欺事件であると判明した」と述べた。

Autopilot/FSDもGrokも、使うときはこれぐらいのクオリティだと念頭におき、過信せずに使うのが賢明といえそうだ。

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