虐待行為を見て喜ぶ視聴者がいるのも問題
仲間からの虐待をネタにしていたストリーマーが配信中に死亡、フランス政府も問題視

オンラインカジノのSteak.comの幹部らが2022年に設立したライブ配信プラットフォームKickで、8月18日に配信中のフランス人ストリーマー、ジャン・ポルマノヴェことラファエル・グレイヴン氏が死亡する事故が発生した。
グレイヴン氏は通常、自宅アパートで数人の友人とともにライブ配信をしていたが、その多くの場面では、グレイヴン氏が一方的に仲間たちから過激ないたずらや暴行といって差し支えない仕打ちを受けることが、笑いのネタになっていた模様だ。
地元検察当局はグレイヴン氏の死因について捜査を行い、19日時点では「何も不審な点は見当たらない」としつつ、遺体を検死解剖に回す指示を出した。
一部報道によれば、事故発生時は10日間連続のマラソン配信を仲間とともに行っていたが、グレイヴン氏にはその間、睡眠をとってはならないとの指示が与えられていたという。
フランス政府の人工知能・デジタル技術担当大臣代理であるクララ・シャパズ氏は、この事故に関する司法捜査が進行中であるとし、過去何か月以上にもわたって、ライブ配信中にグレイヴン氏がしばしば受けていた屈辱的な虐待による暴力の数々を「絶対的な恐怖」と表現した。
シャパズ氏はこの問題をフランス政府の視聴覚およびデジタル通信規制局(Arcom)および、違法・有害コンテンツ報告システムPharosに報告したと述べた。また、Kickの管理者にも説明を求めたことを明らかにし、さらに「違法コンテンツの拡散についてオンラインプラットフォームに責任を負わせることは、もはや選択肢ではなく、法律で定められている。このような過失は最悪の事態を招く可能性があり、フランス、ヨーロッパ、そして他のいかなる場所においても許されるものではない」と述べている。
政府や司法当局が動き出したことを受けて、オーストラリアを拠点とするKickも、サービスのコミュニティガイドラインを含め、グレイヴン氏が死亡した映像をめぐる状況を「緊急に調査検討」しているとコメントした。
Kickの広報担当者は英BBCに、同プラットフォームには「クリエイターを保護するために設計された」ガイドラインがあり、「プラットフォーム全体でこれらの基準を維持することに尽力している」と主張している。
なお、Kickの利用規約には、ストリーマーが「自傷行為や過度の暴力を含む」配信や、「違法なコンテンツ、あるいは有害または違法な活動を助長するコンテンツ」を取り上げるのを禁止する条項がある。
フランスの児童高等弁務官サラ・エル・アイリー氏は、この事故について「恐ろしいことだ」と述べ、「子どもたちが暴力的なコンテンツにさらされないようにするため、プラットフォームにはオンラインコンテンツを規制する大きな責任があります。保護者の皆さんにも、細心の注意を払うようお願いします」とXで呼びかけている。
伝えられるところでは、グレイヴン氏はかつてはTwitchで配信を行っており、そこで現在の仲間である3人とともにグループでの配信を始めた。グループ内ではグレイヴン氏ともう1人が常になんらかのいたずらなどを仕掛けられるスケープゴート的役回りで、グレイヴン氏の独特なリアクションの面白さによって人気が拡大したという。現在ではKickで20万人、TikTokで58万人を超えるフォロワーを獲得。活動しているソーシャルメディアすべてを合計すると100万人以上のファンを抱えていた。
しかし、欧州の大手メディアであるRTLによれば、46歳になるグレイヴン氏は、配信では高圧洗浄機やペイント弾で撃たれたり、仲間に殴られたり、首を絞められて窒息させられそうになったり、健康に害のあるものを食べさせられたりと、ジョークの域をとうに通り越した行為に何か月も晒されるうちに、幾度も神経衰弱状態になっていたという。死亡の数日前には、母親へのメッセージに「彼らのひどいコンセプトに閉じ込められている」と胸の内を明かしていたとのことだ。
配信においてエスカレートする一方のいたずらは、昨年12月にも一度警察沙汰になっている。検察当局は、配信グループのなかでいたずらをしかける側の自称ナルトと、サフィーヌ・ハマディに対し「社会的弱者に対する集団での意図的な暴力」容疑で捜査を行ったが、後に2人は釈放されている。
Kickは2022年にサービスを開始したばかりの新興ライブ配信プラットフォームだが、ストリーマーに対しては、収益配分が配信者95%、プラットフォーム5%と、非常に分が良いことで知られる(YouTubeは配信者70%、プラットフォーム30%)。
だが一方で、このプラットフォームが、オンラインカジノサイトのStake.comの幹部らが出資して設立されたこと以外にはあまり情報がない。
グレイヴン氏の死因が度重なる虐待行為の結果なのか、偶発的なものだったのかは検死の報告が出るまでわからない。しかしこの事故は、(やや方向性が異なるものの)YouTubeやその他のストリーミングプラットフォームでもたびたび問題になる迷惑系配信者などと同様に、特に中身もなく過激さだけで視聴数(=収益)を稼ごうとするうちに人間性や道徳的なものの見方を失っていく人々が、どうしても出てきてしまう可能性があるところに共通点があるように思える。
そして、それを見てコメントで囃し立てたり、投げ銭をする視聴者がいるというところや、配信中にだれかが死ぬまで、虐待行為のライブ配信を止めさせなかったプラットフォームの姿勢にも、違和感を感じずにはいられない。
ちなみに、グレイヴン氏の死亡報道を受け、Kick配信者のなかでも特に著名なアディン・ロス氏とラップシンガーのドレイクが葬儀費用を負担すると申し出ている。ロス氏は「これ本当に酷く吐き気がする出来事だ。この件に関わった者は誰であれ、厳しい罰を受けるべきだ。このことについてドレイクと話したばかりだが、葬儀費用をドレイクと私で負担したいと思う。これで彼の命が戻るわけではないが、私たちにできる最善のことだ。ジャンの家族にお悔やみを申し上げる」とコメントした。
- Source: BBC RTL New York Post
- Coverage: Le Monde