サビーネ・シュミッツに敬意を表して

フォードの「電気配送バン」、ニュルのタイムアタックで“米国車最速タイム”を記録

Munenori Taniguchi

Image:Ford

独ニュルブルクリンクサーキット・北コースで、フォードの配送バンが、シボレー・C8型コルベットZR1Xの記録したタイム6分49秒275を破る、6分48秒393を記録した。

全長20.8km、その大半が森林のなかにあるニュル北コースは、コース幅が狭かったり、起伏が激しかったりする過酷なコースレイアウトによって、「Green Hell」とも呼ばれている。そして、過酷であるがゆえにレースの開催だけでなく、市販車のテストコースとしてもよく知られた伝統的なコースとなっている。

たとえばアウディは、このコースで毎年開催されるニュルブルクリンク24時間レースで5度の総合優勝を果たしたGT3カー「R8 LMS」を記念して、2020年に50台限定の記念モデル「R8 Green Hell」を発売した。また、日産はGT-Rの開発でよくこのコースを使用しており、まだスカイラインGT-Rと名乗っていたR34シリーズの最終モデルに「Nurモデル」を追加していた。このモデルは当初300台限定とされたが、予想以上の売れ行きに急遽限定数を500台に増やし、それでも足りず最終的に1000台も売ってしまったことでも知られている。

話を元に戻すと、今回その伝統の難コースをとてつもない速さで駆け抜けたのは、フォードのトランジットと呼ばれる配送用バンだ。これがもし本当にただの配送バンなら、米国車最速記録を最近塗り替えたC8シボレー・コルベットZ1RXよりも速く走ることなど到底不可能だったと断言できるが、今回タイムを記録した「Transit SuperVan 4.2」は、実は米国の伝統的ヒルクライム競技「パイクスピーク・ヒルクライム」で優勝した、怪物マシンだった。

Transit SuperVan 4.2にはエンジンがなく、完全な電気自動車となっている。モーターはエンジンと異なり、加速時にすぐに最大のトラクションを発揮できるため、加減速の激しいコースでは有利となる。さらに、このマシンの出力は2028PS(2000hp, 1492kW)という、とてつもないもので、この特性を生かして2023年にはアメリカのヒルクライム競技「パイクスピーク」でも優勝を飾っている。さらに、オーストラリアの名コース、バサーストの最速記録も保持している。

そして、このマシンのコクピットに収まったのが、ニュルブルクリンク北コースのラップレコード保持者であるロマン・デュマだった。デュマは2019年にもフォルクスワーゲンが製作した電気自動車「ID.R」で、EV最速記録(当時)を記録している。

Image:Ford

フォードはこのTransit SuperVan 4.2を誇りに思うと述べ、今回の挑戦が企画された理由が、かつてニュルの女王と呼ばれ、英BBCの番組『トップ・ギア』でMCのジェレミー・クラークソンがドライブするジャガーを、フォード・トランジットで打ち負かした女性レーシングドライバー、サビーネ・シュミッツに敬意を表するためだったことも明らかにしている。なおシュミッツは2016年に同番組の新MCに起用されたが、その翌年に癌がみつかり、2021年に死去している。

フォードは、「フォード・トランジットをニュルブルクリンクで限界まで走らせることが、我々のなかの一部の者にとって常に夢だった」とコメントした。

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