世紀の大発見になるか見過ごすかは予算しだい
NASA、火星に「古代生命の発見に最も近い証拠発見」。数十億年前の岩に微生物の痕跡?

NASAは、2024年に火星探査車Perseveranceが採取した岩石サンプル中に、微生物が存在した可能性を示す痕跡を発見したと発表。この発見に関する研究論文は9月10日にNature誌に掲載された。
発見されたサンプルは、Perseveranceが2021年2月着陸して以来探査を続けているジェゼロクレーター内の、ネレトヴァ渓谷と呼ばれる一帯の泥岩から発見されたもの。地球外生命体そのものが発見されたわけではないが、「赤い惑星における潜在的な生命の痕跡の特定は画期的な発見であり、火星に関する理解を前進させるものとなるだろう」とNASAのリンジー・ダフィー長官代行は記者会見で述べた。
また、NASAの惑星科学部門火星探査担当上級科学者、リンゼイ・ヘイズ氏は、「ここで説明しているのは潜在的なバイオシグネチャー、つまり生物起源の可能性のある特徴的な元素・分子・物質・特徴であることに注意してほしい。生命の有無を結論付けるには、さらなるデータや研究が必要だ」と付け加えた。
今回注目されているサンプルは、上記ネレトヴァ渓谷の北の端にある「Bright Angel」と呼ばれる地層からPerseveranceが採取した「Cheyava Falls」と名付けられた岩石だ。

この岩石の表面には「ケシの実」や「ヒョウ柄」に似た特徴的な斑点がみられた。その黒い斑点は数mmサイズの塊であり、黒い輪に囲まれている状態だ。この特徴的な斑点の部分をPerseveranceに搭載されている分析機器で調べたところ、鉄とリン酸塩が含まれていることがわかった。これらの物質はいずれも、地球上では生物の活動による化学的プロセスから生じ得るものだという。
Perseverance科学チームのひとりで豪クイーンズランド工科大学の宇宙生物学者であるデイヴィッド・フラナリー氏によれば、この斑点模様は、地球上で発見される、地中に生息した微生物の化石の痕跡とよく似ているのだという。
これを受けて研究者らは、このサンプルを採取した場所をさらに調べることにした。そして2024年7月21日新たに採取した「Sapphire Canyon」と名付けたサンプルからも、生物に関連する可能性がある化学反応の痕跡が見つかったことから、チームは「Bright Angel」の岩石群を徹底的に詳しく調べ、「リン酸鉄と硫化鉄鉱物に富む微小な結節と斑点」を特定した。これらの特徴は有機炭素と関連しており、「堆積後の低温条件下で形成されたとみられる」という。

ここで特に注目すべきなのは、鉱物内にこれらの特徴が形成されるプロセスで、特定の「酸化還元反応」が生じた可能性を示す結果がみられたことのようだ。酸化還元反応は、二つの物質間で電子が移動して起こる化学反応であり、この反応で一方が酸化し、もう一方が還元される。
そして「この有機炭素は、堆積後の酸化還元反応に関与し、発見されたリン酸鉄と硫化鉄鉱物を生成したようだ」と研究著者らは述べている。なお、地球上ではこの話と同じように微生物が鉱物と何らかの作用をすることはめずらしくなく、たとえば南極の非常に低温かつ無酸素の湖で、硫酸塩(酸化硫黄原子を含む)を硫化物(還元硫黄を含む)に変換する様子が観測されているのだそうだ。
つまり、現時点では火星に微生物が存在したと断言はできないが、「もし古代の火星に微生物がいたなら、ジェゼロ・クレーター内の湖で硫酸塩鉱物を還元して硫化物を形成していた可能性がある」と言えるわけだ。なお、論文中で研究者らは、発見された岩石中にみられる緑色の斑点には藍鉄鉱(ビビアナイト)が含まれる可能性も示唆しており、これが火星で起こったかもしれない特定の酸化還元反応を、具体的に解明するヒントになる可能性も指摘した。
ただ、この可能性を検証するにはひとつ大きな問題がある。Perseveranceが採取したサンプルに生命の証拠があるかを最終確認するには、そのサンプルを収めた容器を地球に持ち帰って詳しく調べる必要があるのだ。
だが、火星サンプルリターン計画はトランプ政権による優先順位の変更や資金提供の中止を勧告に直面している。非常に複雑なミッション計画であることから、計画全体が宙に浮いた状態になっている。
また、すでにPerseveranceが現地でできることの限界に近づいているとも研究者は警告している。このミッションに携わるNASAジェット推進研究所の科学者ケイティ・スタック・モーガン氏は、Perseveranceが搭載する分析機器は火星サンプルリターンを見据えて構成されたものであり、「計画ではPerseveranceの機器が想定しているのは生物の痕跡を探すところまで。さらに詳細な研究はそれを地球に持ち帰り、地球上の最新の機器でサンプルに含まれる謎を解明するという構想だった」とした。
今回発表された研究によって、火星にかつて生命が存在した可能性が非常に高まったように思える。もし、「火星から持ち帰ったサンプルを実験室で分析し、地球外生命が存在したことが確定できれば、それは世紀の大発見となるだろう。
だが、そのためには(もちろん計画の見直しによるコスト削減も必要だが)米国政府が火星サンプルリターンを実現する方向に考えを改めなければならない。
- Source: Nature News And Views
- via: Space.com ABC