【連載】佐野正弘のITインサイト 第182回
戦略違えど“確実に売れる”を重視。秋冬のAndroidスマホ、新機種動向を探る
2025年も9月に米アップルの「iPhone 17」など新機種が発表されて以降、秋・冬の商戦期に向けたスマートフォン新製品がメーカー各社から相次いで発表されている。
夏商戦向けのスマートフォン新機種ではミドルハイクラスのスマートフォンが急増するというトレンドが起きていたが、秋・冬商戦向けの新製品にはどのような傾向があるのかというと、“確実に売れる”ことにとても重きを置いている様子がうかがえる。
その傾向を明確に示しているのが国内メーカーのソニーとシャープである。両社は共にミドルクラスのスマートフォン新機種を発表しているのだが、いずれも従来と異なる傾向が見られるのだ。

まずは2025年10月9日に発売されたソニーの「Xperia 10 VII」なのだが、こちらは従来の「Xperia 10」シリーズと比べ、発売時期が大きく変化している。
Xperia 10シリーズは従来、フラッグシップモデルの「Xperia 1」シリーズと同時期に発表され、夏商戦向けのモデルとして投入されてきた。だがXperia 10 VIIでは販売スケジュールが大きく変化し、秋・冬商戦向けとして販売がなされているのだ。
そしてシャープだが、2025年10月31日にミドルクラスのスマートフォン「AQUOS sense10」を発表。デザイン面などで前機種「AQUOS sense9」を踏襲しながらも、ベースの性能を上げ、新たにAI技術を活用して音声通話時に自分の声だけを相手に届ける「Vocalist」機能を追加するなど、使い勝手の向上に力を入れたモデルとなっているようだ。

それゆえAQUOS sense10自体に大きく変化した要素はないのだが、シャープが見せた大きな変化となるのが、もう1つの新機種を投入しなかったことだ。
実は2024年にはこの時期、AQUOS sense9に加えフラッグシップモデルの「AQUOS R9 pro」が投入されていたのだが、シャープは2025年、その後継となるフラッグシップモデルを投入しないことを明らかにしたのである。

実は先に触れたXperia 10 VIIも、発売時期がずれたのは例年この時期に投入されていた「Xperia 5」シリーズの開発を見送っている影響が大きい。Xperia 5シリーズはXperia 1シリーズに匹敵する高い性能を備えながらも、コンパクトさに重きを置いたモデルとして知られるが、2023年の「Xperia 5 V」以降新機種の投入が見送られており、ユーザーにはXperia 1シリーズへの移行を促している状況にある。
AQUOS R9 proやXperia 5 Vは共に高い性能を持っていたが、円安の影響を強く受けて価格も非常に高額になっていた。昨今、10万円を超えるモデルは販売が振るわないだけに、各社の一連の動きからは、市場が狭くとりわけ厳しい状況にある国内メーカーが高額なモデルを減らし、より確実に売れるミドルクラスに注力する動きが進んでいる様子を見て取ることができるだろう。
では、スケールメリットがあり価格競争力の面で強みを持つ海外メーカーはどうか。2025年9月以降に新機種を発表したのは米モトローラ・モビリティと中国シャオミの2社だが、両社ともにハイエンドモデルを投入しているようだ。
シャオミは2025年9月26日に新製品発表イベントを実施し、フラッグシップではないハイエンドモデル「Xiaomi 15T」「Xiaomi 15T Pro」の2機種を発表している。
両機種はともに独ライカカメラと共同開発したカメラを搭載した大画面のスマートフォンであり、とりわけXiaomi 15T Proは、チップセットに台湾メディアテック製の「Dimensity 9400+」を採用し、光学5倍相当の望遠カメラを搭載。FeliCaにも対応するなど充実した機能・性能を備えながら、ストレージ256GBのモデルで10万9800円というコストパフォーマンスを実現している。

もう一方のXiaomi 15Tは、FeliCaがなく望遠カメラが光学2倍相当になるなど性能は引き下げられているが、一方で価格は256GBモデルで6万4800円からと、同クラスのスマートフォンと比べても2〜3万円は安い価格を実現。シャオミらしいコストパフォーマンスで注目を集めたようだ。

一方のモトローラ・モビリティは折り畳みスマートフォン「razr」シリーズの新機種、「motorola razr 60」と「motorola razr 60 Ultra」を2025年9月30日に発表している。両機種はともに海外での発表から半年近く遅れての投入となり、ハード面での性能進化は少ないものの、日本語で利用できるAI関連機能が大幅に強化されており、それを大きな特徴として打ち出している。

シャオミとモトローラの新機種は共通点が少ないように見えるのだが、やはり確実に売れるための施策に力が入っていることが分かる。そのことが顕著に表れているのが販路開拓だ。
モトローラ・モビリティの場合、強化を図っているのが携帯大手の販路だ。motorola razr 60の派生モデル「motorola razr 60d」「motorola razr 60s」をそれぞれNTTドコモ、ソフトバンクから販売するのに加え、motorola razr 60 UltraをKDDIのauブランドから販売することも明らかにされている。同社がKDDIから端末を販売するのはおよそ13年ぶりとなり、同社が中国レノボ・グループの傘下となって以降、大手3社からの販路をようやく復活したこととなる。

一方のシャオミは、逆に携帯大手からの販売がない一方、独自の実店舗「Xiaomi Store」を拡大して販路開拓を強化しようとしている。同社は既に埼玉県内にXiaomi Storeを2店舗展開しているが、2025年11月には埼玉県と千葉県に1店舗ずつ新規店舗をオープン。さらに2025年12月には、東京23区内の商業施設内に店舗を新規オープンする予定で、その後は大阪・名古屋エリアへの店舗展開も進めるようだ。
スマートフォンの価格高騰で売れづらくなっている中にありながらも、スマートフォンを確実に売って日本での事業を継続するべく、規模が小さい国内メーカーはラインアップの絞り込み、規模の大きな海外メーカーは販路の拡大で対応しようとしていることが分かる。厳しい市場環境の中でメーカー側が生き残るため、自社の立場を考慮した販売戦略が求められるようになってきたことは確かなようだ。
