NASAは試験飛行で得たデータを航空機開発企業に提供する予定

NASAの静音超音速ジェット機「X-59」が初飛行。将来の商業飛行に前進

Munenori Taniguchi

Image:Lockheed Martin

NASAは、ロッキード・マーティンの先進技術開発部門、通称スカンクワークスと提携して開発している静音超音速ジェット機「X-59」の初飛行に成功したと発表した。

この試験飛行は南カリフォルニアのモハーベ砂漠上空で実行され、その飛行特性と航空データ性能を検証した。

飛行機などの物体が、空気の静止状態に対し音速を超える速度で移動すると、物体前方の空気が急激に圧縮されて強い圧力変動を起こすとともに、温度上昇を引き起こす。この圧力変動は非常に大きな音となって伝わり、地上に達したときに窓ガラスが割れるなどの問題を引き起こすことがある。

超音速飛行そのものは1940年代には技術的に可能になっていた。だが、環境上やその他の問題から商業旅客運行には障害が多く、超音速旅客機として開発されたコンコルドは、ブリティッシュ・エアウェイズとエールフランスの2社が限られた航路で使用するにとどまった。

X-59は、その全長の約1/3に及ぶ長く鋭い独特な機首の設計により、発生する衝撃波を低減、機体の他の部分に衝突するはずだった圧力波を分散させる。さらに、どうしても発生する音波が機体下面、つまり地上方向に伝わるのを防ぐためエンジンを機体上面に配置。機体形状にも工夫をすることで、仮に地上で何かが聞こえるとしても、雷鳴のような衝撃波ではなく「ドスン」となにかを落としたときのような音になる、とNASAは2023年のブログ記事で説明している。

NASAは、X-59の成果を「陸上における超音速商業飛行に関する新たなデータに基づく許容騒音閾値の設定に役立てる」機会にするとしている。そして、試験飛行で得たデータの詳細を分析して航空機メーカーに提供し、将来的に静音超音速機の開発を可能にすることを目指している。

もし、この開発が将来的に静音超音速機の商業飛行を可能にすれば、ニューヨークからロサンゼルスまでの移動時間は、現在のほぼ半分になると予想されている。

ちなみに、SpaceXは大型ロケット兼宇宙船のStarshipを用いて、世界の都市間を1時間未満で結ぶ弾道飛行旅客機の構想を明らかにしている。これは空気抵抗のない宇宙空間に出てしまうことで、高速移動を可能とするというものだが、2025年時点ではStarshipが宇宙船としてもまだ実用段階に至っておらず、旅客輸送は構想の域を出ていない。実現の可能性も不透明だ。

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