すでに37%削減

EUと英国、2040年までに1990年比90%の温室効果ガス削減で暫定合意

Munenori Taniguchi

Image:European Council

EU議会は英国議会との協議を行い、2040年までに1990年に比べて温室効果ガス排出量を90%削減することで合意したと発表した。

90%の削減目標はかなり強気なものに感じるかもしれない。確かにこれは中国を含め、他の主要経済国に比べれば高い目標だが、欧州科学的助言機関(European Scientific Advisory Board on Climate Change:ESABCC)が当初に推奨していた目標値には及ばない。

交渉合意の場に携わったデンマークのラーズ・アーガード大臣は「この目標は気候行動の必要性を満たしつつ、我々の競争力と安全保障を守る」ためのものだとコメントしている。

この合意は、2050年までに気候中立を達成するというEUの長期目標に向けた重要な一歩だが、既に高いエネルギーコストに直面している産業を抱え、さらなる削減は負担が大きすぎると主張したポーランドやハンガリーと、極端な気象現象を緩和し、EUがグリーンな技術の開発分野で中国に追いつくための行動が必要だと主張するスペインやスウェーデンらの間での摺り合わせに数か月を費やして形成された政治的妥協の産物と言うこともできる。

EU議会のプレスリリースによると、今回の90%という目標のうち、実際にEUと英国が義務づけられるのは85%で、残る5%は開発途上国での排出量削減プロジェクトに資金を提供することで、自国のCO2削減分として差し引く国際炭素クレジット制度で補うことができる。

たとえば、 タイで内燃エンジン搭載のバスをバッテリー式電気バスに置き換えるのを支援したとする。するとそれで削減できた温室効果ガスの量に相当して得られる炭素クレジットを、自国の排出量削減分に充てることができる。

ただ、この方法は純粋には温室効果ガス排出量の削減には寄与しないため、科学者らによる諮問委員会は、2040年目標を達成するために、国際炭素クレジットを使うべきではないとの考えを示した。ポツダム気候影響研究所副所長のオットマー・エデンホファー教授は「こうした国際的な活動によって国内目標の完全性が損なわれてはならない」と述べている

今回の合意には、燃料に対する炭素税の導入を1年延期して2028年にするという選択肢でも合意したことが記されている。

Image:European Council

ちなみに、欧州はすでに1990年比で排出量を37%削減している。これは同期間中に米国が達成した約7%の5倍以上の成果だ。トランプ政権下の米国は再びパリ協定から離脱し、政府サイトから気候変動に関する言及を削除し、石炭やガスなどの汚染エネルギー部門を推進するなど、それまでの温暖化対策に逆行する政策を推し進めている。

なお、今回のEUと英国の合意は、議会と加盟各国による批准を経て初めて法的効力を得ることになるが、概してその過程は形式的な手続きのようになることが多い。

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