消費者はそれぞれ自分の好きなチャートを楽しめばよろしいかと

YouTube、米Billboardへの再生回数データ提供を停止。サブスク重視のランク集計に不満

Munenori Taniguchi

Image:billboard Hot 100

YouTubeは、最も有名な音楽チャートである米Billboardへの再生数データの提供を停止すると発表した。その理由は、Billboardが同チャートボードの集計において、より消費者の音楽的興味をよりよく反映しているとして、有料のオンデマンドストリーミングの重み付けを強化することを決定したからだ。

Billboardはこの変更により「ストリーミング収益の増加と消費者行動の変化がよりよく反映される」と述べた。これは、購入ベースの音楽セールよりも有料ストリーミングのほうが現在の市場動向的に重要であり、チャートにそれをより強く反映させたい考えの表れとも言えるだろう。

しかし、それでは困るのがYouTubeだ。YouTubeは広告で収益の多くをまかなう事業モデルであり、利用者の大多数は無料ユーザーであるため、Billboardが採用するアルバム1枚相当の集計ポイントに達するために必要なオンデマンドストリーミング回数の取り決めに長年不満を訴えてきた。

現時点でビルボードが採用している計算方法では、アルバム1枚にカウントされるには広告付きストリーミングで3750回の楽曲再生が必要になる。一方で、有料/サブスクリプションの公式オーディオおよびビデオ ストリーミングであれば、1250回でアルバム1枚相当のカウントになる。広告付きと有料の比率は3:1だ。

それが、2026年1月2日以降の集計(チャート反映は1月17日公開分より)から採用される計算方法では、広告付きストリーミングが2500回、有料/サブスクリプションが1000回に変更される。比率だけなら2.5:1に縮まるため、YouTubeから見れば今よりも改善したとも言える。だが、長年にわたりこの格差をなくすべきだとは働きかけてきた同サービスにとって、これは受け入れがたい結果だったようだ。

YouTubeは、有料/サブスクリプションの再生回数を広告付きの再生回数よりも重視するのは「時代遅れの計算式」であり、「サブスクリプションを持たないファンの多大なエンゲージメントを無視している」のだと主張している。

一方のBillboardは、動画のバックグラウンドで再生されているクリップを聴いている人と、Spotifyで曲を探して聴いている人では、その聴き方が異なるため、重みも同等ではないという考え方だ。

YouTubeがビルボードへのデータ提供を停止すると発表したことに関し、Billboardは「ファンが好きなアーティストをサポートする方法は数多くあり、それぞれが音楽エコシステムの中で特定の位置を占めている」「Billboardは、消費者のアクセス、収益分析、データ検証、業界ガイドラインなど、様々な要素をバランスよく考慮しながら、ファンの活動を適切に評価するよう努めている」と述べ、「YouTubeが考えを改め、Billboardに倣ってあらゆる音楽プラットフォームにおけるアーティストのリーチと人気を認識し、ファンの力と、彼らが愛する音楽とどのように関わるかを通して、彼らの功績を称えてくれることを願っている」とした。

ちなみにYouTubeは、アーティストや権利者に対する著作権料の支払いが低いとされ、業界関係者からの評判が芳しくないとも言われる。特にかつてTicketmasterやLive Nationなどを率い、音楽プロモーターやレコードレーベルオーナーなどとしても知られる音楽業界の超大物、アーヴィング・アゾフ氏は、以前よりYouTubeを「これまでで最悪の犯罪者」と呼んでいる。

アゾフ氏は先月、Billboardのブログへの寄稿で「YouTubeは最近、過去1年間でアーティストに80億ドルを支払ったと宣伝した。これは印象的ではあるが、実際はそうではない」とし、600億ドルある同サービスの収益の約13%に過ぎず、同じ期間にSpotifyが収益の67%に相当する120億ドルを支払ったのに比べると著しく見劣りすると指摘していた。また同氏いわく「YouTubeは(同サービスが)音楽だけではないと主張するだろう。しかし、私としては、YouTubeが音楽なしではこれほど成功したプラットフォームになることはなかったと考えている」とのことだ。

YouTubeはBillboardへのデータ提供停止を知らせるブログの最後で「10年にわたるパートナーシップと綿密な議論を経ても、彼らは意味のある変更を望んでいない。そのため、2026年1月16日以降、私たちのデータはビルボードに配信されず、チャートにも反映されなくなる」「われわれはチャート全体で公平な表示を実現することに尽力しており、ビルボードと協力して彼らのチャートに戻れるよう願っている」と述べたが、最後の締めで「それまでの間、YouTubeでどんな音楽が話題になっているのか気になるなら、こちらのチャートをどうぞ」と、自前のYouTube Chartsを宣伝した。

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