公式の新譜プレイリストでこの偽グループをおすすめしてしまいました

Spotify、ベテランロックバンドのAI生成による偽グループを何週も削除せず放置

Munenori Taniguchi

Image:Christian Bertrand/Shutterstock.com

Redditのあるユーザーは、オーストラリアのベテランロックバンド「King Gizzard and the Lizard Wizard」に似た名前を持つAI生成による偽アーティストが、Spotify公式によるおすすめの新曲として推奨されたことを報告した。

King Gizzard and the Lizard Wizard(以下、King Gizzardと表記)は、2010年に活動開始した個性派バンドだ。結成から現在までの間に、サイケデリックからメタル、プログレ、ジャズに至るまで様々なジャンルの音楽性を柔軟に取り入れて進化してきた。

一方、偽アーティストの名前はKing Lizard Wizardと表記され、気を抜いていれば上記バンドと勘違いしやすい。この偽バンドは、Spotifyに「Rattlesnake」という、King Gizzardの曲と同名の楽曲を公開しており、それを聴いたファンによれば、オリジナルバージョンとまったく同じ歌詞、非常に似通ったアレンジで構成されていたという。

にわかに話題になったからか、この偽アーティストはすでに削除されたようだが、SpotifyがKing Gizzardの模倣、しかもAI生成アーティストに、同曲アップロード以来数万回もの再生をさせるまで放置し、このような注目を集めることを許したという事実は嘆かわしいことだ、なぜなら、Spotifyは以前にも、やはりKing Gizzardの楽曲「muzak」模倣楽曲をなりすましアーティストがアップロードしたのが発見されていたからだ。

King Gizzard and the Lizard Wizardは今年7月に、Spotify CEOのダニエル・エク氏がAI兵器企業に投資していたことを知り、抗議のためにSpotifyからほとんどの楽曲を引き揚げ、エク氏を激しく非難した。

その後に同バンド模倣AIアーティストの放置が相次いでいることから、ファンのなかには、この問題がKing Gizzardへの報復だとか、Spotifyがサービスを批判し自ら離脱したバンドを利用してなおも金儲けしようとしていると考える者も出てくるかもしれない。

この問題を発見したRedditユーザーは「悪質なAIによるパクリだ。見た目からバンド名まで、彼らの曲を丸ごとコピーしてる」「これはまったくもって許しがたい行為だ。私は今すぐアカウントを解約する」と述べている。

生成AIは、それが人々を豊かにすると大々的に宣伝される一方で、エンタメ界隈では生成AIによる粗悪な楽曲や模倣が氾濫しはじめている。

Spotifyは9月、アーティストを「スパム、なりすまし、詐欺」から保護するための新たなポリシーを導入すると発表。だが、SpotifyがAI生成による偽コンテンツのモデレーションに対処しきれていないことは、それをおすすめの新曲としてユーザーに推奨していることからも明らかだ。これでは、同社がこの問題に真摯に取り組んでいるとは言いがたい。

Spotifyは、スパムやなりすましを取り締まると言う傍らで、AI生成の音楽を公開すること自体はプラットフォームとして禁止していない。先月には、AI生成のカントリーソングがビルボードのカントリーチャートで1位になり、月間200万人以上のリスナーを獲得した事例もある。

ただ、AI生成の楽曲がさしたる努力もなくヒットしてしまうようになれば、苦労して楽曲を生み出し、演奏し、レコーディングしてプラットフォームに公開している生身の音楽アーティストにとっては、さらに競争相手が増え、成功を掴むどころか生計を立てることすら難しくなることを意味する。

Spotifyがこれを憂慮すべき傾向だと認識するかどうか。それが今後の同サービスにじわじわと影響してくるのではないかと、いまから気がかりだ。

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