これはカッコ良い…か?
革新的なハンドル機構とF1風ハイマウントウィングを備える変態バイク「Kejashi」

バイク好きと言えば、大体はツーリングに出かけたり、二輪レースに出場したり、またはそれを観戦したりするのが趣味の人たちのことを指す。だが、オーストラリア・アデレード在住のメカニック、ケント・シリトー氏は、既存のバイクの常識から抜け出し、技術革新をもたらすような独自のバイクの開発にその情熱を注いでいる。
シリトー氏は、ホンダCBR125Rで走行中にふと、一切の制限なしに、サーキットのラップタイム短縮だけを目指すバイク競技があったら…と考えた。そのときはすぐに、極限までバイクを傾かせてコーナリングしていくMotoGPマシンが、すでに二輪車の限界までスピードを高めているから、それが最速なのだろうと思った。
しかしシリトー氏は、そこで「もしかしたら、極端にバイクを寝かしてコーナリングすることこそが、バイクの発展を阻んでいるのではないか?」とも思ったという。
その後数週間、シリトー氏は頭の中で様々なアイデアとその可能性を考えた。なぜF1マシンはMotoGPマシンよりはるかに重く、車体を傾けたりしないのにはるかに短いラップタイムを刻めるのかと考え、その思考はダウンフォースの重要性に移っていった。
ダウンフォースとは、レーシングカーが装備するウィングなどの構造物によって生成される、車体を下方向、つまり路面に押さえつける力のことだ。ダウンフォースが強力であるほど、コーナーを旋回する際にタイヤの接地力が高まり、高速コーナリングが可能になる。
ただし、ウィングなどで発生するダウンフォースは空気抵抗を利用しているため、強くしすぎると直進時の速度が上がりにくくなる弊害もある。レーシングカーは、サーキットごとに最適なダウンフォース量になるよう、その都度セッティングを変えて走行している。
実は、近年はMotoGPなどのレース用バイクにも小さなウィングレットと呼ばれるパーツが装着され、そこからダウンフォースを得るようになっている。だが、常に車体が水平なF1マシンとは異なり、バイクはコーナリング時の遠心力に対処しつつ高速でコーナーを抜けるために、極限まで車体を傾斜させる。その傾斜角は、最大で65度前後にもなるという。もうこれは、ほとんど横倒しになった状態で、ライダーは膝や、時には肘までも路面に擦りながらコーナーを駆け抜けているのだ。
ところが、このバイクの傾斜角によっては、ウィングレットの生み出すダウンフォースが足かせになってしまうことがある。というのも、ウィングレットはバイクに固定されているため、車体が直立している直進時は下向きの力を発生させる。しかし、コーナリング時に車体の傾斜角が45度を超えると、発生する力が下よりも横方向(コーナーの外側方向)に強く作用するようになってしまう。そのためバイクのウィングレットは最小限のサイズでしか装着されていない。
ではもし、バイクでもウィングを水平に保てたら? コーナリング時にグリップが必要なのは前輪であることから、シリトー氏はバイク前半部で、常に水平になるウィングを装着する方法を考えた。
ある程度アイデアが固まり始めた段階で、次はアイデアを実践に移すことにした。まず、手元のCBR125Rからエンジンとハンドル~前輪を取り払い、独自にカスタムした50馬力の2ストロークダートバイク用エンジンを搭載。前輪とハンドル部分には、非常に特異な機構をもつ、ダウンフォース生成ステアリングシステムを組み上げた。
通常のバイクは、直進中でもコーナリング中でも、前輪と後輪の位置はほぼ車体の中心線から動かない。ところがシリトー氏が考案したステアリングシステムは、前輪フォーク部とハンドルをステアリングヘッドから切り離して、フェアリング部分から伸びるトレーリングアームに取り付けられている。この仕組みにより、たとえば左にコーナリングを開始すると、ハンドルから前輪部すべてが、バイクの中心線から大きく右側(コーナー外側)にスライドするような格好になる。
シリトー氏いわく、バイクの中心線よりも外側に前輪が移動することで、車体全体としてはコーナーでの安定性が高くなり、極端に車体を傾斜させる必要がなくなるのだそうだ。
また、ハンドル操作に連動して左右に傾くウィングもトレーリングアームから上に向かって伸びるビームに取り付けられている。このウィングシステムは、直進時はビームが垂直にライダーの頭よりも高い位置にF1風のウィングを水平に掲げるようになっている。だが、コーナリング時は外側に移動するハンドルの動きに連動してウィングが傾斜し、常に水平に近い状態を保つカラクリになっている。



ウィングシステムにより、このバイクは時速150kmで約60kgのダウンフォースを発生するという。シリトー氏は、高速走行すると、「空気抵抗を感じると同時にフロントのサスペンション少し沈むのがわかる」と述べている。
ただ、いまのところ評価ができていないのがコーナリング時のダウンフォースだ。シリトー氏が主に走るのはオーストラリアの田舎道で、未舗装であることが多い。ダウンフォースを感じるほど高速でコーナリングする機会がないのだ。
とはいえ安定性に関しては、通常の車体よりも安定しており、「コーナーを曲がる時に力強く押し出されるような感覚」が得られるという。
シリトー氏は今後の目標として、バイクをサーキットに持ち込んで走行してみたいと述べている。また、直進時の抵抗感を軽減させるため、F1マシンのDRSのように、ウィングエレメントを寝かせて空気抵抗を減らすことも考えているという。このシステムが完成したとき、本当にサーキットにおけるラップタイム短縮に効果を発揮するのかどうか、非常に気になるところだ。
ちなみに、このバイクと特殊な機構に付けられた「Kejashi」という名は、単にシリトー氏のフルネームであるKent James Shillitoeを短縮した造語で、別に特別な意味を持つわけではないとのことだ。
- Source: New Atlas Australian Motorcycle News