【連載】佐野正弘のITインサイト 第186回

「スマホが売れない」時代、“SIMフリースマホ販売”に踏み切ったソフトバンクの多様化戦略

佐野正弘

ソフトバンクは2025年11月28日、「SoftBank Free Style」を開始すると発表した。その発表内容を見ると、SoftBank Free Styleは「SIMフリーのスマートフォンをはじめ、ソフトバンクが厳選した商品を取り扱う」とされている。

それゆえSoftBank Free Styleは、ソフトバンクが販売するスマートフォンとは異なる、家電量販店などで販売されるオープン市場向けの “SIMフリー” スマートフォンなどを扱うブランドとなるようだ。

ソフトバンクが2025年11月28日に開始した「SoftBank Free Style」のロゴ。SIMフリースマートフォンなどを扱うブランドになるという(Image:Softbank)

その第1弾の製品として発表されたのが、中国Xiaomiの「Xiaomi 15T」と「Xiaomi 15T Pro」である。これら2機種は2025年9月よりXiaomiがSIMフリースマートフォンとして販売しているもので、それをソフトバンクがSIMフリースマートフォンのまま販売するようだ。

実はこれら2機種のうち、Xiaomi 15T Proの前機種「Xiaomi 14T Pro」までは、ソフトバンクが自社販路で販売するスマートフォンとして採用していた。それゆえXiaomi 15T Proは採用がなされなかったことには疑問もあったのだが、SIMフリーモデルそのままでの扱いとはいえ、ソフトバンクがSoftBank Free Styleでの取り扱いを発表した様子からは、ソフトバンクがXiaomi 15T Proに一定の関心を持っていた様子がうかがえる。

SoftBank Free Styleで販売される「Xiaomi 15T Pro」。前機種までソフトバンク自身が販売していたが、今回はSIMフリーモデルでの販売となるようだ

自らスマートフォンを販売している携帯電話会社が、それとは別にSIMフリーのスマートフォンを販売するのは意外なように見える。だが実は、この取り組みは他社が先行しているもので、それがKDDIの「au +1 collection」である。

au +1 collectionは元々、携帯電話のアクセサリーを提供するブランドとして2012年にスタートした。だがその後、タブレットやスマートウォッチ、ワイヤレスイヤホンなどスマートフォン周辺デバイスも取り扱うようになり、現在ではSIMフリースマートフォンも継続的に扱っている。

KDDIの「au +1 collection」は、元々スマートフォンケースなどのアクセサリーを扱うブランドだったが、その後スマートデバイス全般に製品の幅を広げ、現在はSIMフリースマートフォンも取り扱っている

au +1 collectionで取り扱われているスマートフォンの代表例といえるのは、継続的に扱われているASUSのゲーミングスマートフォン「ROG Phone」シリーズだろう。だがそれよりも話題となったのは、2024年に発売された中国OPPOの「OPPO Find X8」ではないだろうか。

OPPO Find X8は、老舗カメラメーカーのハッセルブラッドと共同開発した3眼カメラを背面に搭載するなど、高い性能を持つハイエンドモデルとして投入されたが、国内ではSIMフリーモデルのみの展開となった。だが国内発売の発表時に、SIMフリーモデルがau +1 collectionで販売されることが明らかになったことから、「auから販売される」と勘違いしてしまった人もいてやや混乱が生じ、話題となったようだ。

OPPOの「OPPO Find X8」は発表時にau +1 collectionで販売されると発表されたことから、当初「auから発売される」と混乱した人も多かったようだ

ただ、先にも触れたように携帯電話会社は自社で直接スマートフォンを取り扱っている。さらに現在は、他社のSIMを挿入すると通信ができなくなる「SIMロック」が原則禁止となっているため、携帯各社が扱うスマートフォンも実は全て「SIMフリー」である。それゆえ携帯電話会社が、自ら扱うスマートフォンとは別にSIMフリースマートフォンを販売することに、疑問を抱く人も少なからずいるのではないだろうか。

ではなぜ、KDDIやソフトバンクがSIMフリースマートフォンをあえて販売するのか。その背景には昨今、スマートフォンが売れなくなっていることが非常に大きく影響している。スマートフォンの進化停滞、そして市場の飽和でスマートフォンの買い替え需要自体が低下し、買い替えサイクルが3年、4年と延びている。円安の長期化もあり、スマートフォン自体の価格が高騰したことで、さらにその需要が落ち込んでいる。

それに加えて、2019年の電気通信事業法改正以降、スマートフォンの大幅値引きには厳しい規制が敷かれている。これにより携帯各社は、大幅値引きでスマートフォンの販売を伸ばすことができなくなっただけでなく、古い端末を大幅に値引いて在庫処分することも容易にできなくなり、従来以上に在庫を抱えることのリスクが高まってしまったのだ。

それゆえ携帯電話会社は、販売数の低下と在庫リスクを抑えるため、一層売りやすいスマートフォンに重きを置いた調達・販売を進めるようになった。その傾向はここ最近の、米アップルの「iPhone」シリーズの販売動向からも見て取ることができる。

実際、携帯4社は2025年2月発売の低価格モデル「iPhone 16e」の販売価格を巡って予約開始ギリギリまで攻防を続けていたし、KDDIに至っては、約6年ぶりに「iPhone 17」シリーズの発売カウントダウンイベントを実施していた。iPhoneは日本で最も売れるスマートフォンだけに、こうした点からも携帯各社が、確実に売れるiPhoneの販売に並々ならぬ力を注いでいる様子が理解できるだろう。

2025年は携帯各社がiPhoneの販売に力を注ぐ傾向が強まっており、KDDIはおよそ6年ぶりに「iPhone 17」シリーズの発売を記念したカウントダウンイベントを実施している

ただ売れ筋のモデルばかり販売していると、特徴的なスマートフォンを欲する人達を取りこぼすことにもつながってくる。そうしたことからリスクを抑えて特徴的なスマートフォンを扱い、幅広いユーザー層を獲得する手段として、浮上したのがSIMフリースマートフォンを取り扱うことだったのだろう。

携帯電話会社が販売するスマートフォンは、メーカーではなく携帯電話会社の製品となる。そのため、販売だけでなくサポートも携帯電話会社が担う必要があるし、全国の店舗で販売する必要があるため一定の在庫を確保する必要もある。対してSIMフリースマートフォンは、メーカーがサポートを担うことからコストが抑えられるし、販路もオンラインなどに限定していることから、調達数も抑えやすく柔軟なラインナップ構成がしやすくいのもメリットだ。

実際、先行するau +1 collectionのこれまでのラインアップを振り返ると、OPPO Find X8のように高額なハイエンドモデルや、ROG Phoneシリーズのようにターゲットを絞ったモデルだけでなく、国内での利用者は多いがKDDI自身での取り扱いが大幅に減少している、シャープの「AQUOS」ブランドのスマートフォンなども最近では取り扱うようになってきている。

KDDIの「au Online Shop」より。現行のau +1 collectionのSIMフリースマートフォンラインアップを見ると、ハイエンドモデルだけでなくシャープの低価格モデル「AQUOS wish4」なども含まれていることが分かる

そして今回、KDDIに続いてソフトバンクがSoftBank Free StyleでSIMフリースマートフォンの本格的な取り扱いを始めたことで、携帯各社がSIMフリースマートフォンを活用して多様なニーズに応える施策が、今後より加速する可能性は高まっている。携帯各社は既に中古スマートフォンの取り扱いも進めているだけに、ユーザーが携帯電話会社から購入するスマートフォンは、今後急速に多様化していくことになりそうだ。

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