【連載】西田宗千佳のネクストゲート 第5回

高級機受難の今、二つ折りスマホの行く末は?サムスンとシャオミの異なる戦略

西田宗千佳

Image:Karlis Dambrans/Shutterstock.com

そろそろ今年も、秋の新スマートフォンが出揃う時期が近づいてきた。例年、大物であるiPhoneの前に発表し、口火を切るのはサムスンだ。

サムスンがこの時期に発表するのは「二つ折り系」になってきており、今年も同様に第4世代となる「Galaxy Z Fold4」と「Galaxy Z Flip4」が発表された。

それを追うように、シャオミも二つ折りのデバイスを発表した。「Xiaomi MIX Fold 2」だ。こちらは現状、日本での発売がアナウンスされていないのは残念だが、魅力的な製品ではある。

「Xiaomi MIX Fold 2」

一時に比べると話題は減った気がするが、二つ折りのスマホは、これからどうなっていくのだろうか? 2社の新製品から考えてみよう。

サムスンの二つ折りは外見変化より「継続的価値をアピール」

サムスンとシャオミ、それぞれが出した二つ折りスマホは、進化の方向性が異なると筆者は考えている。

もっと正確に言えば、ディスプレイを中心とした「デバイスの進化」は継続中だが、その上で「どのような機器を作るのか」という考え方が変わってきていると感じる。

わかりやすいのはサムスンだ。Galaxy Z Fold4もGalaxy Z Flip4も、パッと見のデザインや機能が、昨年モデルの「Galaxy Z Fold3」「Galaxy Z Flip3」と大きく変わっているわけではない。

「Galaxy Z Fold4」

もちろんよく見ると、細かな部分の進化はある。「Fold」は本体の縦が若干小さくなり、横に少し伸びている。さらに1mm薄型化した。カメラもメインの広角が1200万画素から5000万画素に、望遠ズームも光学2倍から3倍へ変わった。

「Flip」もサイズが若干変わっており、バッテリーは3,300mAhから3,700mAhに増えている。そしてプロセッサーはどちらも、Qualcommの最新世代である「Qualcomm Snapdragon 8+ Gen 1」になった。

これらは、いま手に入りやすい「最新のデバイス」を使うという妥当な変化であり、驚くような変化というわけではない。サムスンもそれはよくわかっているだろう。あえてデザインを大幅に変えることはしていない。それはすなわち、「FoldやFlipのもたらした価値観をそのままに、さらにアピールする」方向を選んだということなのだろう。

もちろんそこには、高価なデバイスを毎年大幅に再設計できない、という事情もあるだろう。このあたりは、スマホ普及期とは大きく違う。特に今年、サムスンが「継続して同じ価値観を提供する」ことになった理由としては、二つ折りスマホに取り組むメーカーが増えていないことも影響しているのではないか、と予測できる。

「Galaxy Z Flip4」

二つ折りスマホの軸となるディスプレイパネルを製造するメーカーも増えているわけではなく、コストも劇的には下がっていない。高価な二つ折りスマホに、どんどん参入メーカーが増えている状況ではないわけだ。

だとすると、市場のリーダーであるサムスンとしては、自分たちが先行して築いた価値を堅持しつつ、あえてハイエンドな二つ折りを選ぶ人々を、ゆっくり増やしていく戦略を採ったのだろう。昨年発売のFold3/Flip3は非常に良くできた製品だったから、その考えも良くわかる。

20万円を超える高価な製品だけに、すでに前機種を購入した人がすぐに買い替えることは難しい。その点を考えても、「まだ二つ折りに振り向いてくれない人を、継続的な変化で振り向かせる」というのが、今年のサムスンの作戦といえるだろう。

そして、特にFold4については、課題が「大画面を活かす操作性」に集中していたので、大画面向けの「Android 12L」を採用して改善を進めた。ただ、時期こそはっきりしていないが、現行モデルのFold3にもAndroid 12Lは提供予定とのことで、これも継続的な基盤整備といえるかもしれない。

シャオミはデザインを変えて「薄さ」を強調

一方シャオミは、今年のMi Mix Fold 2で二つ折りの第二世代となる。こちらはサムスンと違い、サイズなどを比較的大きく変えている。特に注目なのは、厚みを7.6mmから5.4mm(ともに開いた場合の最薄部)へと大幅に薄くしていることだ。

シャオミの発表会動画より。「Mi Mix Fold 2」の薄さを強調している

薄さを強調するのは、サムスンなど他社の二つ折りスマホとの差別化が目的だろう。シャオミは二つ折り市場において、まだまだ存在感が薄い。そこでハード的な先進性をより強調することで、「プレミアムなスマートフォンはこういう要素をもつ」というアピールを進める狙いがあると思われる。

シャオミの場合、市場的には中国が中心となり、サムスンほどワールドワイドでの販売数量があるわけではない。だから逆に言えば、「中国市場でハイエンドを求める人を狙った結果」が、Mi Mix Fold 2の進化といえるのかもしれない。

共通する「ヒンジ」の変化。ハイエンドスマホへの逆風にどう対応するか

この進化を支える1つの要因となっているのが「ヒンジの進化」だ。Mi Mix Fold 2の場合には、折りたたんだ部分の構造を見直すことで、閉じても隙間ができない形となり、さらに放熱機構などを工夫することで、全体的な薄さを向上させている。

ヒンジについてはGalaxy Z Fold4も同様で、改良に伴って、折りたたみ部の薄型化と全体的な軽量化に寄与している。

シャオミの発表会映像より。ヒンジ構造を見直すことで、折りたたんだ時の隙間を減らし、持ちやすさを向上

まだ成長途上の製品だけに、そうした細かな部分の進化の余地が大きく、結果として、メーカーごとの差異も大きなものになっているわけだ。こうした試行錯誤は高コストな製品だからできる、という部分もあるのだが。

残る課題はハイエンドスマホ市場の退潮だろうか。ハイエンドスマホの価格は高くなり続けているが、一方、世界的に高いものがどんどん売れているかというと、そうではない。

米調査会社Strategy Analyticsが7月28日に発表した、メーカー別スマートフォンの出荷台数に関する調査によると、出荷台数は前年同期比7.3%減の2億9100万台。調査期間はサムスン「Galaxy S22」シリーズの出荷時期にあたり、同社製品の売れ行きは好調であったものの、アップル・サムスンと並び、ハイエンドを牽引してきた中国系企業が軒並み業績を落としている。

米調査会社Strategy Analyticsによる大手スマートフォンメーカーの販売状況。今年前半は軟調だったが、後半どうなるのかが気になる

ここから景気が回復するという見方をしている人は稀で、インフレに伴うリセッションの危険性を指摘する声の方が大きい。日本の場合には円安の影響もあるから、ハイエンドモデルへの逆風はさらに強くなるだろう。それだけに、余裕がある人に価値が高いデバイスをアピールし、選んでもらうことが重要になる。

二つ折りスマホは高価ということもあり、なかなか普及が進んでいないが、単に「変わったもの」としてではなく、PC並みの価格を支払ってでも使う価値があると認知させることが、普及の条件になるだろう。

筆者もGalaxy Z Fold3 5Gを昨年購入して使ってきたが、もうすこし便利になって、価値が高くなってくれることを期待している。そのためには、OSのアップデートによる操作性向上や、アプリの充実がカギになると感じている。

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