もし大地震で瓦礫に挟まれても、量産型サイボーグゴキブリが助けに来ます
サイボーグゴキブリ量産システムが研究室で稼働。1匹あたり約1分、手作業の30倍速

シンガポール・南洋理工大学(NTU)の研究者らは、世界初という自動昆虫サイボーグ化システムを開発した。このシステムにより、実験用のマダガスカルゴキブリの遠隔操作するための「バックパック」を短時間で装着でき、サイボーグゴキブリの量産が可能になる。
研究室における実験用のサイボーグゴキブリを作るのには、これまでの手作業の場合、麻酔をかけたゴキブリの背中に電子基板を備えた「バックパック」を装着し、所定の位置に電極を埋め込む一連の作業に、長くて1時間ほどの時間を要していた。
それが、今回のAI搭載の自動化システムではコンピュータービジョンと独自のアルゴリズムを用いて、ゴキブリの背中の電極の埋め込みに最適な解剖学的部位を特定でき、1匹あたり68秒でバックパック装着を完了させられるようになった。

研究者らは手作業でサイボーグ化したゴキブリと、新システムによる量産型サイボーグゴキブリに、S字経路追跡や障害物ある地形の探索といった遠隔操作タスクを行わせ、その動作が同等であることを確認した。
研究を率いるNTU機械・航空宇宙工学部の佐藤裕崇教授は「この技術革新によって、現実のシナリオにおいて大量のサイボーグ昆虫を配備するという目標がさらに現実味を増した」と述べている。
サイボーグゴキブリは、バックパックからの電極が送出する電気的刺激を通じて、ゴキブリの足の動きを制御し、指示する方向へと動かす。量産型ゴキブリに使用されるバックパックは、従来よりも25%低い電圧で精緻な制御が可能になったとのことだ。
実験室でのテストでも、新バージョンのサイボーグゴキブリは70度を超える急旋回をしたり、操作コマンドに応じて最大68%の速度低下を示すなど、従来はできなかった制御が可能であることが確認された。
さらに、4匹編成の量産型サイボーグゴキブリ部隊を障害物だらけのテストエリアに放ったところ、10分あまりでエリア全体の80%以上を把握し、狭い複雑な経路をナビゲートする能力も示したという。
これらの能力を利用し、災害現場で瓦礫の下に閉じ込められた生存者の捜索を従来よりも素早く行えるようにすることが期待されている。実際、今年3月には3000人以上が亡くなったミャンマー地震(マグニチュード7.7)の際に、シンガポール民間防衛隊(SPDF)とともに10匹編成のサイボーグゴキブリ部隊が現地へ派遣され、Operation Lionheart(OLH:ライオンハート作戦)の一員として都市捜索救助活動に従事した。
これは、サイボーグ昆虫が人道支援活動に初めて使われた事例となり、従来はアクセスが困難だったり、バッテリー容量の問題で動作時間が足りなくなったりしていた被災地での生存者発見に、昆虫型ロボットが利用できる可能性が実証されたとNTUは述べている。

また、佐藤教授は今回の「現場への導入で得られた教訓を踏まえ、サイボーグ昆虫の量産と導入を支えるインフラの構築が不可欠になってきている」と今後の課題を示した。
研究チームは今後、サイボーグゴキブリの量産システムを改善し、さらに地元のパートナーと協力してその有効性と産業利用の可能性について検証していく予定だ。