常識を覆す発想でイノベーションを生み出すか
新発想、本当に地面を蹴って進むタイヤコンセプト「SurfacePlan」。クラウドファンディングで実用化探る

米コロラド州デンバーの発明家デビッド・ヘンソン氏が、自動車などに不可欠なタイヤを再発明し、エンジンやモーターといった外部からの駆動力なしに自ら路面を蹴って転がる車輪コンセプト「SurfacePlan」を商品化すべく、株式投資型クラウドファンディングのWefundで投資家を募集し始めた。
最も古い車輪の証拠は、いまから約5500年前の古代メソポタミア文明で発見されている。1800年代の中頃には、天然ゴムに硫黄を反応させて耐久性を向上させたゴムを外周に巻いたタイヤが現れた。その後は中空ゴムタイヤが開発され、1900年代の初め頃にはゴムにカーボンブラックと呼ばれる黒い炭素粒を混合することで強度や耐久性など必要な特性をさらに向上させ、現在のタイヤへと進化してきた。
しかし、最初の発明から現在に至るまで、車輪すなわちタイヤは回転運動を直線運動に変換する機能を提供するだけであり、この点に関してはほとんど進化していない。ヘンソン氏は、このタイヤの表面に伸縮可能なゴム製のロッドをびっしりと埋め込み、それらが協調して突き出す動作をすることで、タイヤが自ら路面を蹴るようにして転がる仕組みを考案した。

SurfacePlanは、自動車のタイヤの場合ならそれをはめ込むホイールのスポークに該当する部分を、電気、油圧または空気圧で駆動するアクチュエーターに置き換え、これがタイヤのトレッド部分を形成する無数のロッドを突き出させるようになっている。連続的に、接地している部分から少し後ろの列のピストンを押し出すようにすれば、タイヤが自ら転がりだすというからくりだ。
ヘンソン氏はこの制御をAIで行うようにしたpoke-to-driveシステムを考案し、すで特許の仮出願を行っている。そして、この仕組みが「車両の軽量化、トラクションの向上、そして根本的に新しい動きの制御方法」で新たな世界を切り開くと主張している。
ただ、ヘンソン氏の主張にはいくつか心配な点もある。同氏はこのタイヤでトラクションの向上をうたっているが、タイヤのトレッド部分からロッドが飛び出して路面を蹴れば、タイヤ(およびそれが載る車体)には、前方に転がる力と同時に上方向に押し上げる力も加わることになりトラクションがかかりにくくなることが考えられる。また、この動作を連続させて実際に走るタイヤを作ろうとすれば、連続して異なるロッドを押し出し続けるようなアクチュエーター制御や、それを駆動するための動力をどこかから供給しなければならない。
さらに、所狭しと配置された数十~数百以上のロッドは、舗装路はともかく、山道や河川敷など、ゴツゴツした石などが落ちている未舗装路の走行には向いていないように思える。もし、ロッドが折れたり変形したりすれば、そのロッドが周囲のロッドに干渉してうまく機能しなくなる可能性もありそうだし、高速走行すれば遠心力でロッドが飛び出したりしないかも気になる。それでなくとも、構造が複雑かつ可動部品が多くなれば、重量も製造コストも嵩むはずで、コンセプトは面白いものの、実用化へのハードルはかなり高くなってしまいそうだ。
とはいえ、ロッドの出し入れ制御が柔軟にできるのであれば、階段やある程度の段差を乗り越えられる様になりそうにも見え、一般的な自動車向けとは違う場所で、SurfacePlanタイヤが活用できる可能性はあるかもしれない。
現時点では、このタイヤはまだインスピレーションからコンセプトに発展した段階でしかない。ヘンソン氏はこのコンセプトに最適な用途を知る誰かの目に止まり、この先の開発と商品化に協力してくれるほど魅力的なアイデアであることを願っているという。Wefunderのクラウド投資プログラムは、まさにこうしたイノベーションの卵を発見するためのプラットフォームであり、もしかしたら、何年か後にSurfacePlanが意外な形で革新的なタイヤへと発展するきっかけになるかもしれない。
- Source: SurfacePlan Wefunder
- via: New Atlas