本当に10万も視聴していた?

NVIDIAのライブ配信、裏でフェイクCEOの配信が本物の5倍視聴される謎展開

Munenori Taniguchi

Image:Semiconductor News by Dylan Martin/X

NVIDIAは10月29日、GPUテクノロジーカンファレンス(GTC)におけるジェンスン・フアンCEOの基調講演をライブ配信した。だが、この配信と同時刻に裏で流されたディープフェイクの偽ジェンスン・ファンCEOによる偽基調講演のライブ配信が、本物の上回る視聴者数を集めてしまう事態が発生した。

問題のYouTubeチャンネルは「NVIDIA LIVE」を名乗り、アイコンもNVIDIAのロゴマークを盗用したものだ。注意して観察すれば、チャンネル名の右側に表示される認証バッジが、ニセモノのほうは音符マーク(音楽アーティスト向け公式認証表示)になっているなどの相違点がある。だが、バッジ自体が小さく色も同じであるため、ほとんどの視聴者は違いに気づかなかったと考えられる。

肝心のファンCEOの基調講演は2万前後の視聴者数を記録し盛況だったようだ。一方、偽CEOの配信にはなんと10万近い視聴者が集まった。そして、偽ジェンスン・フアンCEOはこの配信で、偽の暗号通貨投資に関する話を視聴者に語っていた。

偽CEOは「人類の進歩を加速させるというNVIDIAの使命に直結する、暗号通貨の大規模導入イベント」を紹介し、このために予定されていた本来のイベントは延期したと説明。そして、画面に表示したQRコードを通じて、視聴者に暗号通貨を送金するよう促した。

「人類の進歩を加速させる」ためとはいえ、時価総額5兆ドルにもなったNVIDIAのCEOが、一般市民からちまちまと暗号通貨投資を募るという、ガバガバな詐欺に引っかかった人がどれぐらいいるのかはわからない。そもそも、その10万の視聴者が本当に人間だったのかもわからない。DDoS攻撃のように、マルウェアに侵入されボット化した端末からのアクセスだった可能性もありそうだ。

また、本物のフアンCEOの配信のほうも、その後視聴回数が急激に増えて20万回に達したことも不可解に思える。

AI生成によるフェイク著名人の映像は、もはやよほど注意して見なければ見分けることが困難になりつつある。今回のフアンCEOのディープフェイクも、まったく驚くことではない。数週間前にはOpenAIのサム・アルトマンCEOが自らSora 2の「Cameo」と呼ばれる機能に自身の肖像を公開した結果、ユーザーによって量販店からGPUを盗んだり、焼きピカチュウを食すなどといったアルトマンCEOのディープフェイク動画大量に生成され、カメオならぬカオス状態になった。

また、フアンCEOはこれまでに幾度となく同じ黒の革ジャケットを着込んでGTC基調講演に登壇してきた(今年だけでも4度目)ため、インターネット上には同氏の同じような映像が豊富にある。つまり、精度の高いディープフェイクを作るための素材が豊富に、簡単に入手できる状態にある。

ちなみに、その後ディープフェイクのほうの配信は削除されたため、現在は視聴することができない。また、本物のフアンCEOが登壇したGTCの内容も、もっとも大きな話題がNVIDIAのチップを使用した自動運転の推進を目指したUberとの提携発表で、それほど一般消費者が興味を持つようなものでもなかった。

とはいえ、まだ謎が多い今回の騒動、同じようなことが今後も起こる可能性は十分にありそうだ。

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