転ばぬ後ろのジャイロ
平衡障害者が歩けるようになる? バックパック型転倒防止ジャイロで歩行能力を大きく改善

小脳の機能不全や内耳、手足の神経異常による平衡障害・運動障害を持つ人は、ふつうに立って歩くことすら難しい場合がある。そのような場合、多くは移動の際に杖や歩行器などを使って自らの動きを補助しなければならず、場所によっては周囲の協力も必要になる。なにより、使用者自身が、歩行器を使うことで周囲から偏見の目で見られるのを恐れることが多いという。
そこで、オランダ・デルフト工科大学とラドバウト大学の研究者らは、運動失調症向けに、背負うことで起立した状態から体が倒れにくくなるバックパックを開発した。この研究は8月27日付でnpj Roboticsに掲載されている。
このバックパックには、2つのフライホイールを使ったジャイロスコープが入っており、使用者の体が意図しない回転運動を始めたときに、その回転を減衰させるような動きを加える。もちろん、ジャイロがあっても転倒を完全に防止できるわけではないが、転倒する前にバランスを取り戻すための時間稼ぎができるほどには速度を低下させられるという。

研究者らは、14人の被験者を使ったテストを実施。ジャイロを動作させた状態、停止した状態、そしてジャイロを動作させてはいるものの、効果を発揮しないように設定したもの(プラシーボ効果を除外するため)など、5種類の歩行バランステストを実施した。
その結果、被験者の多くはジャイロを動作させた状態で使用したときに、平衡能力向上を最も顕著に示した。研究者は被験者の安定性が明らかに向上し、直線を歩く能力が大幅に向上したと述べている。
ただし、一部の被験者はジャイロは動作しているものの効果のない状態であるはずの場合でも、ある程度効果を発揮した。
この結果については、やはりプラシーボ効果である可能性が考えられる。だが、おそらくはダミーとして背負った6kgの重量によってより体が安定した可能性がある。そのため、研究者らはジャイロの軽量化を進めつつ、使用中に発生する音の縮小にも取り組んでいくことを考えている。
いつの日か、このバックパック型ジャイロが実用化されれば、平衡障害・運動障害を持つ人たちはいまよりも日常生活の質が大きく改善され、歩行器のような周囲の目も気になる補助器具を使わずに、イベントやパーティなどに参加できるようになるかもしれない。