ポイントは「AIコンピューティング時代への備え」

「M5搭載 iPad Pro」レビュー。旧モデルから買い替えるべきはどんな人?

山本 敦

Apple M5チップを搭載する13インチのiPad Pro。5G対応のWi-Fi+セルラーモデルを発売前にハンドリングした

アップルが新しいApple M5チップを搭載したiPad Pro 5を10月22日に発売する。発売日に先駆けて13インチのM5搭載iPad Pro、Wi-Fi+Cellularモデルをレポートする。

多様なAIタスクの処理に対応したApple M5チップを搭載

2024年にアップルがM4搭載iPad Proを発売して以来、約1年半を経て新しいiPad Proが登場した。最新のM5チップを搭載していることの他には、デザインや機能の面で大きく変わっていない。サイズやカラーバリエーションの展開も一緒だ。

最大のハイライトはやはりApple M5チップだ。AI処理のパフォーマンスが飛躍を遂げたことが、ひとつ注目するべきポイントであるようだ。

スペースブラックのモデル

M4チップからGPUまわりのアーキテクチャが変更されている。GPUは10コア構成を引き継いでいるが、GPUの各コアにもAI処理を加速させるNeural Acceleratorをハードウェアとして追加実装した。M4の時にはCPUにAIアクセラレータを追加しているので、今回また高速化した16コアのNeural Engineとあわせて、AI処理をより少ない消費電力で速く、効率よく実行できるようになる。

Appleシリコンの中ではNeural Engineのみが特化して機械学習処理をこなすのではなく、AIモデルを制御したり、負荷の高い推論処理や行列演算など種類の異なるタスクは、CPU/GPU/Neural Engineがそれぞれに得意とするところを担っている。

M5チップでは、今後も多様化が進むAIワークロードを最適に処理できるアーキテクチャに整えた。もちろんGPUの強化はAI処理だけでなく、ゲームを遊んだり、3D制作などビジュアル処理の負荷が高いアプリケーションのユーザー体験の向上も引き出してくれるだろう。

Appleシリコンがシームレスなマルチタスクをこなせるように設計されたユニファイドメモリも、帯域幅を標準的なM4チップから約30%拡大して150Gbps以上にまで引き上げた。あいにく筆者はiPad Proに重い負荷をかける動画・音楽制作のような作業を滅多に行わないので、現在使っているM4搭載iPad Proでも十分快適にマルチタスクをこなせている。

12MP広角カメラのシングルレンズ仕様

快適に動作するApple Intelligenceの機能

Apple Intelligenceの一部AIモデルを使うImage Playgroundアプリで、M5世代とM4世代のiPad Proによる画像の生成速度に違いが出るか試した。同じ条件とテーマを入力して画像を生成してみた結果、数秒の違いではあるがM5搭載iPad Proの方が速く4つの異なるパターンの画像をつくり出した。

Image Playgroundによる画像生成。キーワードのテキストとテーマを4件ぐらい指定すると、13〜15秒前後で4点の画像を生成する

iPadOS標準のメモアプリで、Apple Pencilによる手書き入力に最適化したApple Intelligenceの機能「画像マジックワンド」を使って「ワイヤレスヘッドホン」を描いてみた。ここでもやはり数秒ほど、M5チップを搭載するiPad Proの方がM4搭載機よりも速く画像を生成した。

画像マジックワンドを使って手書きのラフスケッチからワイヤレスヘッドホンのイラストを生成した。時間はだいたい14秒前後

Apple Intelligenceには今後様々なAIモデルをベースにした新しい機能が加わるだろう。主にデバイス側で処理を行うAIワークロードに対して、Appleシリコンを搭載するデバイスが小気味よく反応しながら、正確で安定した結果を返してくれるようになればユーザーも各機能を使うメリットを実感できる。

直近にアップルが発売したM4搭載iPad Proから、最新のM5搭載iPad Proに急ぎ買い替える必要まではないと筆者は思うが、もしも現在iPad Proの買い替えを考えているのであれば、これから登場するAI関連のアプリやサービスがより快適に使えそうなM5モデルを選ぶのが正解だ。

5G通信で大容量データを軽々ダウンロード

M5搭載iPad Proにハードウェア的な変更点もいくつかある。ひとつがアップルが設計したモバイル通信モデムチップの「C1X」と、Wi-Fi/Bluetooth/Threadのワイヤレス通信を担う「N1」チップを搭載したことだ。

今回はWi-Fi+CellularモデルのiPad Proを試すことができたので、Moraで購入した全9曲(2.4GB)のハイレゾ音質のアルバムをNePLAYERアプリからダウンロードしてみた。ソフトバンクの5G SAネットワークに接続して、かかった時間は約2分27秒だった。最新のiPad Proでストレスフリーな高速ダウンロードができると言ってよいだろう。

ハイレゾの楽曲ファイルを一斉にダウンロード。5G対応の魅力を実感した

iPad Proは高価なプレミアムモデルだが、これ以上大幅に価格がアップしてしまうと、なかなか手を出しづらくなるだろう。だからこそアップルが新しいiPad Proの価格を前世代のモデルから据え置いたことは英断だったと思う。自前でAppleシリコンを設計できていることが、利益率を確保したまま製品価格を安定させることにつながっているのだろう。

今回はアップルが設計したC1XチップとN1チップも投入した。この成果が今後、iPadのほかのラインナップにも良い効果をもたらすことを期待したい。

M5チップを搭載するiPad Proは、高精細な有機EL方式のHDR対応Ultra Retina XDRディスプレイを搭載している。M4搭載機以降から、使い勝手がさらに良くなったApple Pencil Proも使える。アップルが2021年に発売したApple M1チップを搭載するiPad Proからの買い替えは大きなメリットを実感できると思う。

それ以前のAシリーズのチップを搭載するiPad Proからの買い替えであれば、5GやApple Intelligenceへの対応も加わるので、満足度はさらに増すだろう。無印iPadからのステップアップも検討して良いタイミングかもしれない。本格的なAIコンピューティング時代のよき相棒になるiPad Proだ。

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