【連載】佐野正弘のITインサイト 第187回

モバイル通信と無線LANが“電波の奪い合い”、日本の「7GHz帯」勝者はどちらか

佐野正弘

スマートフォンで通信をする上で、欠かすことのできない電波。その電波を巡って、スマートフォンの主要な通信技術である「モバイル通信」と「無線LAN」という2つが、ある周波数帯を巡って争いを繰り広げている。

それは6425〜7125MHzという周波数帯で、「6.5GHz帯」あるいは「7GHz帯」と呼ばれているもの(本記事では以下、7GHz帯と呼称する)。双方の技術やそれに関連する企業・団体などが、次の重要な周波数帯として7GHz帯に目を付けているのだ。

その割り当てに向け先行しているのは無線LAN陣営だろう。日本でも2022年より、「Wi-Fi 6」(IEEE 802.11ax)の拡張版となる「Wi-Fi 6E」で、7GHz帯のすぐ下に位置する「6GHz帯」(5925〜6425MHz)が既に用いられている。だが、米国やカナダ、韓国では、その6GHz帯に7GHz帯も合わせた5925〜7125MHzを無線LAN向けに割り当てており、米国では商用利用も進められている。

一方、中国は5925〜7125MHzを全てモバイル通信向けに割り当て、無線LANには用いない方針を打ち出していることから、国によって7GHz帯の使い方に違いが出てきているのだ。そこで焦点となっているのが、日本や欧州など、6GHz帯を既に無線LAN向けに割り当てている一方、7GHz帯の割り当て方針が決まっていない国や地域の動向である。

総務省「周波数再編アクションプラン(令和7年度版)」概要より。日本では米国などの動向を受けてか、6425〜7125MHzを無線LAN向けに割り当てる方針を示している

日本では現在のところ、米国らの動きに追従し無線LAN向けの割り当てに向けた検討を進めているようだ。実際、総務省が2025年11月28日に公表した「周波数再編アクションプラン(令和7年度版)」では「6.5GHz帯無線LANのSPモードによる屋外利用を含む帯域拡張に向けた技術的条件の検討を進める」と記述され、無線LAN向けの検討が優先されていることが分かる。

一方、欧州では逆に7GHz帯をモバイル通信に割り当てようという動きが強まっており、アジアの一部の国でもそれに追随する動きが出ているとのこと。そうしたことから日本でも、「やはり7GHz帯をモバイル通信向けに割り当てるべき」という声が出てきている。

欧州では日本とは逆に、7GHz帯をモバイル通信向けに割り当てる動きが強まっており、アジアの一部の国でもそれに追随する動きが見られるとのこと

とりわけその動きを強めているのがソフトバンクだ。実際同社は2025年11月19日に、フィンランドの通信機器大手であるノキアと、7GHz帯を利用した屋外での実証実験を実施し、その成果を報道陣らにも公開している。

この実証実験で用いられたのは7GHz帯よりやや上となる7180〜7280MHzで、モバイル通信の次世代規格「6G」向けの割り当てが注目されている帯域となる。東京・銀座エリアに7GHz帯の基地局を3つ設置し、7GHz帯の端末を搭載した車でエリア内を走行。同社が商用展開している3.9GHz帯(3.7GHz帯に分類される)と、エリアカバーや通信品質などの違いを比較している。

ソフトバンクが実証実験のために設置した7GHz帯の基地局のアンテナ(右)。商用利用している3.9GHz帯と性能を比較するため、3.9GHz帯の基地局のアンテナ(左)の近くに設置されている
実証実験に用いられた7GHz帯の端末。モバイル通信における7GHz帯はまだ標準化がなされていないため、機器はいずれもノキアが独自に開発したものを用いている

その結果、ソフトバンクでは「思ったより電波が飛ぶ」という評価をしていた。7GHz帯は3.9GHz帯より周波数が高く、障害物に弱いなど遠くに飛びにくいと見られていたが、銀座のような都市部ではビルに電波が反射することで、想定より電波が飛び高い品質も実現できていたという。

7GHz帯をモバイル通信向けに用いる上では、従来の周波数帯と同じように、広いエリアを高い通信品質でカバーできるかどうかが非常に重要だ。それだけに今回の実証で、7GHz帯が既存の3.9GHz帯とそん色ない使い方をできることを証明し、モバイル通信における7GHz帯の重要性を大きく高めたことになる。

実際の実証実験の様子。右の7GHz帯で通信できるエリアが、左の3.9GHz帯と大きく変わらない様子を見て取ることができる

そこでソフトバンクらは今後、7GHz帯をモバイル通信向けに割り当てるよう、政府に積極的な働きかけをしていく方針も示している。同日には6G向けの技術カンファレンスも実施し、モバイル通信業界関係者に対し、7GHz帯の割り当てを政府に積極的に訴えていくよう働きかける動きも見せていた。

ソフトバンクは今回の実証実験に合わせて6G関連の技術カンファレンスイベントも実施、7GHz帯のモバイル通信向け割り当てに向けた機運を高めようとしている

そもそも、なぜモバイル通信、無線LANの両陣営が7GHz帯を重要視しているのかといえば、より一層の大容量通信が必要とされているためだろう。無線で大容量通信をするには広帯域の電波が必要なだけに、700MHzと帯域幅が広い7GHz帯が重要であることは間違いない。

だがより重要なのは、7GHz帯が既存の周波数帯と連結して広く使えることにある。無線LANには既に、7GHz帯のすぐ下の6GHz帯が割り当てられているし、モバイル通信向けにも先に触れたように、6G向けとして7GHz帯のすぐ上に位置する7125〜8400MHzの割り当て検討が進められている。

それゆえ両陣営ともに7GHz帯を獲得すれば、自身が持つ、あるいは持つ可能性のある周波数帯と連結させることで広い帯域幅を獲得できることから、7GHz帯の獲得をとても重視している訳だ。

モバイル通信に関していうならば、ミリ波が「使えない」という評価が下されているだけに、より周波数が低くて大きな空きのある周波数帯は、7GHz帯くらいしかないという実情もある。実は6Gに向けては7125〜8400MHzだけでなく、14.8〜15.35GHzの割り当て検討もなされているのだが、こちらは周波数が高く、使い勝手がミリ波に近いと見られているだけに、周波数が低い7GHz帯の獲得が重視されているのだ。

モバイル通信向けには7GHz帯のすぐ上にある7125〜8400MHzと、14.8〜15.35GHzの割り当てが検討されているが、実用的と見られているのは前者の方だ

しかしながら無線LAN陣営も、既に海外で7GHz帯を使用している実績があるだけに、引くことはできないだろう。両陣営による7GHz帯の争奪戦が、今後どのような結果を迎えるのかは、2026年の注目ポイントの1つとなる可能性がありそうだ。

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